クドリャフカの順番 米澤穂信

クドリャフカの順番 米澤穂信

 

 神山高校1年生の折木奉太郎は、姉の勧めもあり、同級生である千反田える福部里志伊原摩耶花たちとともに古典部に入部する。奉太郎は自身の身の回りで起こる不思議な事柄の謎を解いていき、いくつかの事件を解決する。そんな中、学校での文化祭が始まるが…。

 

 神山高校の文化祭が始まる。奉太郎たち古典部は文集「氷菓」を販売することになるが、摩耶花のミスで30部発注する予定が200部発注してしまい、古典部の皆はそれを売り尽くすために奮闘することになる。

 えるは壁新聞や校内ラジオ放送で宣伝してもらうため、里志はクイズ大会や料理コンテストに出場し「氷菓」の宣伝をすることに。奉太郎は教室で店番をしながら「氷菓」を売る。摩耶花は漫画部での仕事が忙しく古典部のためには動けなかった。

 里志の宣伝が少し効果を発揮するが、「氷菓」の売り上げはそこまで伸びない。奉太郎は店番をしながら、なぜかわらしべプロトコルにハマり、様々なものを入手して行く。摩耶花は漫画部で先輩と作品について口論になってしまう。

 そんな中、文化祭に参加している各団体でつまらないものが盗まれ、十文字を名乗る犯人からのメッセージが残されるという事件が起こり始める。えるや里志がその情報を手に入れ、奉太郎に相談、えるの一言でまたも奉太郎はその事件に絡んで行くことに。

 やがて奉太郎は事件がアイウエオ順で起きていることに気づく。そして古典部もそれに含まれることに気づき、これを「氷菓」売り上げのために使うことを考え始める。

 しかし8番目となる「ク」の部活では事件が起こらず、なぜか次の9番目「ケ」で事件が起きる。一方、奉太郎は姉の助け?で昨年文化祭で販売されたある漫画を入手、その中のあとがきに今回の事件のヒントを見つける。

 そして文化祭最終日、10番目のターゲットとして古典部が狙われるが…。

 

 シリーズ3作目。前の2作品がいずれも面白かったため、当然のように本作を読むことに。

 本作はこれまでの作品の中で最も凝った作りとなっている。最初は文集「氷菓」を200部売るために古典部の皆が奮闘する物語なのかと思って読み進めたが、途中「十文字」事件が起きる。これがクリスティのあの名作のパロディのような展開。これだけでも面白いのに、なぜか奉太郎の身の上で「わらしべプロトコル」が発生、さらには200部問題?の当事者である摩耶花は「氷菓」販売のために動けず、漫画部で先輩と漫画のことで口論を始めてしまう。

 一見全くバラバラに見えていた事柄が徐々につながりを見せていく展開は非常に面白かった。奉太郎のわらしべプロトコルは事件と無関係で、料理コンテストの小麦粉で終わりだと思ったらまだ続くし、結果的には摩耶花が問題としていた漫画となり、奉太郎はそれを読むことで事件解決のヒントを得るし。

 「十文字」事件の犯人?の動機は理解できるが、本作のような事件を起こす必要があったのかと思うとちょっと疑問。だがそれも犯人の「口で言えるなら、言ってるよ」ということなのだろう。高校生というのは大人になったような気分でいるくせに、本当に大事なことを言えない年頃だからなぁ(笑

 

 上記した1点だけちょっと残念に思えたが、全体的には1作ごとに面白さが増しているシリーズだと感じる。こりゃアニメにもなるしそれがヒットしたのもわかる気がするなぁ。

 

男はつらいよ 奮闘篇

●727 男はつらいよ 奮闘篇 1971

 何度も見ている寅さんシリーズ、いつものスタイルではなく、ざっくりとしたあらすじと見せ場を一緒に。

 

 冒頭、OP前

 いつもの夢シーンはなし。集団就職のため上京しようとしている子供を見送るために駅にいる親たちの中に寅さんもおり、寅さんは彼らに激励の言葉を送る。列車が発射の時刻となり、寅さんは親たちと一緒にホームから彼らを見送る。列車が発車した直後、寅さんは自分のその列車に乗るんだった、と列車を追いかける、というオチ。

 シリーズ第7作とシリーズの序盤のためか、まだ夢シーンが定番となっていないと思われる。寅さんのナレーションも珍しい。しかし本作のこの集団就職する学生たちのシーンは、本編で登場するマドンナ花子と似たような立場であるため、緩い伏線となっているのかもしれない。

 

 OP

 これも定番とは異なり、江戸川の風景のみが流される。河川敷を歩くカップルやスポーツをする学生など。寅さんは登場しない。

 

 

 OP後、とらや 寅さんの母お菊が訪ねてくる

 とらやにハイヤーで寅さんの母親お菊が訪ねてくる。その噂はすぐに広まり、帝釈天では御前様と娘冬子がその話をしていた。お菊は1年ほど前に寅さんから「近々嫁をもらう」と書かれた手紙を受け取っており、その時は忙しく会いに来れなかったため、今回寅さんの嫁を見に上京したとのことで、寅さんの嫁に会いたいとおいちゃんやおばちゃんに話す。そこへさくらが満男を連れてやってくる。お菊はさくらを寅さんの嫁だと勘違いしてしまうが、おいちゃんたちが説明をする。そして1年前の寅さんが恋した相手の話をし、結局まだ独り者だと話す。

 その頃寅さんは江戸川のほとりを歩いていた。お菊はハイヤーで帰って行くが、帝国ホテルに宿泊していると寅さんに伝えて欲しいと言い残して行く。お菊を見送ったおいちゃん、おばちゃん、さくらは寅さんのことを話題にし、今度帰ってきた時に出迎える練習をし始める。しかしおいちゃんが悪ノリをしたところへ寅さんが帰ってきてしまう。それを見た寅さんは怒って2度と帰ってこないと言いとらやから出て行こうとするが、そこへ冬子がやってきて母親と会えたのかと尋ね、寅さんはそれに話を合わせたため、とらやに居残ることに。

 

 寅さんの母お菊が第2作以来の登場となる。寅さんが結婚したと思いとらやへやってきたのだが、真実を知りガッカリする。その後寅さんがとらやへ帰ってくるが、おいちゃんの悪ふざけに怒り、旅に出ようとするのはいつものパターン。しかし本作は冬子の登場で寅さんは旅に出ることを断念することに。

 以前のマドンナがチョイ役として登場するのはこの第7作のみだろう。とらやのシーンの前に帝釈天で御前様と会話する冬子を登場させたのは、このとらや前でのシーンのためと思われる。先にも書いたが、まだシリーズの形が完全に出来上がる前の第7作ならでは、のシーンである。

 寅さんが帰ってくる前のおいちゃんの演技、そこへ帰ってくる寅さん。おいちゃんは寅さんが背後にいることに気づき驚く。この一連のシーンは、おいちゃん役森川信の見せ場。初代おいちゃんならではのシーンである。

 ちなみに、お菊の乗ったハイヤー帝釈天前を通るシーンが描かれ、そこに源ちゃんが写っている。その源ちゃんがとらやまでお菊を追ってきており、帝釈天で御前様と冬子が会話するシーンにも写っている。つまり源ちゃんがお菊がとらやへ来たことを二人に知らせたということが丁寧に描かれているのだ。

 

 

 寅さん お菊に会いにホテルへ

 夜、寅さんはタコ社長の工場へ行き、社長が残業をする従業員のために持って来た菓子パンをネタにする。困った博がとらやへ行くと皆が怒っていた。寅さんに母親に会いに帝国ホテルへ行くように話をしたが、寅さんが全く聞く耳を持たないばかりか、真面目な話の最中にオナラをしたためだった。そこへ寅さんが戻ってくる。博が皆をなだめようとするが、おいちゃんは怒りが収まらず寅さんとケンカを始めてしまう。

 翌日、朝日印刷の車で博とさくらは寅さんを帝国ホテルへ連れて行く。さくらがお菊に寅さんの赤ん坊の頃の話を聞くが、寅さんは一人ふざけてしまい、それを見たお菊が寅さんに説教を始める。フラれてばかりの寅さんに問題がある女性でも寅さんの嫁にきてくれるのならば感謝しなければというお菊の言葉に、今度は寅さんが激怒。産みっぱなしで放り出されたことを怒り、びっくりするほどの美人の嫁さんを連れてきてやると豪語し部屋を飛び出してしまう。部屋に残ったさくらはお菊に、寅さんをバカにした言葉について抗議をする。それを聞いたお菊はさくらが寅さんのことを大事に思ってくれていることに感謝し涙する。

 とらやに戻ったさくらと博。おいちゃんから寅さんが嫁を探しに行ってくる、と出て行ってしまった話を聞く。おばちゃんは今回はたった一晩しかいなかったねと残念がる。

 

 とらやでのおいちゃんと寅さんの定番のケンカ。これも初代おいちゃんの時が多いように思うのは気のせいではないだろう。

 そして寅さんはホテルへ。ここでのお菊との丁々発止のやり取りも本作の見せ場だろう。第2作でもあった母と息子のやり取りは本作でも見事である。そして寅さんが飛び出してしまった後、お菊が見せる涙。寅さんやとらやの皆が、いつも本当の気持ちとは裏腹に言わなくて良いことを言ってしまう、というパターンがここでのお菊にも現れている。

 ちなみに、この時の会話、驚くような美人の嫁を連れてくる、という寅さんの言葉がこの後の展開にむづ美ついているのは言うまでもない。

 

 

 寅さん旅先でマドンナと出会う

 とらやを飛び出した寅さんは静岡でバイをしていた。その夜、中華屋でラーメンを食べていた寅さんは、隣のテーブルでラーメンを食べていた娘花子を見かける。花子が食べ終わり代金を支払うが、お釣りがなく店の主人が隣の店へ両替に行く。二人きりとなった店で花子は寅さんに駅へに道を尋ねる。寅さんは優しく答える。そこへ主人が帰ってきて、お釣りを渡し花子は出て行く。主人は寅さんにあの娘は普通ではなく、ちょっと頭がおかしい、どこかの工場で働いていたが仕事ができず逃げ出してきたのだろう、そのうち水商売をするようになり、売り飛ばされてしまうのでは、と話す。

 店を出て駅に向かった寅さんは、駅前の交番に花子がいるのを目撃。交番に入り、警察官を恐れて話ができない花子に優しく声をかける。名前と青森へ帰るところだということ、さらにその辺のバーで働いていたが…ということを聞き出し、警察官と話をして青森に返してあげようと決める。しかし花子は切符代を持っておらず、警察官と寅さんが金を出して切符を買ってあげることに。寅さんは駅まで花子を送るが一人で帰らせることに心配になり、とらやの場所を書いたメモを渡し見送る。

 

 母親とのケンカでとらやを飛び出した寅さん、静岡へ。街の中華屋で知り合った娘花子が交番で困っているのを見て助けてあげることに。

 中華屋の主人を柳家小さんが演じている。寅さんシリーズには「超」がつく大物が何人も出演しているがその中の一人。花子の行く末を心配して語る口調はさすがである。

 花子と出会ったのは沼津駅周辺。青森まで帰るのに3000円ほどだと寅さんが話す。50年前の電車代の安さに驚く(笑 警察官役の大塚弘さん、シリーズのちょい役の常連の一人。48作ラストのタクシー運転手が印象に残る。

 

 

 再び、とらや 花子がとらやへ

 おばちゃんと朝日印刷の皆が江戸川で花見をしている。とらやでは、おいちゃんがさくら相手に先日の寅さんとのケンカを反省していると話をしていた。そこへ花子がやってくる。戸惑うおいちゃん、花見から帰った皆と花子をどうすれば良いのか相談をする。タコ社長は寅さんが花子に悪さをしたかもしれないと警察に届けるのは止めた方が良いとアドバイスするが、そこへ寅さんが変装して店先に。皆は気づくが寅さんは店に入らず何処かへ行ってしまう。そして寅さんは外から電話をし、花子が訪ねてきたかどうかをさくらに尋ねる。花子が来ていると聞いた寅さんは一目散でとらやへ。寅さんは花子と涙の再会を果たす。

 そして花子をとらやで預かることに。寅さんは花子が少し頭が弱いことを説明、安心して働けるところを探してやりたいと話す。翌日寅さんは早速タコ社長に相談、花子を朝日印刷で雇ってもらうこととなったが、タコ社長が昔は女遊びがスゴかったとおばちゃんに聞き、工場へ。タコ社長が花子にマッサージをさせていたため、朝日印刷を辞めさせる。その足で帝釈天に行き御前様に相談、働かせてもらうことにし帝釈天を後にしようとするが、門に書かれたスケベという落書きを見て、話はなかったことにと花子を連れ戻してしまう。

 結局花子はとらやを手伝うこととなり、寅さんもおいちゃんもなぜ最初から気がつかなかったかと安心することに。しかし店の客が花子に声をかけたため寅さんは怒ってその客を追い出してしまう。

 

 とらや以外にいるおばちゃんの姿は珍しいかも(笑 花子がメモを頼りにとらやへやってくる。映画の中では描かれないが、花子は青森へは行けなかったと思われる。花子の言葉につられておいちゃんも青森訛りで答えるのが可笑しい。

 その後寅さんの変装シーン。帽子の形を変えるのはよくやるパターンだが、本作では寅さんがサングラスをかけヒゲまでつけている。母親とのケンカで帰りづらかったということもあるのかもしれないが、本当の意味は花子ととらやで再会したシーンで現れる。変装した寅さんを見た花子は恐怖を感じ逃げてしまう。それに気づいた寅さんが変装を解いてやっと二人は涙の再会となる。

 寅さんは花子の仕事を探し、タコ社長や御前様に頼もうとするが、どちらも結果的に寅さんが心配しすぎでダメに。とらやで働き始め一安心かと思うが、ここも同じ理由でダメになってしまう。この一連は寅さんのマドンナへの愛というより、父性を強く感じる気がするが、どうだろうか。

 

 

 花子との結婚?

 おばちゃんがさくらたちの家へ、花子の今後をどうすれば良いかと相談に来る。さくらたちは青森の花子の家へ手紙を書いたが、その返事はまだ来ていなかった。寅さんは花子を連れて河川敷へ。そこで花子は歌を歌い、故郷青森のこと、福士先生のことなどを寅さんに語る。寅さんは福士先生に会いたいかと尋ね、福士先生のお嫁さんになりたいかと聞く。しかし先生には奥さんがいると花子は答え、寅さんの嫁さんになると言い出す。それを聞いた寅さんは喜んでしまう。

 寅さんはその夜さくらの家へ行き、結婚をほのめかす。さくらは相手が誰かと尋ね花子だと気づく。寅さんはテレて家を出て行ってしまう。翌日さくらはとらやでそのことをおいちゃんおばちゃんに相談する。おいちゃんおばちゃんは寅さんと花子が一緒になることに難色を示す。そこへ話を聞いたタコ社長や御前様もやってきて同じく心配する。

 その頃寅さんは花子を連れてデパートへ。様々な商品を見て回り、化粧品売り場で花子はメイクをしてもらう。夜、お菊がさくらに電話をかけてきて、寅さんからまた嫁をもらうと連絡があったと伝える。お菊はどんな子でも寅の元に来てくれるならば、と言いさくらによろしく頼むと話す。

 寅さんはバイに出かける。花子はおばちゃんと河川敷でヨモギ摘みをしていた。おばちゃんは花子に田舎に帰りたいのではと聞くと、花子は寅ちゃんが帰るなと言ったと答える。

 

 花子の就職活動?が上手くいかずとらやの面々が困り始める。おばちゃんがさくらの家に相談に来る。花見のシーンに続いて、おばちゃんがとらや以外にいる珍しいシーン。

 そして河川敷で花子から故郷青森のことを聞いた寅さん。花子に寅ちゃんの嫁になろうかなと言われ有頂天に。さくらにもそのことを話してしまう。それを聞いたとらやの面々、タコ社長、御前様は皆心配することに。さらに母親であるお菊にも寅さんは連絡をしてしまい、さくらがお菊からの電話を受けることになる。

 周りは心配するが、寅さん本人とさくらが乗り気となった結婚話。さぁどうなるか、というところだが、そこは寅さんシリーズ、いつもの結末が待ち構えている。

 

 

 福士先生がとらやへ そして終盤へ

 福士先生がとらやを訪ねてやって来る。さくらの書いた手紙が福士先生に渡るのに時間がかかったこと、また東京に出て来て電車に迷ったことなどを話す。そして花子との経緯を話し、花子が半年前から行方不明だったことを伝える。花子の近況を聞き安心したところへ花子が帰って来る。二人は涙の再会となる。おいちゃんは花子は先生と一緒に帰った方が良いと話すが、おばちゃんは寅さんは怒るよと話す。

 夕方寅さんが仕事から帰って来る。花子がいないことに気づいた寅さん、怒りを爆発させようとするが、そこへ冬子がやって来て怒りは一時的に収まる。冬子が帰った後、さくらは花子が田舎に帰ったことを伝える。寅さんは怒りを爆発させ花子を無理やり田舎に帰らせたのではと問うがそれは違うと博が答える。収まらない寅さんは、自分のそばにいるより田舎に帰った方が幸せだというのかとさくらに詰め寄る。さくらはその通りだとはっきり答える。寅さんは旅に出る準備をし、さくらが止めに入るが寅さんはさくらを殴って出て行ってしまう。

 後日、とらやの皆は寅さんのことを話題にする。そこへ寅さんからの速達が来る。そこに書かれていたのがまるで遺書のようで皆は心配する。手紙が花子の故郷青森からだったため、さくらは一人青森へ向かう。列車を乗り継ぎ、福士先生の勤める学校へ。そこで花子は学校の手伝いをしていた。さくらは福士先生と話をし、寅さんが学校を訪ねて来たときの話を聞く。そして花子とも対面、元気な花子の様子を見て安心する。そしてとらやへ電話をし状況を伝える。さくらは帰ることに。バスに乗っていたさくら、海沿いで自殺者が出たと聞き心配するが、その後のバス停で寅さんの声を聞き驚く。寅さんはバスを待っていた人々と楽しく会話をしながらバスに乗り込んで来る。さくらは寅さんにハガキを見せ問い詰めるが、寅さんは正直にその時の心情を答える。そして俺が死んだと思ったかと聞き、冗談じゃないわよとさくらが答えると、死ぬわけないよなと笑う。二人を乗せたバスはそのまま進んで行く。

 

 花子の故郷での先生である福士がとらやへ。おばちゃんがさくらの家で連絡がないことを気にしていたが、花子がとらやへ来た日を0日目とすると、朝日印刷や帝釈天で仕事をしようと探したのが1日目、寅さんと花子が河川敷で遊んでいたのが2日目、寅さんが仕事へ行き、花子がおばちゃんと河川敷にいたのが3日目と考えればこの3日目に福士はとらやを訪ねて来たわけで、さくらが出した手紙が直接福士に届いていないことや当時の列車事情を考えれば、妥当な訪問と言えるだろう。

 冬子が再度登場しているのも見逃せない。冒頭での登場シーンは旅に出ようとする寅さんを結果的に引き止める役割を担っているが、ここでの冬子は寅さんの怒りを一時的に収めるだけ。それも何度か戻って来る冬子を寅さんが早めに帰そうとする仕草が見られ、寅さんは第1作のマドンナに全く未練がないことが伺える。

 そして花子は福士とともに青森へ帰ってしまう。そのことを寅さんに伝えるのはやっぱりさくらの役目。しかもはっきりとどちらが花子にとって幸せかまで断言する。

 シリーズでは寅さんの失恋が常に描かれるが、そのタイプは、マドンナに好きな人がいたことが発覚するタイプAと寅さんが何らかの事情でマドンナから身を引くタイプBがある。本作は間違いなくタイプBであるが、ある意味強制的に(花子が帰ったことで)タイプBを選ばざるを得なかったという珍しいパターンである。

 このことがラストも変えてしまう。通常であれば、失恋した寅さんが旅に出たところで季節が変わり、マドンナもしくは寅さんからの手紙がとらやに届く一方で、寅さんは旅の空の下で商売をしている、ラストになる。しかし本作での寅さんからの手紙は遺書めいており、さくらが青森まで出張ることに。そこで福士先生や花子と再会、寅さんもこの地を訪れていたことが知らされる。その場面は映画では描かれないが、寅さんがラストでマドンナに会いに行くのは最近見た第17作と同じ。そう言えば、第9作も寅さんが歌子に会いに行ったと手紙に書かれていた(実際には会えていないらしいが)。

 さくらが寅さんを追って旅に出るのは、最近見た第11作でもあったパターン。第11作は北海道で疲れ果ててしまった寅さんを迎えに行ったが、本作ではラストシーンとして描かれる。さくらがラストシーンにいるのはシリーズの中で本作だけだろう。

 

 シリーズ第7作。シリーズの中でもまだまだ序盤の作品であり、上記したようにこれまでにはない、そしてこの先のシリーズでもないような展開を見せてくれている。おそらくシリーズの形がまだ定まっておらず、山田監督がいろいろと試行錯誤している段階なのではないかと思われる。

 

 これで正月のリリー3部作、寅さん55周年を記念して放送された4作品を見終わってしまった。このまま寅さんの他の作品も観たいところだが、またTV放送され流のを待とうと思う。それでもやっぱり寅さんは面白い。

 

8月の家族たち

●726 8月の家族たち 2013

 ウェストン家の夫べバリーと妻バイオレットの夫妻は二人暮らし。夫は酒を飲み、妻は薬を飲む暮らしをしていた。夫べバリーは先住民であるジャナを家政婦として雇う。しかしバイオレットがそれが気に入らなかった。バイオレットは初期の口腔癌を患っており、その痛みから逃れるため薬物中毒の状態だった。

 その後べバリーは黙って家を出て行方不明となる。近所に住む次女アイビーが来て、長女バーバラやバイオレットの妹であるマティに連絡、バーバラの家族、マティの家族など、皆が家にやってくる。バーバラは母に父は散歩に出かけただけだと慰めるが、バイオレットは長女であるバーバラが家を出た事を非難する。その夜保安官がやって来てべバリーが溺死体で見つかったと知らせる。自殺だと思われた。

 べバリーの葬儀が行われる。三女カレンも婚約者を連れてやってくる。バーバラは夫と別居中でありそのことがアイビーにバレる。さらにバーバラの娘ジーンは母であるバーバラを嫌っており反抗期状態だった。そんなジーンにカレンの婚約者スティーブが近づく。マティの息子リトルチャールズも遅れてやってくる。リトルチャールズはアイビーと秘密裏に付き合い始めていた。

 葬儀が終わり自宅で会食が始まる。そこでバイオレットは薬の影響もあり、暴言を吐きまくり娘たちを次々と避難し始める。挙げ句の果てに夫の遺産を全て自分が受け取ると話し娘たちに了承させる。その後も暴言を吐き続ける母親にバーバラがキレてしまい、母の薬を取り上げ、家中を探し全ての薬を捨ててしまう。

 バーバラは母の担当医の元を訪れ、バイオレットを薬漬けにした事を非難する。帰り道で母親は車から降り草原に逃げ出してしまう。バーバラが追いかけ母親を止める。バーバラは食事の時の自分の行動を謝罪する。

 家に戻った3人の娘たちは母親のことについて話し合う。次女アイビーはリトルチャールズとのことを打ち明け、引っ越すことを宣言する。バーバラが非難しようとするが、先に実家を捨てたのはバーバラだと言い返されてしまう。その後、母親と会話をする3人。母バイオレットは自分の若い時、母親からされた仕打ちを告白する。

 翌日、アイビーはリトルチャールズと仲良く話をしていた。それを見たマティが息子のことを非難する。それを聞いたマティの夫チャールズは激怒、これ以上息子を非難するならば離婚をやむを得ないと話す。偶然その話を聞いてしまったバーバラはマティに話しかける。するとマティは息子の実の父親は、バーバラたちの父であるべバリーだと告白する。しかしそれは姉バイオレットも知らないことだとも。そしてマティはアイビーにリトルチャールズとの付き合いを辞めるように説得してくれとバーバラに頼む。

 その夜、ジョナはカレンの婚約者スティーブが、バーバラの娘ジーンにマリファナを吸わせイタズラしようとしているのに気づき、スティーブをスコップで殴打する。皆が騒ぎに気づき集まってくる。事情を知ったバーバラはカレンの元へ行くが、カレンはスティーブだけの責任ではなく、ジーンにも責任があると言い残し、スティーブとともに家を出て行ってしまう。それを見送るバーバラと夫ビル。ビルは娘ジーンを連れて帰ると言い出し、翌朝帰ってしまう。

 バーバラはアイビーにリトルチャールズと付き合うのを辞めるように話すが彼女は聞き入れない。家に残ったバーバラ、アイビー、バイオレットの3人で食事をしようとしたところでアイビーがリトルチャールズとのことを母親に告白しようとするが、バーバラが食い止めようとする。それでも話を続けようとしたアイビーに、バイオレットはリトルチャールズはあなたの弟よと話す。バイオレットは夫と妹の不倫を知っていたのだった。アイビーは激怒し家を出て行ってしまう。

 残ったバーバラは母に話しかける。母バイオレットは夫が行方不明になった際に置き手紙をしていたことを話し始める。母は父の行き先を知っていたのだった。しかし母は夫を探す前に貸金庫に預けられた財産を手に入れることを優先していたのだった。それを知ったバーバラも家を出て行く。残されたバイオレットは皆を探し始めるが、最後には家政婦ジョナを求める。

 バーバラは一人車で帰って行く。

 

 

 このブログを始めて数百本の映画を観てきたが、本作はその中でも特に記憶に残る1本になると思う。

 父親が亡くなり残された母親のいる実家に、娘3人と母親の妹がそれぞれの家族を連れてやってくる。初期ガンによる痛みを抑えるため母親は薬に頼っているが、そのため薬物中毒となっており、そのためか娘たちに暴言を吐き散らす。この暴言がヒドい。特に映画中盤の夕食のテーブルで繰り広げられる会話の中の暴言は凄まじい。このシーンが約20分続く。それでもこのシーンを見続けられるは、あくまで映画の中の他人事だからなのか、それとも母親の暴言に中に刺さる言葉があるからなのか。

 母親の暴言に耐えかねた長女バーバラが突然キレて、母親が頼りにしている薬を全て破棄し、さらに母の担当医のところに乗り込むシーンは一種のカタルシスを感じるが、この映画はこれでは終わらない。

 物語終盤に怒涛の展開が待っている。バーバラが叔母マティの秘密を知ってしまうのが第一弾。続けて三女カレンの婚約者が長女バーバラの娘にマリファナを与えイタズラをしようとするのが第二弾。これらにより一人ずつもしくは一家族ずつ、母親の家から去って行ってしまう。

 そしてマティの秘密が次女に明かされるのが第三弾。ここでも次女が去り、残されたのは何かと相対してきた母親と長女の二人。二人だけになった家で最後の秘密が暴露される第四弾。これで長女バーバラも家を去ることに。 

 

 家族崩壊の話だと説明するのは簡単だが、この映画はその過程が凄まじすぎる。観ていて会話が多い映画だと思ったが、元は舞台劇だったと知って納得。それを豪華俳優陣で映画化したものなのだろうが、「豪華俳優陣」が本当に活かされている映画だと言える。

 家族をテーマにした映画は、「どこか冷たく」それでいて「どこか暖かく」描かれるのが、映画の定番だと思っていたが、本作は「暖かく」を一切排除したことで、記憶に残る一本となった。

 

 

 

 

刑事スタスキー&ハッチ 第1シリーズ #21 24時間の命つきるとも

●刑事スタスキー&ハッチ 第1シリーズ #21 24時間の命つきるとも

 

あらすじ

 スタさんが自宅で就寝時、何者かに毒物を注射されてしまう。あと24時間の命だと言われたスタさんは病院から抜け出て犯人を探す。ドビー主任などの協力で容疑者を3人に絞り1人ずつ調べるが3人ともシロだと判明してしまう。しかし薬局の従業員からの証言でそのうち1人が疑わしいことがわかりハッチは犯人を追い詰めるが…。

 

ストーリー

 スタスキーの家。スタさんがベッドでうなされている。その傍らにストッキングを被った男が注射器を持って立っており、スタさんに注射し、お前はあと24時間の命だと語り去って行く。スタさんは意識朦朧とする中、なんとかハッチに電話する。

 ハッチは救急車でスタさんを病院へ。スタさんは集中治療室に運ばれる。ハッチは医者からスタさんが助からない、親族に連絡するように言われる。スタさんも状況を理解していた。ハッチはスタさんに事情を聞く。スタさんは何か飲まされタコと、犯人は知っている野郎だと話す。医者は24時間の命だが、複数の毒物が検出されているため、毒物が特定できないと解毒剤を調合できないと話す。スタさんは自分で犯人を探すと言い出し、夜10時までに戻ってくると話し病院を出て行く。

 二人は捜査を始める。ハッチは科捜研のチャーリーにスタハチコンビが過去5年間に関わった資料をデスクに届けるように依頼する。街でヒョロ松を見かけたため、スタさんを狙っているヤツの情報を集めてもらうことに。

 二人は警察でチャーリーが集めた資料を確認する。ドビー主任から犯人の特徴を聞かれたスタさんは年恰好を告げる。主任はその情報をコンピュータにかけ犯人を絞り込むことに。そこへ医局のチェリルがやってきて、ハッチにスタさんの毒物に関する情報を教える。ハッチはチェリルの父親にも協力をして欲しいと話すが、チェリルは父親とは連絡が取れないと答え、いざとなれば家に行ってみると答える。主任が犯人を3人に絞る。

 スタハチは3人の容疑者を調べ始める。1人目の容疑者ベラミーを訪ねるが、彼は足にギブスをつけており、妻の話で先月からその状態だとわかり、二人はベラミーではないと判断し、主任に連絡。主任から次の容疑者であるマルティーニジョナスの昔の女スイートアリスの住所を知っているなと聞かれた二人はアリスの家へ、娼婦であるアリスからジョナスがやっている会社の住所を聞き出す。用心棒二人を倒した二人だったが、スタさんの体調が突然おかしくなりハッチが支える。二人はスタジオに乗り込み、ジョナスを脅して笑わせる。スタさんはそれが犯人の笑い声とは違うと判断しスタジオを出る。スタさんに残された時間はあと12時間だった。

 スタハチは医局へ戻る。チェリルが痛み止めを処方をしていた。落ち込むスタさんにハッチはあと7時間もあるんだと励ます。頼りにしているチェリルの父親は教授会に出ておりまだ会えていなかった。スタハチは警察へ戻るが主任から3人目の容疑者ウエデルが4日前に死んでいると告げられる。打つ手がなくなった二人。そこへ毒物を入手したと思われる薬局で働く女性がやってきて、写真を見るように言われてきたと話す。ハッチは容疑者たちの写真を見せるが、女性はベラミーの写真を見て見たことがある、ギブスを作る材料を買っていったと話す。スタハチはベラミーの元へ急行する。

 ベラミーの部屋。彼はギブスを外していた。スタハチが来たことに気づいた彼はどこかへ電話し、ズラかるから金をくれと話し屋上へ逃げる。ハッチはベラミーの女から彼が逃げたことを聞きスタさんを置いて屋上へ。スタさんは女からベラミーが銃を持っていったと聞きハッチを追う。ベラミーは自分を殺せばスタさんも死ぬと言い強気にハッチを撃ち始める。そこへ駆けつけたスタさんがベラミーを射殺する。

 スタハチは病院へ。スタさんが危険な状態になる。医者は予告通りならあと2時間だと話す。ハッチはスタさんに出かけると話し、スタさんは治療室へ運ばれる。ドビー主任をやってくる。ハッチは何か見逃していることがあると話し、ベラミーに毒物が使えるはずがない、誰かに雇われたんだと気づき、ベラミーの女のところへ。何も知らないと話し女を問い詰め、年配で大学に関係のある男だと聞いたハッチは、犯人が誰か確信する。

 その頃チェリルは父親の家へ。2時半に訪ねてきた娘を不審に思う父親だったが、チェリルはどうしても話がしたいと答える。チェリルには弟ジェリーがおり大学で麻薬を売っていたのをチェリルが通報したためジェリーが死んだと父親は考えていた。そこへハッチがやってくる。ベラミーはジェリーに麻薬を売った売人だと話し、ハッチは父親が出所したばかりのベラミーを雇って復讐をしたこと、ハッチも殺すためにここには毒物がまだ残っているはずだと話す。父親は報告書を読みスタハチがジェリーを殺したからだと話すが、ハッチはジェリーは麻薬中毒だったためなだめて連れて帰ろうとしたが、彼はハッチの銃を奪い銃が暴発したと答える。父親は毒物が入った注射器を取り出すが、ハッチがそれを奪い取り、病院へ。毒物が判明したためスタさんは助かる。

 警察。エレベータからご機嫌でスタさんが降りてきて廊下を歩く。そして部屋の前で弱ったフリをして部屋へ入る。ハッチやドビー主任はまだ仕事するには早い、家に帰って休めとスタさんをなだめる。それでも仕事をしようとするスタさんに主任は2週間の休暇だと命令する。そこへ電話がなり主任が出る。電話は旅行代理店に務めるヒョロ松からで、カリブ海2週間の旅行の予約が取れたとスタさんに伝えてくれと話す。ハッチも電話を聞き、スタさんが薬を飲むために組んだ水をスタさんに浴びせかける。

 

今回の登場人物

スタさんを毒物を打った犯人(最後にベラミーだと判明する)

スタさんを診察した医師(フランクリン)

科捜研のチャーリー

医局のチェリル

1人目の容疑者ベラミー

ベラミーの女

2人目の容疑者ジョナスの昔の女アリス

2人目の容疑者ジョナスの会社の用心棒

2人目の容疑者ジョナス

3人目の容疑者ウエデル

容疑者の写真を見に来た薬局で働く女性

チェリルの父親(ジェリング)

 

今回の捜査

スタさんの家

スタさんが寝ているところへ賊が侵入、注射されてしまう

ハッチに付き添われ、スタさんは病院へ

集中治療室へ運び込まれるスタさん

ハッチは医者から、スタさんがあと24時間の命だと告げられる

 

スタさんは病院で大人しくしていることを拒否、自ら捜査に乗り出すことに

スタハチはヒョロ松に警官殺しの情報を仕入れることを依頼

ハッチは、医局のチェリルから解毒剤についての情報を聞く

ドビー主任の提案でコンピュータで容疑者3人に絞り込む

1人目の容疑者ベラミーの家

スタハチが部屋へ乗り込むが、ベラミーは足にギプスをしている状態だった

スタハチは2人目の容疑者ジョナスの昔の女アリスの家へ

ハッチは外の窓から、スタさんは玄関の扉で待機する

アリスは娼婦、客が慌てて飛び出してくる

アリスの部屋 スタさんは汗がヒドい状態に

ジョナスの仕事場 ポルノ映画撮影中

仕事場には用心棒が二人

スタハチは仕事場へ乗り込む

ジョナスを脅して笑わせるが、犯人の笑い声とは違った

スタハチは警察へ戻理、3人目の容疑者が死んでいると主任から聞かされる

打つ手のなくなったスタハチ、そこへ薬局勤めの女性がやってくる

そしてベラミーの写真を見て、ギブスの材料を買っていったと話す

スタハチは再度ベラミーの家へ ギブスは外されていた

スタハチが来たことに気づいたベラミーは、真犯人に連絡し金を要求

スタハチはベラミーの部屋へ 彼がおらず、女に逃げた場所を聞く

屋上でのベラミーとの銃撃戦

ベラミーはスタさんに射殺される

病院へ担ぎ込まれるスタさん、あと2時間となり、痛み止めを打たれる

ハッチは主任と話をしていて、ベラミーではない真犯人がいることに気づく

そしてハッチはベラミーの家へ ベラミーの女を問いただす

チェリルの父の勤める大学

チェリルが父親の家を訪ねる

チェリルの弟の写真

ハッチがチェリルの父親の家へ

残り時間が迫る中、ハッチはチェリルの父が持っていた毒入り注射器を奪う

毒物を病院へ持っていき、解毒剤が作られることとなり、安心するハッチ

 

今回のスタハチコンビ愛 その1

 今回はスタさんの身に危険が及ぶため、コンビ愛が炸裂する。

 ドラマ冒頭でいきなりスタさんが毒物を打たれてしまう。事前に何かを飲まされ意識朦朧とする中での出来事だったようで、毒物を打たれ危険を感じたスタさんは意識朦朧とする中、それでも必死にハッチへ電話をして助けを求める。身の危険を感じた際に一番に相棒に電話するのはコンビ愛ゆえだろう。

 以下はベッドからずり落ちながらも、電話を引っ張り、ハッチへ電話をするスタさん。

 

今回のスタハチコンビ愛 その2

 ハッチは医者からスタさんが犯人の言う通りならば、あと24時間の命だと聞いて驚く。右は驚いたハッチ。

 

今回のスタハチコンビ愛 その3 ドビー主任含む

 1人目の容疑者はギブスを装着しており、犯行は無理だと思われた。その事を署に連絡するハッチ。対応したドビー主任に犯人が見つからない焦りをぶつけてしまう。それを聞いた主任も思いは同じであり、ハッチに怒鳴ってしまう。

 ハッチとドビー主任が苛立つ中、ひとり当事者であるスタさんだけが冷静を保ち、ハッチの擁護をする。それを聞いた主任も苛立った事を反省、冷静さを取り戻す。

 スタさん、カッコ良すぎ(笑

 


今回のスタハチコンビ愛 その4
 スタハチは2人目の容疑者ジョナスの仕事場へと向かう。しかしそこには用心棒がいた。用心棒をスタハチは蹴散らすが、その直後スタさんが突然痛みを感じ倒れてしまう。スタさんを介抱するハッチ。

 ジョナスのスタジオに乗り込んだ二人。ハッチは時間がなく焦っており、ジョナスの仕事場を荒らす。その上でジョナスに笑う事を強制する。犯人はスタさんに注射を打った際笑っており、笑い声で犯人かどうか確かめるためだった。

 ジョナスの笑い声が違う事がわかり、二人は外へ。2人目の容疑者もシロだとわかり、スタさんはショックを受ける。そんなスタさんをハッチは抱きしめ慰める。

 シリーズ第14作「恐怖の人質!真夜中のレストランジャック」でスタさんが撃たれ負傷する、という話があったが、本作は14作に比べスタさんの重症度が高い。そのためハッチがスタさんを抱きしめるシーンが多く出てくる。

 

 

今回のスタハチコンビ愛 その5 最高の見せ場

 ベラミーのギブスが偽りだとわかり、スタハチは再度ベラミーの家へ。しかしベラミーはスタハチが来た事に気づいており、屋上へ逃亡。体調が悪くなってきているスタさんを部屋に残し、ハッチはひとり屋上へ。

 

 しかしスタさんは女からベラミーが拳銃を持っている事を聞き出し、屋上へ向かう。ハッチとベラミーは銃撃戦となるが、ベラミーから毒物のことを聞き出さなければいけないハッチは防戦一方になる。それに気づいたベラミーは勝ちを確信しハッチを撃とうとする。

 屋上へなんとか上がってきたスタさんは状況を理解。防戦一方のハッチを助けるため、スタさんの拳銃が火を吹く。

 自分を助けるために犯人との銃撃戦で手を出せないハッチを助けるために、スタさんは視界もぼやける中、ベラミーを射殺する。「どうして撃ったんだよ」というハッチにスタさんは「見てられなかったんだよ」と答える。シリーズ屈指の名シーン、と言って良いのではないだろうか。

 

 

今回のスタハチアクション

 今回はスタさんが重症のためアクションシーンが少ないが、ひとつだけ。ジョナスの仕事場にいた用心棒二人組をスタハチが蹴散らす。

 まずは、スタさん。相手のパンチを見事にかわし反撃。

 続いてハッチ。用心棒を壁に叩きつける。

 もう一度スタさん。今度は見事に投げ飛ばす。

 

 

今回のハラハラ

 今回の一番の見どころは、スタさんにとって残り時間が少ない事。そのため背景に映される時計が効果的に使われている。ちなみに皆の会話からスタさんが毒物を打たれたのは午前4時ごろだと思われる。

 最初にスタさんが病院に運ばれたシーン。午前8時15分。

ハッチが医者から説明を聞き、スタさんの元へ戻る。午前8時17分。若干時間が進んでいる。

容疑者2人がシロだと判明、いったん警察に戻る。午後9時3分。

ベラミーを射殺、スタさんは病院へ。午前2時過ぎ

ハッチはベラミーの単独犯ではないことに気づきベラミーの家へ。午前2時20分。

ハッチはチェリルの父親の家を訪ね真相を話し、毒物の提供を求める。午前2時50分。

 

 

今回のヒョロ松

 今回、ヒョロ松は(結果的に)事件解決には役に立っていない。しかしスタハチは当然のことながら、彼に助けを求める。その時にヒョロ松がいた場所は…

 写真左の店の前にヒョロ松が立っており、スタハチは声をかける。状況を知らないヒョロ松は仕事を依頼しようとするスタハチに「俺は今は雇われの身だぜ、マジだよ、旅行代理業なんだ」と話しかける。これがラストのオチへの伏線となっている。

 今回はスタさんに絶対的な危機が訪れ、全体的に暗い話だったが、こんな場面でラストへの伏線を張っていたとは。おそるべしスタハチシリーズ(笑

 

 

今回のオチ

 回復したスタさんが警察に現れる。その時のご機嫌な様子を連続写真で。

 

 エレベータの扉の陰から、誰もいない事を確かめるスタさん

誰もいないことがわかると、松葉杖を抱え、陽気に歩き出す

しまいには、松葉杖をステッキのように振り回しながら歩き始める

しかし、部屋の前に来たら突然真面目になりおとなしくなる

 スタさんはシリーズを通して、リズムを取りながら歩くのが印象的だが、それらの中で一番ノって歩いているシーンだと思う。

 

 部屋を訪れたスタさんに、まだ復帰は早い、しばらく休んだほうが良いと話しかけるハッチとドビー主任。

 しかし、そこにヒョロ松から電話が入る。それを受けるハッチ。内容を理解したハッチは主任にも電話を聞くように伝え、主任も電話を聞くことに。

 ヒョロ松は旅行代理店の従業員の仕事として、スタさんから頼まれたカリブ海へのチケットが取れた、と連絡して来たのだった。つまり一連の事件を餌に長期休暇を取ろうとしていたスタさんの企みをハッチとドビー主任が気づいてしまった。

 ハッチは水をどうぞ、とスタさんに声をかけるが、スタさんの頭から水を浴びせかけるのだった。状況が理解できないスタさんのアップでドラマは終了する。

 ちょっとくらい展開が続いた本作だったが、このラストのオチでいつもの楽しいスタハチになった(笑

 

今回のまとめ

 先にも書いたが、スタさんが危機的状況に追い込まれるのは、第14話と同じだが、あちらが店の中で話が展開したのに対し、本作は重症のスタさんが街を駈けずりまわり犯人を追い詰めようとする。そのため、途中途中でスタさんが倒れてしまうシーンがあり、それをハッチがフォローすることが続く。このため、スタハチのコンビ愛が炸裂しまくる展開に。

 第1シリーズラス前だから、こんな話にしたのかもなぁ。きっとこの頃にはドラマが大ヒットし二人にファンも急増していただろうから。

 

 今回も翻訳について一つだけ。ドラマ序盤でハッチが科捜研の『チャーリー』に連絡を取り、スタハチが関わった事件の調書を集めるように依頼するが、この相手、字幕では『コリンズ』となっている。エンドロールでも「Collins」となっており間違いない。察するに放映当時の日本では、『コリンズ』という人名はあまりメジャーではなかったため、当時から一般的だった『チャーリー』にしたのだと思う。これもスタハチあるある、かも。

 

 そんなわけで第1シリーズラス前も見終わってしまった。残されたのはあと1作。第2シリーズ以降の日本語版はどうやら発売されることはないらしい。youtubeなどで英語版が見られるのを知ったが、原語では話の意味が理解できなかった。あぁもっと英語を勉強しておけば良かった(笑

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘘だらけの日本古代史 倉山満

●嘘だらけの日本古代史 倉山満

 これもAmazonのお勧めで紹介された1冊。図書館で探してみたのだが。

 

 図書館HPでの紹介文に

 

 教科書に騙されている! 最初の女性天皇推古天皇、「魏志倭人伝」は真実、聖徳太子はいなかった、「大化の改新」はなかった、聖武天皇は偉人、古代史の中心は藤原氏…。日本の神話から平安時代までの歴史の噓を暴く! 

 

 とあり、中でも『聖徳太子はいなかった』のフレーズに惹かれたので読んでみることに。というのも、『聖徳太子はいなかった』は鯨統一郎氏の小説「邪馬台国はどこですか」の中で唱えられている珍説であり、あの本を読んだ時の面白さが体験できると思ったので。

 

 しかし本作はもちろん小説などではなく、天皇皇位継承を中心に古代史を語る内容でした(笑 さらに言えば、本作は図書館の紹介文に記載されている内容を「嘘」だと論じているわけで、私の期待とは真逆だったというオチ(笑

 それでも正直これまで天皇皇位継承などまともに理解しようとしたことはなく、興味だけで古事記に関する本を何冊か読んだ経験しかなかったので、なかなか勉強になった。

 内容も歴代の天皇の名前がづらづらと並べられるだけではなく、それぞれの天皇の継承にどんな背景があったかを丁寧に説明していてわかりやすかった。話の初めが古事記に書かれた時代だったのも、それらの関連本を読んでいる自分にはありがたかったかも。

 

 途中、今の歴史学者女系天皇を押す学者を揶揄する文章などが多く、これまた偶然だが、今並行して読んでいる井沢元彦氏の逆説の日本史第1巻と主張が同じであり、興味深い。

 

 この分野は初めて読んだこともあり、本作は奈良時代までで終わっていることもあり、著者の続きの作品も読んでみたいと思わさせてくれた。とりあえずは、井沢氏の続きを読むことと鯨統一郎氏の本の読む返しをしてみようかしら。

 

男はつらいよ 柴又慕情

●725 男はつらいよ 柴又慕情 1972

 何度も見ている寅さんシリーズ、いつものスタイルではなく、ざっくりとしたあらすじと見せ場を一緒に。

 

 冒頭の夢

 いつもの時代劇でいつものストーリー。漁村で貧しい暮らしをしているさくらの家に借金取りがきて家財道具など一式を借金のカタに奪って行く。そこへ寅さんが現れ、札束を放り借金を払う。さくらがお兄ちゃんではと問いかけるが、寅さんは去って行く、という定番のお話。

 しかしいつもと異なるのは、江戸時代などではないということ。その証拠に登場する男性は髷を結っていない。寅さんもなぜかいつもの衣装。さらに特筆すべきは、寅さんが長い楊枝を加えていること。これは本作の公開年にTV放送され大ヒットした「木枯らし紋次郎」のパロディであることは明らか。先日見た17作「寅次郎夕焼け小焼け」の冒頭の夢も「ジョーズ」のパロディだったが、本作も同様。もう一つ「木枯らし紋次郎」がそうだったと思われるが、一連の芝居の背景に、コンクリートで作られた波止場や電柱などが写り込んでおり、時代背景を無視したつくりになっている。ちなみに吉田義男さん、本作でも夢シーンだけの登場。

 夢から覚めた寅さんはどこかの駅の駅舎におり、そのまま列車に乗り込んで行く。

 

 OP

 江戸川に帰ってきた寅さん。子供達がしている釣りに混ぜてもらうが、釣り針が散歩中のカップルの女性の帽子を釣り上げてしまう。その後寅さんは河川敷でゴルフの練習をしていたタコ社長を見つけ、社長のゴルフクラブを振り回す。

 

 OP後、とらや 寅さん不動産屋を回る

 さくらが帝釈天で御前様と門前にできたツバメの巣のことを話す。とらやへ戻ったさくらは軒先に「貸間あり」の掛札があるのを見かける。おいちゃんは家を建てるというさくらたちのために、部屋を貸し少しでも金を稼ごうというつもりだった。しかしおいちゃんは寅さんが帰ってきたらマズいことになると心配する。そこへタコ社長がゴルフから帰ってきて寅さんが戻ってきたと伝える。そして寅さんが戻ってくるが、「貸間あり」の札を見て怒って出て行ってしまう。寅さんは不動産屋を周り、部屋を探そうとするが、注文の多いことを呆れられ、不動産屋をたらい回しにされる。

 夕方、博が工場から戻る。おばちゃんは不動産屋から貸間を借りたいという人がいてこれから連れてくると話す。不動産屋が車でやってくるが、借りたいというのは寅さんのことだった。寅さんは怒るが、皆から謝罪を受けなんとか家に入る。すると不動産屋は紹介料として6000円を請求、寅さんがまた怒り不動産屋とケンカとなる。

 夜、寅さんの怒りは収まらずおいちゃんとケンカになってしまう。それを止めた博は自分たちが家を建てたいと言い出したからだと話すが、寅さんはひろしが建てる家のことをバカにしてしまい、それを聞いたさくらは泣き出してしまう。それを見た寅さんはお金をおばちゃんに渡しとらやを出て行く。そして一人寂しく柴又駅へ向かう。

 

 寅さんがとらやへ。しかし「貸間あり」の札が原因で飛び出してしまう。しかしそのまま旅に出るのではなく、柴又で下宿を探すが、行き着いたのはとらやだった、というオチ。そして夜、「貸間あり」の件でケンカとなり、怒りの収まらない寅さんは言わなくて良いことを博やさくらに言ってしまい、さくらを傷つけてしまう。そして旅へ。

 寅さんが不動産屋を回るのは珍しい。しかしそこでも、理想の下宿を語る寅さんが可笑しい。結局いつも通り旅出に出ることになるのだが、寅さんが一人さみしく柴又駅へ向かうシーンが描かれ、これは本当に珍しい。

 

 

 金沢福井 歌子との出会い

 若い女性3人組が金沢を観光している。観光地を巡る3人、途中バイをしている寅さんのそばを通るが、当然ここでは何もなし。仕事を終え宿へ戻った寅さん。そこでかつての舎弟登と出くわし、部屋で宴会となる。その隣の部屋には例の3人組がいた。3人は一緒に旅をする仲間だったが、年々旅の楽しさを味わえなくなっていた。さらにそのうちの一人みどりは秋に結婚することになっていた。3人は寝ようとしたが隣の部屋(寅さんと登)がうるさいため主人に苦情を言い、主人が寅さんの部屋へ連絡、寅さんたちは宴会を辞めおとなしく酒を飲むことに。

 翌朝、登は置き手紙を残し先に旅立っていった。そこには早く美人のお嫁さんをもらってくださいと書かれていた。3人組は福井へ。観光地を巡り、寂れた駅前で食堂に入る。そこには先客として寅さんがいた。寅さんは3人組に声をかけ話をする。店の女主人との会話で、寅さんが東京出身だが、30年家に帰っていないことを知った3人は寅さんに興味を持ち始める。そんな3人に寅さんはご馳走することに。店を出た3人は寅さんを待っており、一緒に記念撮影をすることに。そこで寅さんはチーズの代わりにバターと言ってしまい皆で大笑いすることに。そして4人は一緒に観光地をめぐる。とある駅で寅さんは3人組と別れることに。3人の中の一人、歌子は寅さんがいて本当に楽しかった、とお礼に土産物の鈴をプレゼントする。寅さんは驚き、歌子にお金を渡し弁当でも買うようにと話す。

 

 3人組を見送った後、寅さんが駅のそばを一人歩くシーンがある。これも先の柴又駅へ一人歩くシーンと同様、シリーズではとても珍しい寅さん一人歩きのシーン。

 若い女性3人組が旅をしているのは、当時国鉄がしていた「ディスカバージャパン」の影響だと3人が話している。先日TV番組でこの「ディスカバージャパン」が及ぼした影響を報じていたが、若い女性が旅に出るというのに本当に一役買っていたらしい。

 寅さんの舎弟登が久しぶりの登場。シリーズの最初の数本で出演しており、第5作ぶりの出演らしい。登は、第50作のラストシーンでも登場しており、寅さんの舎弟といえばこの人、だろう。

 旅先でマドンナと出会うのは定番だが、初めて3人組と寅さんが絡む食堂のシーンでは、珍しく寅さんが影がある二枚目風を演じている。しかしそれも記念撮影時の「バター」一言でバレてしまうのだが(笑 ちなみにこの時家に30年帰っていない、と言った寅さんのセリフがこの後のシーンの伏線となっている。

 

 

 歌子の生活

 歌子が東京に戻り、実家へ帰る。歌子の旅行中、父親が一人で暮らしたと思われ、机の上などは散らかり放題である。それを見た歌子はため息をつきながらも片付けを始める。

 

 再び、とらや

 寅さんが江戸川を歩いている。ケンカして旅だったことが念頭にあるのか、まぁ行ってみるかとつぶやく。しかしそこで例の3人組の中のみどりとマリと再会。彼女たちは柴又に来れば寅さんと再会できるかもと思いやってきたのだった。そして寅さんの家を探すことを手伝う。彼女たちは寅さんが家に30年帰っていないと信じ込んでいたため。そしてとらやを見つけ声をかけるが、おいちゃんの態度やタコ社長のとどめの一撃などがあり、寅さんの嘘はあっさり飛ばれる。2人を家にあげ歓迎するとらや。2人は旅行の写真を見せ、歌子が小説家の父親と暮らしていること、歌子が寅さんに会いたがっていたと話す。その夜、寅さんは歌子に婿を紹介しようと皆に声をかけるが、適当な人物が見つからない。するとさくらがうちにも一人いたわね、と話し寅さんは喜んでしまう。

 

 寅さんがとらやへ戻ってくる。これも定番なのだが、本作では珍しく寅さんが帰りづらそうにしている。博たちの家の件でケンカしたことが頭にあったのだろう。しかし旅先で知り合った女性2人組と遭遇、旅先での嘘が物を言い、寅さんはあっさりととらやへ。そこで歌子のことを聞く寅さん。夜、歌子の婿として自分の名前をさくらに言ってもらい有頂天となった寅さんは2Fへ引き上げる際に、「いつでも夢を」を口ずさむ。寅さんが歌を口ずさむのはシリーズでも定番だが、マドンナ吉永小百合のヒット曲を口ずさんだのは流石である。

 

 歌子がとらやへ

 翌日、帝釈天へのお使い物を頼まれたさくら。おばちゃんが帝釈天にはご利益があるのだから家を建てることをお願いしてくればと言ったのを寅さんは聞き逃さない。さくらと一緒に帝釈天へいき、さくらの金でお参りをする。誰もいないとらやに歌子がやってくる。そこへ寅さんが帰ってきて歌子を迎えるが、店のものが誰もおらず寅さんはいつもの調子が出ず、机にあった団子を作り始めてしまう。そこへさくらが戻ってきてやっと寅さんはいつもの調子を取り戻す。

 歌子を家にあげおばちゃんの手料理で歓迎する。寅さんが歌子に気を使いすぎて場が盛り下がるが、歌子が寅さんになぜ結婚しないのかと尋ね、寅さんがしどろもどろになりつつ答えたことで皆で大笑いになる。駅まで寅さんとさくらで歌子を送り、歌子は本当に楽しかった、来て良かったと話し、寅さんはまたおいでよと話す。

 夜、歌子はとらやにお礼の電話を入れる。寅さんと話しまた来ると約束をする。

 

 

 マドンナがとらやへ来る定番シーン。しかし歌子と寅さん二人だけになってしまい、寅さんがいつもの調子が出ない。マドンナと二人っきりだと寅さんがこんな状態になってしまうというのはこの後のシリーズでもあまり見かけないシーンだと思う。マドンナ役が当時すでに大スターだった吉永小百合だったためなのだろうか。

 ちなみに歌子が訪ねてきたことに気づいた寅さんが店に出るため、店の中の暖簾に引っかかってしまうシーンは名シーンである。

 この場面の最後に歌子がとらやへその日のうちにお礼の電話を入れる。現代で考えるととても丁寧な対応だと思うが、自分の親世代のことを思い出すと、当時はこんなお礼電話を入れる風習があったなぁと懐かしく思い出した。

 

 

 歌子の結婚 歌子再びとらやへ

 歌子の家。歌子が父親と日々の生活のことを話していた。珍しく機嫌の良い父親を見て歌子はマサクニさんにもう一度会ってほしいと頼むが、父親は結婚したければ勝手にしろと言い残し去ってしまう。

 その頃とらやでは寅さんが歌子がまた訪ねて来るのを待ちわびていた。日々同じことを繰り返す寅さんのことをおいちゃんがネタにする。寅さんは帝釈天で仕事を始める。

 夕方、とらやの皆は歌子のことを心配していた。さくらが言った一言を寅さんと歌子が上手くいくようにと勘違いしたおいちゃん、それを皆で笑っているところへ寅さんが帰って来る。話を聞いていた寅さんは旅に出ようとするが、そこへ歌子がやって来る。皆は歌子を歓迎し、また夕食を一緒にする。夕食後の話で歌子は失恋話を語る。その後帰ろうとする歌子をさくらが泊まっていけばと誘う。歌子は泊まることにするが、さくらだけに実は泊めてもらうつもりで来たと告白する。何かあったのかと聞くさくらに、歌子は父とちょっとねと答える。

 翌日、寅さんが歌子を散歩に連れ出す。帰って来た歌子はさくらの家に泊りに行くことになっており、寅さんは機嫌を損ねるが、寅さんがいると話しづらい愛情問題とかと博に言われ寅さんは喜んでしまう。

 

 

 歌子が父親に恋人にあってほしいと頼むことで、歌子が好きな男性がいることが明かされる。しかし父親は娘の結婚には反対だった。そして歌子が再びとらやへ。待ちわびていた寅さんは喜ぶが、歌子はある決意を持ってとらやを訪ねて来ていたのだった。

 珍しくマドンナのとらやでの2回目の夕食シーンとなるが、ここでもとらやの皆はぎこちない。というか、寅さんのアリアがあるわけではなく、寅さんの失恋話で大笑いするだけ。寅さんが歌子の前ではいつもの調子が出ないのはここでも現れている。

 

 

 

 歌子がさくらの家へ そして終盤へ

 歌子はさくらたちに結婚を考えている相手の仕事(陶芸家)のこと、父親が歌子の結婚に反対していること、父親は一人では何もできないことなどを話す。博が自分の父親もそうだと同情しつつ、歌子が結婚しても父はそれを乗り越えるられるはずだと歌子の結婚を後押しする。

 寅さんが歌子を迎えに来る。寅さんは歌子がどんな話をしたか気になって仕方ない。寅さんは歌子を送りつつ話を聞くが、歌子は自分の結婚話をしていたと答え、さくらたちのおかげで結婚する決意ができた、寅さんと出会えたことに感謝すると話し、泣き出してしまう。

 寅さんは旅立つ準備をしてさくらや満男と河川敷にいた。歌子のことを話した後、またフラれたか、のセリフを呟いてしまう寅さん。

 夏。とらやに歌子の父親がやって来て、歌子が世話になったことの礼を言う。歌子からの手紙もきていた。歌子は結婚をして夫の陶芸を手伝っている様子が書かれていた。さらに歌子のもとを寅さんらしき人が訪ねてきたが会えなかったとも。

 寅さんは旅先にいた。橋を渡っていた寅さんは川べりに登がいることに気づき、声をかける。そして通りかかったトラックに二人で乗せてもらう。

 

 シリーズ第9作。

 さくらの家で博に言葉に結婚を決意する歌子。その後、歌子はさくらや博から見れば自分はみっともないわねと話すが、それに博が「いいじゃありませんか、みっともなくたって」と答える。実は本作を観る直前にBSテレ東で放送されていた第48作を観ていた。48作に、泉が奄美にいる満男に会いに来て詰め寄るシーンがあるが、それを見ていた寅さんがみっともないねぇと言うと、リリーが「いいじゃないか、みっともなくたって」と答えるシーンがある。偶然観たのだが、第9作と第48作の重要なシーンで同じセリフを言っていたとは。ちょっと驚いた。

 歌子が寅さんに結婚を告げるシーンは、帝釈天の中という設定だが、セットで作られた帝釈天であり、ちょっと違和感があった。セット内だからなのだろうが、吉永小百合の顔が妙に白く映っているのだ。

 本作のラストは登との再会シーンだった。寅さんのフラれ方が結構壮絶だった(本人の勘違いでしかないが)ためか、二人の再会時のバカ騒ぎにちょっと救われる感じがする。

 

 

 

雨あがる

●724あ 雨あがる 2000

 大雨のため、川留めとなる。川を見ていた浪人、三沢伊兵衛が川越えができないことを悟り、宿へ帰る。宿には大勢の貧しい民たちが同じように雨で足止めを食らっていた。その時夜鷹を生業としている女が自分の飯が盗まれたと騒ぎだし、老人を疑い始める。伊兵衛は女をなんとか諌める。その足で出かけた伊兵衛は、夜多くの酒や食物を持って宿へ帰ってきて、皆にそれを振る舞う。仕事から帰ってきた夜鷹の女にも同じように酒を振る舞い、皆は騒ぎ出す。

 伊兵衛は中座し部屋にいる奥方たよの元へ。たよは伊兵衛が賭け試合をして金を得て、皆にご馳走を振る舞ったことに気づいており、もうやめると誓った賭け試合をまた行った伊兵衛をなじる。しかし伊兵衛が謝るとたよは伊兵衛のことを許すのだった。

 翌朝雨があがる。伊兵衛は一人稽古のため宿を出る。林の中で稽古をしていた伊兵衛は若侍たちがもめているのに出くわす。その中の二人が果し合いを始めたため、伊兵衛はそれを止める。そこに殿様と家来たちが来て、若侍たちを叱責し、果し合いを止めた伊兵衛に礼を言い、さって行く。

 伊兵衛が釣りをして宿に帰ると殿の家来たちが伊兵衛のことを迎えにきていた。伊兵衛はたよが用意していた着物に着替え城へ同行する。それを何者かが盗み見ていた。

 伊兵衛は殿様からこれまでのことを尋ねられる。奥州の藩で仕事をしていた伊兵衛だったが、仕事が合わず脱藩し江戸へ向かった。しかし路銀がなく道中の道場で一芝居を打って路銀を稼ぎ江戸へ到着。そこで辻月丹の道場へ行き、師範である月丹と立ち会ったところ相手に参ったと言われ、月丹に話を聞くことに。その後月丹の元で守護湯をし師範代となるまで腕を上げ、仕官したがそこでも仕事が合わず浪人の身となった、と正直に話す。殿様は伊兵衛のことを気に入り、伊兵衛もまた殿様の気さくな性格を気にいる。その夜、食事を共にした殿様は伊兵衛を指南番とすることを家老たちに宣言するが、彼らはどこの誰とも知らない伊兵衛を指南番にすることに反対する。そこで御前試合をして伊兵衛の実力を確かめることに。

 その頃、国の道場主たちが集まって相談をしていた。彼らは伊兵衛に賭け試合を申し込まれいずれも負けて金を支払っていた。そんな伊兵衛に指南番をされては面目が立たないと思っていた。そこへ伊兵衛が城に連れていかれるのを見守っていた男が帰ってきて、伊兵衛が引き出物を持って城から帰って行ったことを伝える。

 伊兵衛は駕籠で宿まで送ってもらう。そしてたよに仕官できそうだと話すが、たよはこれまでも伊兵衛が仕事を途中で辞めてしまっていたため心配する。伊兵衛は引き出物を宿の皆に振る舞う。

 御前試合が行われる。道場主3人も呼ばれていたが、その場には現れなかった。苛立つ殿様は、家来たちと伊兵衛を立ち合わせる。伊兵衛はいとも簡単に家来たちを打ち負かす。道場主が現れず、殿様の命でも家来たちは誰も立ち会おうとしないため、殿様自身が槍を持って伊兵衛と立ち会うことに。しかし伊兵衛は真剣に勝負し、殿様を池に落としてしまう。やり過ぎたことを後悔する伊兵衛は一人城から帰ることに。

 途中林の中を通りかかった伊兵衛は道場主3人とその配下の者たちに待ち伏せされる。指南番にはなれそうもないことを告げる伊兵衛だったが、彼らは関係なく伊兵衛を襲う。しかし伊兵衛は返り討ちにし、うち一人が味方の刀で斬られてしまう。

 その夜、殿様は奥方と酒を飲みながら伊兵衛のことを愚痴っていた。しかし奥方の言葉で殿様は伊兵衛の本当の姿に気づくことに。伊兵衛はたよに仕官できそうだと話す。翌日、宿の皆は川を越えて旅立って行く。伊兵衛は城からの使いが来るはずだと待っていたが、たよは仕官できなかった場合に備え、旅の準備を始める。

 家老が供の者を連れて宿へやって来る。彼は伊兵衛が賭け試合をしたことを理由に仕官できないと断りを述べる。それを聞いていたたよは家老に、主人が賭け試合をしてきた理由が初めてわかった、大切なのは何をしたのかではなく、何のためにしたのかではないか、あなたたちのような木偶の坊にはお分かりいただけないでしょうが、と話す。家老への言葉を諌める伊兵衛にたよは、これからはいつでも好きなときに賭け試合をして周りの人たちを喜ばせてあげてほしいと話す。それを聞いた家老たちは去って行く。

 伊兵衛とたよは宿を旅立つことに。そこへ夜鷹の女がやってきてたよに薬を渡す。二人は川を渡り旅立って行く。城では家老からたよの言葉を聞いた殿様が伊兵衛たちを連れもどせと命じるが家老は反論する。殿様は自分で馬に乗って伊兵衛たちを追う。

 

 

 これまた内容を知らない一本だったが、OPで山本周五郎原作と出たため、安心して見ることができた。原作本はもちろん、10年ほど前のBSテレ東の「山本周五郎人情時代劇」シリーズや数年前のNHKの「だれかに話したくなる山本周五郎」シリーズなどドラマ化されているものを数多く見てきて、この人の原作なら間違いないと思えるため。

 

 ストーリーは単純で、どこの国に仕官しても長続きしない主人公が、川留めされた場所でその国の殿様に見込まれ仕官できそうになるが…というお話。冒頭、主人公の妻が賭け試合をして金を稼いできた主人公のことを心配するシーンが少し謎めいて描かれ、主人公の過去に何があったのかと思わせるが、その後殿様に自分のこれまでの生き方を主人公が語るシーンがあり、その謎もあっさりと判明する。

 主人公が剣豪であることもわかっているため、御前試合や道場主たちに襲われるシーンも安心して見ていられるが、襲われたシーンで、敵同士の相打ち?でいきなり血しぶきが飛ぶのはちょっと驚いた。

 

 ぼんやりとしたテーマの映画だと感じながら観ていたが、ラスト、家老を前に主人公の妻が啖呵をきる場面でテーマがハッキリと明示され、しかも殿様も主人公たちを追うシーンがあり、爽やかな気分で観終わることに。

 

 尺も1時間半と短くサクッと見るにはもってこいの一本だが、正直言えば内容的には90分でも少し長いのでは。原作は読んでいないが、この内容ならばTVの1時間ドラマでも十分見応えのある作品になったと思う。もちろん映画なので1時間にするわけにはいかず、主人公の稽古?シーンや宿での皆の宴会騒ぎなどを長くする必要があったのだろうが。

 

 何れにしても黒澤監督脚本、というのがポイント。「乱」や「影武者」とは全く異なる平凡な一浪人を描いた黒澤映画も観てみたかったなぁ。