ロープ

●344 ロープ 1948

 フィリップとブランドンは、アパートの一室でデイビッドを絞殺しチェストへ遺体を隠す。自分たちは選ばれた人間であるため、殺人を犯しても構わない、と完全犯罪を行おうとしていた。その部屋でブランドンはパーティを開く。招待客はデイビッドの両親ケントリー夫妻、デイビッドの恋人ジャネット、学友でジャネットの元恋人ケネス、皆の中学生時代の寮監カデルだった。フィリップは何でも疑ってかかるカデルに殺人がバレることを恐れる。

 ジャネットはケネスの前にはブランドンとも付き合っていたため、この場に二人がいることで不機嫌になる。ケントリー夫人は具合が悪いため、姉のアトウォーター夫人が参加する。そしてカデルが最後にやって来る。

 皆で料理を食べ始めるが、フィリップは鳥料理を食べようとしなかった。そこでブランドンがその理由として農場で鳥を絞めた話をし始めると、フィリップはそれを嘘だと騒ぎ始める。それをきっかけにカデルが殺人の正当性について話し始める。ケントリーはそのブラックユーモアを毛嫌いするが、ブランドンは選民思想を持ち出し、カデルの説を援護する。場がシラけて皆その場を移る。その際、ジャネットとケネスが二人きりになるようにブランドンは計らうが、二人は彼の真意を疑う。そして彼を呼びつけて抗議する。カデルはそれを興味深く聞く。そして家政婦から当日のブランドンとフィリップの様子がおかしかったという話も聞く。それを見ていたフィリップはカデルから家政婦を引き離す。カデルはフィリップに話しかけ、何かあったのかと尋ねるが、フィリップは興奮してうまく答えられなかった。

 デイビッドがまだ到着しないことを客たちが騒ぎ始める。どこに連絡してもディビッドは見つからない。ケントリーが妻のこともあるので、と買えると言い出し、客たちは皆帰っていく。カデルは家政婦から預けていた帽子を受け取るが、それはカデルのものではなく、DKのイニシャルが入っていた。

 客たちと家政婦が帰り、ブランドンとフィリップは口論する。そして車を用意させ部屋から出る準備をしようとしたところに電話が鳴る。カデルが忘れ物をしたと帰ってきたのだった。慌てるフィリップ。ブランドンは何とかカデルを早めに追い返そうとする。しかしカデルは酒を飲み始め、ディビッドについて話し始め、ブランドンのいたずらの可能性もあると言い出す。そしてその方法について語り、ブランドンが拳銃を持っていることに気づく。ブランドンは護身用だとごまかすが、カデルはポケットから本を縛っていたロープを取り出す。それを見たフィリップは全てがバレたと思い拳銃でカデルを撃とうとするがカデルに取り押さえられる。そしてチェストの中を確かめる。ブランドンはカデルなら殺人の理由がわかるはずだと言い始めるが、カデルは怒り警察を呼ぶ。 

 

 ヒッチコックの作品だが、タイトルすら知らなかったが、考えさせられる一本だった。日本でも少し前に障害者施設で大量殺人事件があったが、まさにブランドンのような考えを犯人も持っていたのかと思う。劇中ヒトラーの話も出て来るが、ブランドンは全く気にしていないところも怖い。気弱に見えるフィリップはなぜブランドンの行為を止めなかったのだろうか。

 映画としては長回しをした初めての作品、ということで有名なようだが、ブランドンの思想の怖さの方が気になってしまった。うーむ。

 

 

 

本所おけら長屋 十一 畠山健二

●本所おけら長屋 十一 畠山健二

 「こまいぬ」

 三祐で飲んでいる八五郎と松吉の元へ亀沢町の克蔵がやってくる。石原町の若い衆が弁天社に狛犬を奉納したことが面白くない彼は神の手を持つと言われた柳島町の石工石貫に狛犬作りを頼みに行ったが断られたと話し、万松に石貫に狛犬を彫らせることができたら、石貫に払う10両とは別に1両を出すからと頼む。

 万松は早速石貫に頼みに行くが見事に断られる。近所に住む老婆にその理由を尋ねる。2年前石貫の娘お澄と弟子吉五郎の間に子供ができてしまい結婚を申し込んで来たが、半人前の吉五郎を許せなかった石貫は二人を追い出してしまった。石貫はその一月後廣済寺に聖観音像を納めたがその出来が悪いと言われてしまう。無心で石を彫ることが出来なくなったことに気づいた石貫はそれ以来手の込んだ仕事から手を引いたということだった。

 松吉は吉五郎とお澄が住む青戸村へ出向き、二人の気持ちを確かめる。その3日後、松吉はまた石貫の元を訪れ、狛犬の件は諦める、青戸村の石吉という若い石工が狛犬の左右を石吉と石貫とで彫りどちらの腕が良いか勝負だ、と言っていると話す。石貫はその勝負を受けて立つことに。松吉は吉五郎にも話を通す。

 2ヶ月後、弁天社の境内で狛犬が披露される。どちらの狛犬も見事な出来だった。3日後、松吉は石貫と吉五郎お澄を引きあわせる。石貫は吉五郎の腕を認め、孫を抱く。そして松吉に材料代だと言い10両の支払いを求める。

 

 「といちて」

 仁九郎は神田界隈で知られた岡っ引き。和泉橋での駕籠かきと大八車の喧嘩を見事に納め、野次馬たちの喝采を浴びるが、その中に弥太郎がいた。弥太郎は仁九郎に惚れ、子分にしてくれと頼み込むが断られる。

 しかし岡っ引きになるのに決まりごとはないと聞かされた弥太郎は、勝手に久右衛門町の親分を名乗り始め、子分の鶴吉とともにまたおけら長屋に住み始める。

 そんな弥太郎のところへ貸本問屋樋口堂の娘舞がやってくる。樋口堂の手代善吉が200両の金を盗んで姿をくらましたから探してほしいということだった。舞は番頭の銀兵衛が怪しいと話す。弥太郎は早速調べ始める。

 島田の道場へ南町同心伊勢の紹介で仁九郎がやって来る。仁九郎は、綿問屋羽衣屋の二番番頭が店の金100両を盗み大川に身を投げたが、100両は出てこなかった、この事件には裏があると考えており、3ヶ月調べている、と話す。さらに樋口堂の一件も話し、弥太郎のことに行き着く。

 弥太郎は銀兵衛と話していた新太を見張っていたがうっかり見逃してしまう。それを見ていた万松が新太の後をつける。新太は賭場へ行くが負けてしまう。その新太に賭場を仕切る男が金を貸すのを目撃する。万松は島田に報告をする。

 島田は仁九郎とともに賭場へ。そして賭場を仕切る勘二郎に博打好きの大店の番頭を紹介する、と話し仲間になろうとする。その時、弥太郎と鶴吉が捕まって勘二郎の元へ。島田と仁九郎は勘二郎たちを捕まえることに。

 弥太郎はこの一件で懲りて、自分のために作った十一手(といちて)を仁九郎親分に返す。そこへ舞がお礼に来る。舞は善吉と結ばれることになり、弥太郎は涙を流す。

 

 「ぬけがら」

 松吉の猫がまた行方不明になり、松吉は三祐に張り紙をしようとする。そこへお染がやって来て、万造に松吉とお栄はどうなっているのか、と聞く。さらに万造とお満のことも。そこへお満がやって来て賑やかな酒盛りとなる。お染は自分の過去を思い出す。

 お染の両親は火事で亡くなり伯母に引き取られ、伯母の裁縫の仕事を手伝っていた。伯母の実家の機織の仕事が忙しくなり一緒に所沢へ行くことに。作った織物は入間屋という問屋へ納めに行っていたが、そこで跡取り息子の庄一郎と出会う。ある日庄一郎に想いを告げられ二人は結婚することに。庄一郎の両親にも可愛がられ平和な日々を過ごす。子供ができないことだけがお染の悩みだった。結婚して4年目入間屋が大きな借金を背負うことに。両親は庄一郎お染に逃げるように言い、自分たちは死んで詫びると話す。お染は自分も嫁だと言おうとするが、庄一郎は父親の言葉にうなづく。庄一郎は遅めに離縁を申し出る。そして江戸に逃げるように言い、必ず迎えに行くからと話す。両親は川に身を投げる。お染は庄一郎に見送られて江戸へ立つが、途中で引き返す。庄一郎は両親が身を投げた場所に手紙を残し身投げをしていた。

 お染も川へ入り気を失う。気が付いた時には伯母に介抱されていた。そして自分が身ごもっていたがその子も流産したことを知る。抜け殻のようになったお染は江戸に出る。そして酒に溺れ男に騙され、丑三つの風五郎という盗賊の情婦となっていた。そして盗賊の仕事がいやになり、火付盗賊改方に自首をし、おけら長屋に住むことになる。

 三祐に島田もやって来る。松吉の猫は見つかるが、おけら長屋にめでたい話は当分なさそうだとなる。

 

 「えんがわ」

  八五郎の師匠文蔵は、甥の文七が八五郎の娘お糸と結婚をしたのを機に引退をし余生を送っていた。文蔵の娘お豊から言われた八五郎は文蔵に会いに行く。そこで文蔵からお小夜という50歳過ぎの女を探してほしいと頼まれる。20年前普請先の女中をしていたお小夜と文蔵は出来てしまい、子供を授かったが2ヶ月後その子供文太は死んでしまう。文蔵はお小夜を詰りお小夜は姿を消してしまった。

 八五郎は万松に相談、10日後万松はお小夜を見つけて来る。しかしお小夜は一月前から4、5歳の子供と一緒に暮らしていた。お小夜は文太の墓参りでいじめられている子供を見かけ、寺の和尚に声をかける。その子供多吉は両親に捨てられて寺で預かっていた。お小夜は多吉を自分が住む長屋に連れて帰り一緒に暮らし始めていた。

 万松にお小夜の居場所を聞いた八五郎はお小夜を長屋に訪ねる。その際多吉が喧嘩をしている現場に遭遇、八五郎は子供たちを追い払ったが多吉に怪我をさせられる。それを見ていたお小夜は家に八五郎を招き入れる。八五郎は全てを告白する。お小夜は文太が死んだ日、文蔵の妻お末が香典を持って来てくれたことを話す。その時多吉に怪我をさせられた子供の母親がお小夜の家に乗り込んで来る。八五郎は割って入るが、お小夜が心の臓の病で倒れてしまう。お小夜は医者に診てもらうが、長屋の住人は多吉の面倒を見ることを拒否し、多吉を八五郎へ預ける。

 

 「らくがき」

 多吉はおけら長屋で暮らし始める。万松が多吉に声をかけおけい婆さんの店で芋を騙し取る。それを知った八五郎は万松の家へ行くが、そこで多吉は笑っていた。それは八五郎が初めて見る多吉の笑顔だった。そして万松が多吉を仲間にしたこと、多吉がそれを喜んだことに気づく。

 翌日八五郎は久蔵の妻お梅が息子亀吉の面倒を多吉に見させているところを見る。多吉は絵を描いて赤ん坊の亀吉を喜ばせていた。八五郎はおけら長屋の力を改めて感じる。

 八五郎は万松に三祐へ呼ばれる。緑町のでかい屋敷、御作事奉行榊山主計頭徳重の家の壁に竜の絵の落書きがされており、家来たちが犯人探しをしているとのことだった。目撃者の証言から多吉が描いたものと思われた。八五郎は家に戻り、多吉に竜の落書きのことを尋ねる。多吉は屋敷に入る駕籠付きの侍に蹴られ怪我をしたので、悪いことをするとバチを当てると和尚が言っていた寺の天井にあった竜の絵を描いた、と話す。

 八五郎は万松、島田に相談。八五郎は自分が屋敷へ行くと言い出す。翌日八五郎が屋敷へ行くと島田が待っており、当て身を食らわせ八五郎を気絶させる。島田は代わりに屋敷へ乗り込み、榊山に全てを打ち明ける。榊山は明日八五郎と多吉を屋敷へ連れて来るように話す。

 翌日八五郎と多吉が屋敷へ行くと、榊山と絵師安岡草深が待っていた。草深は多吉の絵を褒め多吉を絵描きとして育てたいと言い出す。八五郎と多吉は話を受け入れる。

 話を聞いた万松は多吉が捨てられた長屋へ出向く。多吉の実の母親は声を失って多吉との会話を絵でしていた、と聞いて来る。

 

 「こまいぬ」はそのまま落語になりそうな人情話。よくあるパターンとも言えるが、珍しく途中万松が別行動を取り、松吉一人が動き廻る。親子の愛を描いた作品故に、最後の万造のセリフが泣かせる。

 「といちて」は前作に引き続き、弥太郎の騒動話。プラス久しぶりの事件解決話か。タイトルの「といちて」が何かと思わせるが、弥太郎らしいオチだった。

 「ぬけがら」はおけら長屋の謎の女と言われる(笑 お染の若い頃の思い出話。18歳の時の初恋が実らなかった話は「おけら長屋 四」で披露されているが、そこから盗賊の情婦になるまでの間の話。幸せな結婚生活から一転地獄を見た経緯が語られる。話の本線ではないが、金のある時ない時での周りの人間が手のひらを返したように変わってしまう、という皮肉も描かれる。

 さらに、お染の口から松吉とお栄の仲の良さが語られる。これは「おけら長屋 八」の最後で指摘したこと、やっぱりなと嬉しくなった。

 「えんがわ」「らくがき」は「おけら長屋 九」以来の連続もの。師匠文蔵の引退話からお小夜を探す話へ、そして多吉が登場し…。不幸な時を過ごした子供が大人を信用しなくなる、その子供をどうやって笑顔にするのか。おけら長屋の真骨頂、と言ったところ。さらに旗本の家の壁の落書き騒動へ発展。ここでは話のわかる榊山が登場、見事な大団円となる。

 

 11作目、本当にパワーが衰えないなぁ。気になっていた松吉とお栄のことも話題になって来たし、ダメ息子弥太郎はこれで姿を消すのか、文蔵は大人しいままなのか、多吉やお小夜はまた出て来るのか。気になることがまた増えてしまった(笑

 

 

裏窓

●343 裏窓 1954

 カメラマンのジェフは左足を骨折しギブスをはめ自室にこもっている。科挙位の看護師ステラと恋人リザが部屋を訪ねて来てくれる。動けないジェフの楽しみは裏窓から見えるアパートの住民の生活を覗くことだった。

 リザとは価値観の違いから結婚できないと考えていたジェフはリザにそのことを告げる。しかし話の平行線のままリザは帰っていく。車椅子でウトウトしたジェフは夜中に目が覚める。アパートの中年夫婦の夫が大きなスーツケースを持って何度も出かけて戻ってくるのを見かける。ジェフが寝ている間に夫婦は一緒に出ていく。

 翌日ジェフは夫婦の妻がいつも寝ていたベッドからいなくなったことに気づく。看護師ステラに話すが彼女は相手にしなかった。ジェフは望遠鏡やカメラの望遠レンズで夫の様子を探る。彼は台所で包丁やノコギリを片付けていた。

 夜家に来たリザに夫の話をする。彼女も相手にしなかったが、夫が大きなトランクをロープで縛っているのを見て、リザは話を真剣に聞くことに。リザは家に帰るときに向かいのアパートへ行き、夫婦の名前ソーワルド夫妻と住所を調べてジェフに電話する。

 翌日ジェフは友人で刑事のドイルに連絡をする。その時ソーワルドが大きなトランクを業者に運ばせていた。ステラが業者の名前を調べにいくが間に合わなかった。ドイルが部屋にやってくる。ジェフは一連の話をする。その時ソーワルドが中庭にやって来て、花壇を掘っていた子犬を追い払う。ドイルはアパートで調べ、ソーワルド夫妻は昨夜出かけたのを目撃されていると話す。

 夜ソーワルドはクリーニングを持って帰ってくる。奥さんのハンドバッグから貴金属を取り出す。ジェフはソーワルドが逃げると思いドイルに連絡する。しかしドイルはこれは事件ではない、荷物は夫人が旅行先で受け取ったと調べがついたと話し帰っていく。ジェフとリザはソーワルドのことは考えないことにする。

 その時中庭から悲鳴が聞こえる。向かいのアパートで子犬を飼っていた夫婦が子犬が殺されたと叫んでいた。アパート中の住民が顔を出すが、ソーワルドだけが顔を見せなかった。ジェフは前に撮った写真を見て、花壇の花の様子が変わったことに気づく。子犬は花壇を掘ったために殺されたと判断。花壇を掘り返すことに。ソーワルドに偽の手紙を書き電話でホテルへ呼び出し、その間にリザとステラが花壇を掘ることに。

 しかし花壇からは何も出てこなかった。リザは証拠をつかむためにソーワルドの部屋へ侵入。妻の結婚指輪を見つけるが、その時ソーワルドが帰って来てしまうピンチに。しかし警察がソーワルドの部屋に来てリザは警察へいくことになるが、ソーワルドがジェフに気づく。ジェフはステラに保釈金を持たせ警察へ行かせる。ソーワルドはジェフに電話をし、部屋へやってくる。フラッシュで対抗するが、ジェフは部屋から落とされてしまう。ドイルたちがやって来て、ジェフは助かるが、両足を骨折することに。

 

 またも有名なヒッチコック作品。「怖さ」を前面に出した作品、というよりはミステリー色が強い一本。安楽椅子型探偵モノといった感じか。映画はジェフの部屋と部屋から見えるアパートだけで全てが進行する。舞台劇のようだが、アパートの数多くの部屋がのぞき見えるところがポイントなので、舞台ではちょっと無理かも。

 ソーワルド夫人の殺害事件がストーリーのメインだが、ジェフとリザの関係やアパートの他の部屋の住民のエピソードがメインのストーリーとともに進行していてコメディ部分も多い。

 「レベッカ」がヒッチコックのベスト、だと書いたが、ミステリー映画としてはこの「裏窓」もベストに匹敵する一本だと思う。状況証拠だけで掏摸を詰めていく、というのがちょっと無理があるが、恋人リザや看護師ステラもだんだんとジェフの推理に魅せられていくのが面白い。ラストのオチも良いし。

 グレース・ケリーはこのブログを初めて初だと思っていたが、「真昼の決闘」にも出ていたのか。全く気づかなかった。でもやっぱり美しい。

 

男はつらいよ 50年をたどる。 都築政昭

男はつらいよ 50年をたどる。 都築政昭

 「男はつらいよ」50作目を記念して刊行された一冊らしい。ただし「寅さんの風景〜山田洋次の世界」を加筆修正したもの。

 3部構成。「寅さんの風景」「男はつらいよ 秀作篇」「山田洋次の風景」の3章からなる。山田洋次監督の言葉などを多数引用しながら、男はつらいよについて分析している。

 「寅さんの風景」では、男はつらいよが製作された過程、山田洋次監督の編み出した設定の巧みさ、などについて触れている。「男は〜」の関連本は数多く読んだが、文章化されるとその設定の上手さを改めて知ることとなる。「(おいちゃん、おばちゃん、寅さん、さくらの)4人には一親等関係は一人もなく…」確かにその通りだが、映画を観ているときにそれを感じることはあまりない。

 「男はつらいよ 秀作篇」では渥美清さん生前に作られた48作の中からテーマを絞って秀作をあげ、そのポイントについて論じている。どれも傑作揃いであるが、特に32作「口笛を吹く寅次郎」について、博の兄弟喧嘩については、これまた映画をぼうっと観ていては気づかないことに触れていて驚いた。

 「山田洋次の風景」では監督の幼少期からの歴史について語り、それがどのように「男は〜」に影響したかを論じている。これまでもインタビューなどで部分部分について聞いたり読んだりしたことはあったが、ここまで監督の幼少期から青年期までの詳細を読んだのは初めて。「家族」をテーマにしている理由がよくわかる。

 来月にはNHKで50作が放送されるらしい。頭の中が、ちょっと「男はつらいよ」モードに入って来た感じ(笑

 

●342 鳥 1963

 ペットショップに九官鳥を買いに来たメラニーはミッチに店員だと思われ声をかけられる。ミッチは妹のためにラブバードを買おうとしていた。ミッチのために店内を探すメラニーだったが、実はミッチはメラニーのことを知っていて声をかけたのだった。

 ミッチは店を出て行く。彼のことが気になったメラニーは車のナンバーから持ち主の情報を調べ、ラブバードを発注する。

 翌日ミッチの家に鳥を届けるが彼は留守。隣の住人からミッチがボデガ・ベイに行っていると聞かされる。メラニーは車を飛ばしてボデガ・ベイへ。そこの雑貨屋でミッチの家と妹の名前を聞く。しかし妹の名前がわからず彼女の先生の家も一緒に教えてもらう。メラニーは先生アニーに会い妹の名前がキャシーだと教えてもらうが、彼女はミッチと何かありげな感じだった。メラニー港に戻りモーターボートでミッチの家に行き、ラブバードを置いてくる。しかしミッチがそれに気づきボートの返却先へ先回りをする。そこでメラニーはカモメに襲われ怪我をする。レストランに入り怪我の手当てをする。そこでメラニーはミッチの母リディアを紹介され、夕食に招待される。メラニーはアニーの家に行き空き部屋を貸してもらい泊まることに。

 リディアは鳥が買ったばかりの餌を食べないことで文句を店に言うが、他の餌を買ったダンの家でも同じだと聞き不思議がる。メラニーは家を去るときにミッチと喧嘩をしてしまう。アニーの家に戻ったメラニーはアニーがミッチの元恋人だったこと、母親リディアが厄介だ、と聞かされる。その時アニーの家の玄関にカモメが衝突して死んでいるのを見つける。

 翌日キャシーの誕生パーティが開かれる。野外で遊んでいた子供達が鳥に襲われる。家に入ったミッチ一家だったが、今度は暖炉から鳥が大量に侵入して来て襲われる。暖炉を塞ぎなんとか凌いだ後に警察に連絡するが、話を信じてもらえない。

 翌日母親リディアは鳥の餌の件でダンの家へ行く。ダンは家の中で鳥に襲われ死んでいた。驚いたリディアは急いで家に帰る。メラニーはリディアを看病し、キャシーを迎えに学校へ行く。授業が終わるのを待っていると、カラスの大群が集まってくる。アニーに知らせ子供達と一斉に逃げるが鳥に襲われる。

 メラニーはレストランへ行き、新聞社を経営する父親に電話するが信じてもらえない。レストランの客たちも話を信じなかった。その時、店の外のガソリンスタンドにいた人間が鳥に襲われ、あたり一帯はパニックになる。

 鳥が去った後、ミッチとメラニーはキャシーを迎えにアニーの家に行く。しかし家の前でアニーは鳥に襲われ死んでいた。家の中にいたキャシーを連れ家に戻る。家に戻ったミッチは家の出入り口を板で塞ぐ。ラジオからは有益な情報は得られない。家の中で静かにしていた4人だったが、鳥たちが襲ってくる音が聞こえる。ミッチは窓から侵入しようとする鳥を退治する。夜中皆が寝ている時メラニーは異常に気づき2階への部屋へ。そこには窓から侵入した大量の鳥たちがいてメラニーは襲われ気絶する。ミッチが気づき彼女を部屋から助け出す。

 ミッチは街を出る決心をする。ガレージにあった車を動かし家族を乗せ家を出て行く。

 

 動物パニックものの元祖、かな。CGがない時代にこれだけの映像を作るのはさすがにヒッチコック。一羽のカモメに襲われるところから始まって、映画中盤からは大量の鳥たちによる大襲撃が映像化される。いやぁ怖い怖い。大量のカラスが飛び立つシーンは作り物じゃないのか、とわかってビックリ。

 さらに凄いのは終盤、ミッチの家が襲われるシーンでは、大量の鳥を映像で見せるのではなく、その音で恐怖心を煽る。ちょっとだけ出て来た(窓から入ってこようとする)カモメが可愛く見えたもの(笑

 単なる恐怖映画、と思っていたが、改めて見ると、家族や愛情の問題も描いているのね。主人公メラニーは母親と不仲だし、ミッチの母親は夫に先立たれ子離れできずにいるし、教師アニーは元ミッチの恋人で別れたのにミッチの実家のある街に住んでいるし。これらの問題は何も解決しないし、そもそも鳥が襲って来た理由も明らかにされないし。わからないことづくめの映画だけど、なんか見れちゃうんだよなぁ。あぁこれが名作、と言われる所以か。

 

本所おけら長屋 十 畠山健二

●本所おけら長屋 十 畠山健二

 「さかいめ」

 おけら長屋の大家徳兵衛は遠縁に当たる飯田屋の主人九兵衛と話していた。九兵衛は息子弥太郎をおけら長屋に預け、棒手振りの仕事をさせたいと話す。弥太郎はどうしようもない息子だったが、久兵衛の父に世話になった徳兵衛は断れなかった。

 弥太郎は辰次の元で修行を始める。しかし3日後、辰次が泣いて帰ってくる。弥太郎の言い分があまりに的を得ていたため、辰次は魚屋をやって行く自信がなくなったためだった。しかし辰次によれば弥太郎は小ずるい所のある男だった。

 弥太郎は長屋でも騒ぎを起こす。皆でやる仕事を教えていた久蔵にいきなり殴りかかったためだ。

 困った徳兵衛は弥太郎を金太に預けることに。しかし金太のバカっぷりを知った弥太郎は金太を騙し金を奪いその金で酒を飲む始末。それを知った万松は弥太郎を殴り去って行く。そこへ島田が現れ弥太郎と酒を飲む。弥太郎は金太に対する自分の態度と長屋の皆の態度のどこが違うのかと言い始める。島田は丁寧にそれに答える。

 弥太郎は大人しく金太とともに仕事をするようになる。仕事帰り久蔵と出会ったところへ弥太郎が賭場で揉めた相手と出くわす。久蔵は長屋に助けを求めに行く。やられそうになった弥太郎を助けたのは金太だった。金太の天秤棒を振り回し男たちをやっつける。そこへ長屋の連中もやってくる。弥太郎は金太と会話する長屋の連中の言葉に涙をする。

 長屋の弥太郎の両親がお礼を言いにやってくる。弥太郎が改心したためだったが、その場で弥太郎はおけら長屋に住み棒手振りになって、万松の弟分となるんだと話し、皆を呆れさせる。

 

 「あかぎれ

 八幡長屋に住むお福は、お咲の知り合いで、旗本屋敷で下働きをしていた。夫は5年前に病で亡くしていた。そのお福は2年前から富山の薬売りをしている和助と深い仲になっていた。年に2回会えるだけの仲だったが、お福はそれを幸せに感じていた。

 本所界隈で発生している追剝を追っていた島田は偶然会ったお咲に声をかける。その時追剝が人を襲う。駆けつけた島田たちはそこで追剝を追い払った和助と出会う。

 数日後仕事から八幡長屋に帰った和助はお福から話を切り出される。お福の奉公する屋敷に武家のお嬢様である千歳が行儀見習いに来ていた。その千歳が殿様が家宝にしている皿を割ってしまいお手打ちになる、ならなくても自害する、と話しているとのことだった。お福は皿を見ることは月に一度程度しかないため、その時が来るまでは待とうと千歳に言ってその場を収めたのだった。

 翌日居酒屋で酒を飲んでいた和助が島田と出会う。和助は島田に金を払うので盗みの手助けをしてほしいと話す。島田は事情を聞く。和助は元武家だが派閥争いに巻き込まれ、致仕し妻にも離縁状を渡し藩を出て、富山の薬売りになっていた。その後別れた妻と娘が江戸勤めの藩士と結婚したこと、妻は病気で亡くなったこと、娘は行儀見習いとして旗本屋敷に上がったこと、それがお福が奉公する大隅守の屋敷であること、を話す。和助はお福にも迷惑をかけずに千歳を助けたいと話す。

 島田の道場に男が訪ねて来る。それは追剝騒ぎで襲われた男藤三郎とその店常総屋の主人太郎兵衛だった。太郎兵衛は藤三郎を助けてもらった礼だと金を出すが島田は受け取らない。その場にいた和助も含め、太郎兵衛に島田は全てを打ち明ける。

 太郎兵衛は3日後和助にあるお願いをする。それは太郎兵衛がお福の屋敷を訪ねお皿を見たいと話すので、千歳にそれを持って来させてほしいというものだった。和助はお福にその話をする。当日、太郎兵衛は大隅守の借用書を持って屋敷へ。そこでお金が払えないという大隅守に家宝の皿を出せと話す。そしてその皿の入った箱を受け取った藤三郎が箱を落とし皿を割ってしまう。太郎兵衛は皿と引き換えに、と借用書を破く。

 

 「あおおに」

 油問屋河内屋の次男喜之助は長屋で一人暮らしをしている。彼はおとぎ話を作って書いていた。その喜之助の家へ長太郎という子供が遊びに来て彼の作った話を聞くのを楽しみにするようになった。

 おけら長屋に住む隠居与兵衛の元へ相模屋の番頭がやって来る。与兵衛が店のことを聞くと与兵衛の息子で店の主人宗一郎がたに女を作って夫婦仲が悪いことを話す。与兵衛は孫の長太郎と清一郎のことが気がかりだった。清一郎は喘息持ちだったためだ。

 宗一郎の妻お恵は後妻だった。長太郎の母お元は亡くなっていた。宗一郎は清一郎のためにお恵と清一郎を小田原へやろうとしているが、お恵はその隙に宗一郎が他の女と遊ぶのだろうと邪推していた。それを聞いていた清一郎は喧嘩の原因は自分なのかと涙を流す。

 清一郎が食事を取らなくなったため、お満が様子を見に行く。そこで長太郎が清一郎におとぎ話をするのを聞く。そしてその話を誰が作ったのかも。

 与兵衛の家に番頭がやって来る。宗一郎の女が身籠りその兄という男が店にやって来たということだった。

 喜之助の家に兄福蔵がやって来てこの先どうするつもりだと問いただす。そこへお満がやって来る。

 清一郎の具合が悪化する。長太郎は喜之助の家にやってきて、昔聞いた願いが叶う山の神社の話に出て来る神社はどこにあるのかと尋ねる。喜之助は長太郎の弟を思う気持ちに胸を熱くする。

 与兵衛は店に来た宗一郎の女の兄の住む家へ行く。そして全てを受け入れると話し、人別帳や身ごもった女を医者に連れて行く、と言い出す。兄を名乗った男は与兵衛を連れ出し襲う。そこへ島田が助けに入り、二度と相模屋に来るなと言い渡す。

 相模屋では長太郎がいなくなって大騒ぎに。お満は福蔵と与兵衛を店に連れて来るように言い、長太郎は一人ではないので大丈夫だと話す。長太郎は喜之助と目黒の山に行っていた。午後になり皆が集まったところで、お満は事情を話し出す。しかしそれを聞いた宗一郎とお恵はまた夫婦喧嘩を始める。そこでお満の怒りが爆発、宗一郎、与兵衛、番頭に思いの丈をぶつける。宗一郎お恵夫婦はやっと改心し頭をさげる。

 夜になり長太郎は喜之助と店に帰って来る。店を出た島田はお満にまるで万松のようだったと話し笑う。 

 

 「もりそば」

 女に惚れやすく慌て者で本所界隈で有名な半次がまた女に惚れる。今回惚れたのはお千代。半次はあたりの独り者にお千代に惚れるな、と言って廻る。万松のところにも半次がやって来て、お千代に自分の思いを伝える方法はないかと尋ねる。

 お千代の幼馴染お弓はお千代が甘味屋立野屋の玉助に惚れているのを知っていた。玉助がお千代のことが好きなら、半次が騒げば玉助も放っておけないはずだと話す。

 万松は半次に回向院で行われる千寿庵の蕎麦大食い大会で一位になりそこでお千代に嫁に来てくれと申し込めば断れないだろうと話す。

 お弓はお千代を連れ甘味屋立野屋に行く。そこで玉助に聞こえるように半次のことを話し、自分のために頑張ったと言われたら私もその人を好きになっちゃうと話す。

 大会当日、半次も玉助も大食い大会に参加。万松は密かに金太に参加費を渡して大会に参加させていた。バカの金太は食ったことも忘れるから必ず一位になれるはず、優勝賞金の1両は自分たちがいただく、と八五郎に話す。大食いが始まる。半次は途中食べ過ぎで蕎麦を吐き出してしまい失格に。玉助と金太の二人の争いになる。終わりの時間が迫る中、八五郎が金太に声援を送ると金太は食べるのを忘れ八五郎に話し出す。

 結果、玉助が優勝。玉助はお千代とお弓の元へ歩み寄り、お弓に結婚を申し込む。

 翌日半次が万松の元へやって来る。大会で倒れた自分を介抱してくれた女に惚れた、と半次は話し出す。

 

 「おくりび」

 弥太郎はまだおけら長屋にいた。長屋で皆が大家から呼ばれる。大家徳兵衛は奉行所からの通達を話す。最近家事が多いので万が一のために長屋でも準備や訓練をするという話だった。

 長屋に町火消に組の纏持ち政五郎がやって来る。江戸っ子で見た目も良い政五郎に長屋の女たちは惚れる。長屋の皆は政五郎の指示で訓練をし、終わった後一緒に酒を飲む。政五郎は火消しのため酒を断る。弥太郎はそんな政五郎に惚れ、弟分にしてくれと頼み込むが断られる。

 数日後、両国橋でに組とい組の喧嘩が起こる。現場に駆けつけた政五郎はい組の頭に手打ちを申し入れ受け入れられる。い組のかしらは政五郎を気に入り、その場で大酒を飲み始める。いつもは火消しのため酒を控える政五郎だったが、状況が状況のため断れず酒を飲んでしまう。酔った政五郎に下野の栗田村から出て来たという男が声をかける。政五郎はその男と嬉しそうに話す。弥太郎は政五郎は江戸っ子のはずだと言うと、男は17年前に村から江戸に出て来た政助に間違いないと話す。

 万松は政五郎の家を訪ねる。江戸っ子でないと出来ない纏持ちのため、嘘がバレた政五郎は火消しを辞めていた。そして自分の過去を万松に語り、故郷へ帰ることにすると

話す。

 その夜、政五郎の家のそばで家事が起きる。家の中に取り残された婆を政五郎は助ける。後日おけら長屋に挨拶に来た政五郎は皆に見送られながら故郷へ帰って行く。弥太郎が纏を持って彼を見送る。

 

 シリーズ10作目となる本作だが、パワーは全く衰えていない。

 「さかいめ」はよくある大店のダメ息子の話。おけら長屋に預けられるが全く様子は変わらない。しかし金太とともに棒手振りをし長屋の皆と話すことで改心する。よくある人情話の形をとっているが、久しぶりに大笑いさせてもらった一編。弥太郎の改心に金太が重要な役割を果たすが、その金太のセリフがあまりに面白くて腹を抱えて笑ってしまった。本を読んでいるときに声を出して笑ったのは久しぶり。噺の上手い落語家さんの落語か、演技の上手い役者さんのドラマで金太を是非見てみたい。

 「あかぎれ」は大人の静かな恋の話。そこに別れた娘を思う父親の話が出て来て… 事件は見事に解決するが、父親と娘、この先はどうなる、と思わせる。

 「あかおに」は本作ベストか。今なら「引きこもり」と言われるだろう男が引き起こすドラマ。しかし一番の見せ場はお満の啖呵。「磐音シリーズ」のおこんも見事な啖呵を切ったが、この作品でのお満はそれを上回る。グダグタとしている登場人物たちを見事に斬って捨てる。最高のカタルシス

 「もりそば」は見事な滑稽話。オチが読めなくもなかったが、ここでも金太が最後に笑わせてくれる。「さかいめ」での活躍があるので、金太の様子が眼に浮かんで仕方がなかった(笑

 「おくりび」はちょっと切ない話。江戸っ子の気風を描いた作品、とでも言えば良いのか。最初に弥太郎が出て来たときには、また連続モノかと思ったが、そうではなかった。しかし話の最後で弥太郎も覚悟を決めなくてはいけない、という展開になったので、次作には弥太郎はいないんだろうなぁ。

 

 とうとう10作目まで読んでしまった。シリーズは現在も続いているが、そろそろ追いつきそうなところまで来てしまった。この後も1冊1冊大事に読んでいかないと…

鬼平犯科帳 第7シリーズ #12 あいびき

第7シリーズ #12 あいびき

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 お徳は花売りを待っていた。いつもの花売りから買う花には付け文がされていたからだった。それは神主朋斉からのものだった。二人は出合茶屋で密会する。朋斉はお徳に図面を持ってくるように願う。それはお徳の夫で大工仁兵衛が普請したお店の図面で、お徳はそれを写し取って朋斉に渡していた。朋斉は江戸で一二と言われる仁兵衛親方の図面を真似した家を田舎の父親が作りたがっているという理由でお徳に無理をお願いしていた。色男の朋斉に頼まれたお徳は断れなかった。

 両替商相模屋に盗賊が押し入り奉公人が一人殺される。鬼平は最近起きた伊勢屋、越後屋に押し入った盗賊と同じ一味の仕業だと考える。パッと見た目に金蔵とわからない場所にあるのをこの盗賊はあっさりと見破り金を奪っていたためだった。店の主人の話から普請したのが仁兵衛だとわかる。鬼平は伊勢屋、越後屋の普請したのが誰かを調べさせる。

 鬼平は仁兵衛のもとを訪れ、相模屋の一件を話す。仁兵衛は自分の身内に悪い奴はいないと怒る。鬼平は図面がまだ仁兵衛の元にあることを確認する。そして忠吾に仁兵衛と一緒に仕事をした仲間、仁兵衛のもとを辞めた大工を調べさせる。

 お徳は鬼平が来たことで自分のしたことを恐れ朋斉に話すが朋斉は否定する。二人が出合茶屋で会っていたのを文吉に見られてしまう。文吉は仁兵衛のもとを首になった元大工だった。文吉はお徳に声をかけ、10両を払うよう脅す。お徳は着物などを売って金を作る。

 粂八たちの調べで賭場に出入りしている文吉の名前が上がる。鬼平は文吉が仁兵衛のもとを放逐されたのが、相模屋の普請の前年であることから辻褄が合わないと話すが、彦十粂八に文吉を張り込むよう命じる。

 文吉は朋斉も脅し金を脅し取っていた。文吉はその金で賭場で遊ぶ。その賭場で粂八は文吉と仲良くなる。彦十はお徳を脅す文吉を見かける。文吉はお徳を脅し今度は20両を払えと要求する。鬼平は報告を受けるが、文吉がお徳を脅すネタがわからなかった。

 お徳は店の金に手をつけ20両を用意し文吉に会いに行く。しかしその場で文吉は何者かに刺されて死んでしまう。驚いたお徳は家に帰り、お金を店に戻す。そこへ花売りの花が届き付け文がしてあった。

 盗賊改方は朋斉を見張る。彼は盗賊たちがいる宿へ行く。そこにいたのは盗賊疾風の陣内だった。彼は配下の者に文吉を殺させていた。そして朋斉に次の店の図面をお徳に持って来させるように話す。朋斉は断ろうとすると、そこへ鬼平たちが踏み込む。その時お徳は出合茶屋で朋斉を待っていた。

 翌日鬼平は仁兵衛の家へ行く。そこでお徳と話すが、仁兵衛が留守と聞き家を後にする。何事もなかったように振舞っていたお徳を見て、鬼平は忠吾にそれにしても女は怖いと話す。

 

 鬼平では珍しい、推理小説でいう倒叙タイプの話。夫ある妻が美男子の若い男に惚れ夫の仕事図面を手渡してしまう。その店に盗賊が入り、夫の元へ鬼平が現れ妻の不安は爆発する。

 倒叙タイプの話なので、鬼平たちがいかに犯行の内幕を暴くかが焦点となるが、夫の元部下を洗っているうちに文吉の名前が出て来てあとはいつも通りの展開。話としてはそれなりに面白く、ドラマ化が遅れた理由がよくわからない。

 ただ文吉と仲良くなった粂八が珍しく鬼平にその過程で文吉の財布を盗み、しかも女郎屋の金を奢るためにそこからいくらか失敬した、と告白する場面がある。これまでの話でも似たようなことはいくらもあっただろうに、この場面は鬼平にはちょっと珍しいと思える。強引に推測すれば、このような場面を入れなければいけないほど、原作が短いのではないだろうか。朋斉とお徳の出合茶屋のシーンもちょっと長いような気もするし。そう言えば、最近読んだ江戸のことを記した本に記載があった、湯屋の二階で彦十が将棋を指す場面も出てくる。江戸庶民の憩いの場だったそうで。

 しかし竹本孝之にしろ、桜木健一にしろ、三遊亭金馬にしろ、とても懐かしい役者さん落語家さんが出演しているのにちょっと驚いた。1970、80年代によくTVで見た顔ぶれだ。本当に懐かしい。金馬さん(現金翁)まだご存命なのね。またTVで見たいなぁ。