顔のない男 北森鴻

●顔のない男 北森鴻

 乾くるみさんの「蒼林堂古書店へようこそ」を読み、その中で短編集でありながらそれぞれの短編がつながっている、と紹介されていた一冊。

 北森鴻の本は以前、香菜里屋シリーズを読んだことがある。自分のブログを調べたが、このブログを始める前だったようで記録には残っていないが。バーのマスターが事件を解決する、何か優しい気持ちになれる小説だったと記憶しているが…

 しかしこの作品は刑事二人が主人公で、その二人が事件の鍵となるメモを見つけ、執念深く捜査を続けていくストーリー。その二人も決して仲良くやっていくわけではなく、先輩刑事のやり方に疑問を持ちつつ、若手刑事が少しずつ真相に迫っていく、という硬派の刑事ドラマのような展開で驚いた。

 先の本で紹介されたように、最初の事件を追っていくうちに次々と事件に遭遇、その各々の事件が短編となっているため、自然と連続事件ものとなっており、短編集でありながら、長編推理小説にもなっている。

 しかしこの本の最大の売りはそこではなく、それぞれの事件が見せる表面的な顔が実は… という展開である。一つの事件が全く違った顔を見せる、もっと言えば全く逆の顔を見せてくるのが面白い。それが次々と起こるわけで、短編集でありながら次の章を読みたくてたまらなくなる、という仕掛け。

 

 ただこの内容ならば、ここまで凝った組み立てにはせず、王道の刑事モノにしても良かったのではと感じてしまった。それほど刑事ものとしても完成度が高い。二人の刑事の息遣いが聞こえてきそうな小説だった。

 ちょっとドキドキする一冊だったので、またあの優しい香菜里屋シリーズを読みたくなった、かな。

 

我が谷は緑なりき

●380 我が谷は緑なりき 1941

 一人の男が50年の思い出とともに谷を去ろうとしている。彼の回想が始まる。

 ヒューは両親、5人の兄、1人の姉とともに暮らしていた。父と兄たちは街の炭鉱で働いていた。

イボールの下は隣の谷のブロンが嫁に来る。二人はグリュフィド牧師の元で結婚する。姉アンハラッドはグリュフィドに恋をしていた。

 炭鉱で最低賃金が引き下げられる。兄たちは組合を作って対抗しようとするが父は反対する。納得のいかない兄たちは家を出ていく。炭鉱はストで閉鎖する。ストは冬まで続き男たちはイライラが募り始め、父は皆から非難される。ある夜母は集会にヒューと出かけ父を非難する男たちに反論する。

 集会からの帰り道で母とヒューは川へ落ちでしまい凍傷になってしまう。ヒューは二度と歩けないかもしれないと医師に告げられるが、グリュフィドが励ます。

 春になり母は歩けるようになる。そして兄たちも家に戻って来る。家では街の皆を呼んでパーティが始まる。その場で教会の執事と兄たちが言い争いになる。組合をつくることを非難されたためだった。しかしグリュフィドは組合をつくることを兄たちに提案する。アンハラッドはそんなグリュフィドに思いを打ち明けるが彼は何も答えなかった。

 ストライキは回避されるが、労働者の数は減らされてしまう。兄のうち二人オーウェンとグウィルは家を出てアメリカへ行く決心をする。

 そんな時にイボールに女王陛下からの手紙が来て女王陛下の元へ合唱隊とともに行くことに。またもパーティとなるがその最中に兄二人は家を出て行く。

 グリュフィドはヒューを連れて山へ行く。そこで歩いてみるように勧める。怖がるヒューだったが少しずつ歩けるようになる。

 教会で一人の女性が執事から糾弾される。父親のいない子供を産んだためだった。何も言わないグリュフィドをアンハラッドは問い詰める。

 ある日炭鉱の持ち主エバンスがヒューの家にやって来る。そして息子がアンハラッドと結婚したがっていると話す。その夜アンハラッドはグリュフィドに会いに行き思いを伝えるが、彼は彼女の想いを受け入れなかった。アンハラッドエバンスの息子と結婚する。

 ヒューは隣の谷の学校へ通い始める。教師にバカにされいじめっ子にもいじめられる。怪我をして帰って来たヒューを見た父は知り合いのボクサーを呼びケンカの仕方を教える。学校でヒューはいじめっ子をボクシングでやっつける。しかしそれを見た教師に罰を受ける。フラフラで帰って来たヒューを見たボクサーは学校へ行き教師をコテンパにやっつける。

 炭鉱で事故が発生。イボールが事故死してしまう。イボールの妻ブランは赤ちゃんを産む。

 ヒューは学校を卒業する。この先の進路を問われたッヒューは皆と一緒に炭鉱で働きたいと話し、炭鉱で働き始める。しかし兄二人イアントとデイビーは炭鉱をクビになってしまう。二人は外国へ。ヒューを除く兄姉は皆国を出て行ってしまった。

 エバンスと結婚したアンハラッドが街に戻って来る。ヒューは姉に会いに行く。姉はまだグリュフィドのことが忘れられていなかった。さらに使用人たちからも疎まれており、使用人たちはアンハラッドとグリュフィドのことを噂し始める。その噂が町中で広まり、グリュフィドも牧師を辞め街を出て行くことに。彼は教会で最後の説教をし住民たちを非難する。

 夜ヒューは街を出て行くグリュフィドに会いに行き姉に会うようにお願いするが彼は断る。その時またも炭鉱で警報が鳴る。落盤事故が発生、ヒューの父親が取り残される。グリュフィドやヒュー、ボクサーなどが炭鉱へ入って行く。ヒューはそこで父親を見つけるが彼は死んでしまう。ヒューは父の遺体とともに地上へ戻り、楽しかった日々を思い出す。

 

 

 19世紀終わりの炭鉱の街で暮らす家族の物語。家族仲良く平和に暮らしていたが、炭鉱の不況から端を発し兄たちが家を出て行き、姉は想い人とは異なる金持ちと結婚。普通の人の人生を描いた傑作。

 登場人物が皆誠実に生きて、まっすぐなのがとても良い。子供たちが皆家を出て国を出て行き、家族がバラバラになった時の母親の言葉が頼もしい。父親は父親の、兄たちは兄たちの、それぞれの価値観で生きて行く。男も女も精一杯生きているのが本当に感じられる。そんな中での姉と牧師との恋も切なくて良い。

 教会で糾弾される女性、生徒を平気でいじめる教師、容赦なくクビを切る会社。19世紀終わりのリアル。それでも人々は真面目に生きて行く。それでもそんな中で育ったヒューが年老いて谷を出て行く、そんな冒頭がやっぱり切ない。

 

 蛇足。ヒューの可愛さは初登場シーンで驚いたが、wikiで調べ、ヒュー役のロディ・マクドウォールがよく知っている俳優さんで驚いた。「猿の惑星」のコーネリアスであり、刑事コロンボの「死の方程式」の犯人〜葉巻入れに爆弾を仕掛け、最後コロンボにその葉巻入れを見せられ慌てる犯人。この二人が同一人物なのも驚いたが、子役時代こんなに可愛い顔をしていたのにはもっと驚いた(笑

 

 

 

團十郎切腹事件 戸板康二

團十郎切腹事件 戸板康二

 乾くるみさんの「蒼林堂古書店へようこそ」を読み、その中で「日常の謎」の元祖として紹介されていた一冊。歌舞伎界の老優中村雅楽が探偵役の短編集。18話の短編が収められている。

 紹介にあったように「日常の謎」を楽しもうとして読み始めたが、正直全くその方向性の本ではなかった。冒頭から殺人、紛失、失踪、切腹などの自殺、などの重い事件が続く。

 さらに探偵役が歌舞伎俳優ということで、歌舞伎界が舞台であることが多く、歌舞伎には不案内な自分としてはちょっとツラいかなと思って読み進めた。するとこれがなかなか面白い。いや相当面白かった。歌舞伎の演目、それもおそらく相当有名な演目なのだろうが、それが事件の背景として描かれているが、まぁぶっちゃけ歌舞伎のことがよくわかっていなくても小説としては大変面白い。

 加えて途中で気がついて驚かされたのは、小説の時代設定が昭和の早い時期であったり、中には大正時代のものまであったこと。改めてwikiで調べるとこの小説が書かれ始めたのは1959年だそうで、もう60年以上前のこと。江戸川乱歩に勧められて推理小説を書き始めた、というエピソードが巻末の解説で紹介されており、江戸川乱歩本人による解説まである!

 小説としては短編集であり、先に挙げた通り、殺人、紛失、失踪、自殺などの事件を扱っていることから、「日常の謎」というよりははるかにシャーロックホームズの日本昭和版、といったところ。一風変わった事件に探偵役の中村雅楽が興味を示すところや事件と一見関係なさそうな質問をするところ、挙げ句の果てには、ワトソン役の竹野と会った時に彼のそれまでの行動をズバリ言い当てるところまである。舞台が歌舞伎界であっても小説の持つ雰囲気がまさに正統派の推理小説であることが読みやすかった理由だと思う。

 

 18編もあるので各々は記録しないが、印象に残った2編を。

 「團十郎切腹事件」は雅楽が話として竹野に語るもの。八代目團十郎の自殺の真相に迫る。江戸時代大阪の芝居に出るために東海道を旅した團十郎の供をした人から伝え聞いた話からその道中で起きたことの謎を解き、自殺の原因も推測する。さらにその雅楽の推測を裏付ける証拠が出てくるが…。

 道中で起きる不思議な謎を解いていく過程がまさにミステリーであり面白い。それだけでは終わらず、いわゆる大どんでん返しまで待っている。この小説で直木賞を受賞されたそうだが、十分納得できる一編。

 

 「等々力座殺人事件」は裏日本の都市の近くにあった等々力座という劇場で俳優が殺される。被害者が誰の恨みも買うような人物ではなかったことや事件の周りで不思議なことが起きていたことなどから、雅楽は意外な推理を展開する。

 これはまさに日本昭和版の「Yの悲劇」。これだけで犯人の見当がついてしまうが、小説の中でも犯人の登場は印象深いものでそんなに意外には感じなかった。ただ悪質なパロディかといえばそんなことはなく、犯人が犯行に及ぶ気持ちが感じられて、本家のものより犯行をリアルに感じられた気がする。

 

 このシリーズについてはまだまだ知らないことが多いが、60年前から20年以上にわたり書かれており、10年ほど前に全集として5巻物として再刊行されている。これは久しぶりに大物を釣り上げた予感がする。早速続きを読んでみたい。

 

縛り首の木

●379 縛り首の木 1959

 1873年モンタナ州黄金の道を金鉱目指し多くの男たちがやってくる。医師ジョーフレイルもその一人だった。彼は空き家を買い診療所にすることに。

 金鉱で男が金を盗もうとしたところを山師フレンチーが見つけ銃で撃つ。怪我をした男は逃げるが金鉱の多くの男たちが彼の後を追う。フレイルは男を助け手当てをする。男はルーンと名乗るが、フレイルに反抗的な態度をとる。フレイルは怒り、いつでもルーンを絞首刑にする証拠、体から取り出した銃弾を見せ、自分のところを手伝うように話す。

 ルーンは金鉱の皆に診療所が出来たことを宣伝して廻る。金鉱には信仰治療者のジョージグラブがおりフレイルの診療所が出来たことを疎ましく思っており診療所まで来て皆にフレイルのことを信じるなと話す。しかしフレイルに追い払われる。

 夜フレイルは街でカードを楽しんでいた。大きな勝負になり相手は金鉱の採掘権をかけてくる。フレイルは受けてたち見事勝負に勝つ。負けた男はフレイルに「その金でイリノイ州に帰りまた家を焼くのか」と話す。怒ったフレイルは男を殴り倒し銃で撃とうとするがやめて店を出る。フレンチーは男に事情を聞く。

 フレイルの態度を見たルーンはフレイルをなじる。フレイルはルーンに明日から金鉱ほりもすると命令する。

 山で駅馬車が襲われる。馬車は崖から転落してしまう。駅馬車の御者が街に来て助けを求める。フレイルは彼の治療のため呼ばれる。男たちは馬車に乗っていた女性を探しに捜索隊を組む。ルーンも隊に参加する。馬車は見つかるが女性は見つからず捜索隊は一夜を山で過ごす。その際街で雑貨屋を営むフラーンスからフレイルの昔話を聞く。フレイル(「儚い」という意味)は本当の名ではなく、テンプルという医師で豪邸に住んでいたが、ある日その家で男女が殺されその家を医師が焼いた、ということだった。

 翌日山でフレンチーが女性エリザベスを見つける。彼女は酷い日焼け状態だった。フレイルが診察、日焼けによる火傷と脳震盪、目もやられていた。フレイルは診療所に連れて帰り治療を続ける。エリザベスはだんだんと良くなり、アメリカに来た理由をフレイルたちに話す。

 フラーンス夫人など街の女性たちはエリザベスが来たことを風紀が乱れるといい、あまり喜んでいなかった。

 ある夜フレイルがカードで遊んでいるとフレンチーが皆から金を借りようとしているのを目撃する。誰からも金を借りられなかったフレンチーはエリザベスのいる家へやって来て金を借りようとする。そこへフレイルが帰って来てフレンチーを追い出す。彼は合図用の鐘のロープを切っていたのだった。フレイルはルーンにエリザベスと一緒の家で寝るように指示する。フレイルは酒場へ行きフレンチーと殴り合いの勝負をし、二度と家に来るな、今度来たら殺すと言い放つ。

 エリザベスの目の包帯を取る日がやってくる。視力は徐々に回復して行く。それでも怖がる彼女にフレイルは恐れることはないと話す。彼女は視力を完全に取り戻し、一緒に駅馬車に乗っていた父親の墓参りまでできるようになる。

 エリザベスはフレイルたちの夕飯を作るまでになった。しかしフレイルはカードに興じて家に帰ろうとしなかった。ルーンはそんなフレイルを見て怒る。夜遅く帰ったフレイルをエリザベスが待っていた。フレイルに愛を告白するエリザベスだったが、彼は彼女に街から出て行くように告げる。しかし彼女はフレイルの言葉に反抗する。そんな二人を見てルーンもフレイルの元を去ることに。

 翌日ルーンとともにエリザベスは街に皆に挨拶して廻る。彼女はフラーンスの店に行き、家宝のブローチを担保に採掘用の金を貸して欲しいと頼む。しかしブローチは安物だったため、フラーンスはフレイルにそのことを伝える。フレイルは金を貸してやってくれと頼む。フラーンスは金はフレイルから出ることを承知でエリザベスにはそのことは内緒で金を貸すことに。

 エリザベスとルーンは、フレンチーを仲間にして金鉱を掘り始める。しかし一月掘っても成果は上がらなかった。そこへ回診帰りのフレイルが顔を見せる。エリザベスは喜んで彼を迎える。しかしエリザベスに気があるフレンチーは面白くなく、フレイルが去った後にエリザベスに手を出そうとして拒否される。エリザベスは今日からは夜街に帰ると言い出す。

 街に帰ったエリザベスはフラーンスの店で金を借りようとするが、フラーンス夫人はエリザベスの使っている金がフレイルから出ていることを暴露し、彼女のことを商売女と言って非難する。

 エリザベスはフレイルの家に行き彼を非難する。そして自殺した女性のことを言い出す。フレイルは自分の妻と弟のことだとだけ話す。詳しい話を聞きたがるエリザベスだったが、フレイルはそれ以上は語らなかった。

 金鉱堀を続けるエリザベスたちだったが、大雨に見舞われる。そのうち大きな音がして大木が倒れ金鉱掘りの樋が壊される。しかし大木の根元から金が見つかる。大喜びする3人。金を持って街へ凱旋し、フレンチーは街の皆に酒をおごる。街は大騒ぎになる。フレンチーはフレイルが事故対応で他所へ出かけていることを知り、エリザベスの家へ行き彼女を襲う。そこへフレイルが戻って来て、フレンチーを撃ち殺す。それを見ていた住民は人殺しだと叫びフレイルを縛り首にしようとする。エリザベスは持っていた金(きん)や採掘の権利書を放棄すると言ってフレイルを助ける。住民たちは金を奪い合い大騒ぎになる。その間にルーンはフレイルを助け出し、フレイルはエリザベスの元にひざまづく。

 

 主人公グレゴリーペックの人間性がよくわからない設定でスタートするので、しばらくはそれを追いかける展開になる。金泥棒の若者を助けたと思えば、治療費も取らずに?女の子を治療し、良い人間なんだと思わせておいて、夜はカード三昧、しかも過去の話を持ち出した相手を殴り倒し、さらに銃まで抜く始末。若者ルーンならずともこの人は何者だ?と疑いたくなる(笑

 しかし映画は新たな女性の登場で新展開。エリザベスを懇切丁寧に治療するが、回復した彼女から好意を寄せられるといきなり冷たくあしらうようになる。

 ペックの人間の二重性を観せておいて、エリザベスとのやりとりでやっと真相が語られる。妻と自分の弟との不義理で人間不信になっていたのね。

 

 もう一つ。医者として金鉱に来たかと思っていたが、途中のフラーンスの話にもあるように、ペックは昔から金鉱周りで仕事をしていた男のようだ。西部劇で金鉱モノといえば、このブログでは「黄金」や「アラスカ魂」などで、金(きん)に心を奪われる人間の怖さを観ている。この映画でもラストの大騒ぎは怖い。フレンチーが街に戻って来て皆で酒を飲むまではまぁよくある話と思いきや、男たちの馬鹿騒ぎは徐々に尋常でなくなって行く。火をつけて廻る男たちがいる一方で、バケツリレーを行う住民もいるのが救いか。さらにエリザベスが金を放棄したところでの男たちの騒ぎ方も狂っている。

 

 最後に気がつくこの映画の面白い点は歌詞つきの主題歌。冒頭でも流れるがラストになり、映画のストーリーそのままの歌詞だったことがわかる。なるほどね。それでこのタイトルなわけか。

 

金田一耕助の冒険

●378 金田一耕助の冒険 1979

 金田一耕助の元へ盗賊団の女首領マリアが不二子像を持ち込んでくる。これは金田一耕助が10年前に解決できなかった「瞳の中の女」事件の鍵となるものだった。これをもとに金田一は事件解決のために動き出す…

 

 子供の頃に観た記憶があるが内容は全く覚えていない、というパターンの一本。タイトルや古谷一行金田一の映像が懐かしく思わず観てしまった。

 しかし…。こんなにヒドい映画だったっけ?公開1979年当時ならば面白かったかもしれないパロディのオンパレード。当時子供だったが、いくつかのパロディは分かったと思うが、それにしても金田一の名を借りたパロディ映画でしかない。一応事件の謎解きのようなものがあるが、全く頭に入ってこなかった。

 自分の年齢などが影響するので映画には観るタイミングがある、というのが持論だが、公開当時にしかわからないパロディを40年後に観ても笑えないという事実から、この持論は別の意味を持つことになりそう。つまり時を経ると全く意味がわからなくなる映画がある、ということ。

 

 パロディの詳細などはこの映画のwikiに詳細に記載されている。角川映画ということで出演陣は大変が豪華で、角川社長がこんな映画を撮りたかったというのもわかるが、今見ると色々と無駄遣いの映画、だとしか思えない。

 石坂金田一の大ファンだった人間としては恥ずかしいが、今回この映画のwikiを読んで、石坂金田一シリーズは最初の「犬神家の一族」だけが角川映画であり、それ以降は東宝製作だと初めて知った。それにしても、石坂金田一の最後の作品(リメイク版犬神家の一族は除く)「病院坂首縊りの家」と同じ年のしかも2ヶ月ほど後にこの映画を公開するとは…。

 

 今度時間がある時にでも、TV版の古谷金田一でも観よう。

 

 

 

魔女のパン オー・ヘンリー ショートストーリーセレクション

●魔女のパン オー・ヘンリー ショートストーリーセレクション

 オーヘンリーの全8編からなる短編集。特に良かったものを2つ。

 

 「魔女のパン」

 マーサはパン屋を営む40歳の女性。毎日売れ残りの古いパン2つを買って行く中年男性が気になり始める。彼の指の汚れから貧しい画家だと思ったマーサは、ある日彼の買ったパンに気づかれないようにバターを塗ってあげる。するとしばらくして男性が店に戻ってきてとても怒り始める。一緒に来た男性が曰く、彼は建築家でずっと設計図を書いており、。図の鉛筆の下書きを消すためにパンを使っていた。完成間近の設計図にパンを使ったら…

 

 「アイキーのほれ薬」

 アイキーは薬剤師。下宿している家の娘ロージーに惚れている。恋のライバルで同じ下宿人のマゴーワンがいる。ある日マゴーワンがロージーと駆け落ちをすると話し、それでも不安な彼はアイキーにほれ薬を作ってくれと頼む。アイキーは偽って睡眠薬をマゴーワンに渡し、ロージーの父に娘が駆け落ちをすることを密告する。父親は激怒し銃を持ってマゴーワンを待ち伏せするが…

 

「伯爵と結婚式の客」 ドノバンは同じ下宿人のコンウェイに惹かれ婚約するが…

「同病あいあわれむ」 泥棒が入った家の住民とお互いのリュウマチについて話し出す

「消えたブラック・イーグル」 悪名名高い盗賊ブラック・イーグルの顛末

「運命の衝撃」 叔父からの支援を失い浮浪者になったバランスが公園で…

「ユーモア作家の告白」 ユーモアを売りにしていた作家がスランプに陥り…

「休息のないドア」 地方紙の編集長のもとにマイコブ・エイダーを名乗る男が現れる

 

 取り上げた2本はさすがにニヤッとさせられた。「思い込み」と「策士策に溺れる」ってヤツかな。オチが見事。そのままコントになりそうな話。

 その他も面白いものが多かったが、ブラックイーグル、ユーモア作家、休息のない、はちょっとブラックが過ぎる感じ。好きな人は好きなんだろうけど。それとも当時はこんなブラックが人気だったのかしら。

 

鬼平犯科帳 第9シリーズ #02 一寸の虫

第9シリーズ #02 一寸の虫

https://www.fujitv.co.jp/onihei/photo/s9-2.jpg

 鬼平たちが盗人宿を見張っている。次々と盗賊が宿へ入っていくが、それを密偵仁三郎が確認していた。盗賊が全員集まったところで鬼平たちは踏み込む。捕り物の最中に盗賊のお頭、不動の勘右衛門が鬼平を短銃で狙う。それを見た仁三郎は鬼平を守り自分が撃たれてしまう。

 怪我をした仁三郎は独り身のため、鬼平はおまさに仁三郎の面倒を見るように命じる。仁三郎はおまさに感謝し、生涯恩を忘れちゃいけない3人目にすると話す。1人目は鬼平、2人目は船影の忠兵衛だった。

 怪我から回復した仁三郎は妹夫婦の営む店へ行く。そこには仁三郎の娘がおり、5年前に妻を亡くした仁三郎は妹夫婦に養女として引き取ってもらっていたのだった。その店を出た仁三郎に昔の仲間鹿谷の伴助が声をかける。

 10年ぶりにあった二人。伴助は船影の忠兵衛に仕返しをする、と仁三郎を誘う。仁三郎は断ろうとするが、伴助は娘の名前を出し仁三郎を脅す。15年前仁三郎は船影の忠兵衛の配下だったが、そこで殺さず犯さずの掟を教え込まれていた。

 仁三郎は仕方なく伴助の盗人宿へ出向く。そこには伴助の仲間たちがおり、皆船影の忠兵衛に厳しくされ恨みを持っていた。伴助たちは船影の忠兵衛が浅草の小間物問屋谷口屋を襲うのを手伝いつつ忠兵衛を殺すつもりだった。

 仁三郎の面倒を見ていたおまさは彼の異変に気付く。そしてそのことを五郎蔵に相談する。その帰り道、五郎蔵は谷口屋の前にいる船影の忠兵衛を見かける。忠兵衛は店の引き込み役の女と会話をしていた。五郎蔵はそのことを鬼平に報告する。鬼平は谷口屋周りに見張所を設けるよう命じる。

 五郎蔵は五鉄に仁三郎を呼び出し軍鶏鍋をご馳走する。そこで彼の悩みについて聞くが仁三郎は答えなかった。五郎蔵は迷ったなら自分が死ぬ道を選ぶと答え、後のことは長谷川様が面倒を見てくださると話す。それを聞いた仁三郎はその通りだと覚悟を決める。

 仁三郎は置き手紙を書き、娘の顔を見て、伴助の盗人宿へ。それを五郎蔵がつけていた。おまさが仁三郎の置き手紙を見つける。それは鬼平に宛てた手紙だった。夜になり仁三郎は盗みに行こうとしていた伴助を刺す。しかし彼の仲間に襲われてしまう。盗賊改方がそこへ討ち入るが仁三郎は死んでしまう。

 船影の忠兵衛一味は伴助たち抜きで谷口屋へ押し込むが、待っていたのは鬼平たちだった。観念した忠兵衛は抵抗せずお縄になる。

 鬼平は五郎蔵、おまさと仁三郎のことを話す。忠吾は仁三郎はなぜ相談してくれなかったのかと話すが、五郎蔵は板挟みになっていたのでしょうと答える。

 鬼平は忠兵衛の調べをする。その際仁三郎のことを尋ねるが忠兵衛はそんな男は知らないと答える。

 

 第9シリーズ開幕。久しぶりに五郎蔵親分も登場。ゲストも豪華で、見事なスタートを切った。

 密偵仁三郎が冒頭から活躍するが、その直後娘に会いに行った段階で、もう悲劇が待ち構えているとしか思えないのは、鬼平あるあるだろう(笑 案の定昔の仲間に見つかって仕事に引きづり込まれる。ただし仕事を手伝うことなく、仲間を殺すがあっという間にやられてしまう。

 火野正平鬼平で何度か見ている気がしたが、シリーズ登場はこれが初らしい。この後、スペシャル版に何度か出ているようだが。恩がある二人、鬼平とかつての親分とを天秤にかけることになる役だが、なかなか良かった。忠吾が最後になぜ知らせてくれなかったのかと話し、見ている側もその通りだと思うが、そこはそれ仕方なしだろう。

 最終シリーズの開幕だが、今回の話はいかにも鬼平らしい話だったように思う。後3話も良い出来を期待したい。