幻獣遁走曲 倉知淳

●幻獣遁走曲 倉知淳

 倉知淳の猫丸先輩シリーズの短編集2作目、長編があるためシリーズとしては3作目。

 「猫の日の事件」「寝ていてください」「幻獣遁走曲」「たたかえ、よりきり仮面」「トレジャーハント・トラップ・トリップ」の5編。

 短編集としての前作「日曜の夜は出たくない」に比べると、肩の力が抜けたものとなっている。「日常の謎」シリーズであるのは変わらないが、その舞台設定があまりに独特で笑ってしまう。

 各短編の舞台となっているのは、

 「猫の日〜」はペットのコンテスト会場

 「寝ていて〜」は新薬の治験の医院

 「幻獣〜」は幻の生物の探索の場

 「たたかえ〜」はヒーローショーの舞台裏

 「トレジャー〜」は松茸がりができる山奥

 およそ推理小説の舞台となるにはふさわしくない(笑 場所ばかり。それでもそこでちょっとした謎が提示されて、なぜかその場所にいる猫丸先輩が見事に謎を解く。深刻な謎が少ないのと、猫丸先輩も初めての場所が多いため、いつもの毒舌が鳴りを潜めているため、ホント気楽に読めてしまう。

 それぞれの謎やトリックについては、相変わらずちょっと首をひねるものも多かったが、「幻獣〜」の謎解きは良かった。舞台設定が独特すぎるのが惜しいぐらいで、普通の舞台設定ならば、なるほどと感心するような動機だと言って良いだろう。

 

 凝った作りの1作目の短編集、推理小説の王道を行った2作目の長編、と来てのちょっとふざけた舞台設定ばかりの3作目の短編集。この先のシリーズがどこへ向かうのか、次作も当然読んでみたくなる。

 

我等の生涯の最良の年

●412 我等の生涯の最良の年 1946

 第二次世界大戦が終わり、復員兵たちが故郷へ戻る。アル、フレッド、ホーマーの3人は同じ飛行機に乗り合わせて知り合いになり、同じタクシーで家へ戻る。途中、ホーマーは叔父ブッチがやっているバーを紹介し、いつか皆で酒を飲もうと誘う。

 3人はそれぞれの家へ帰る。アルは妻と2人の子供に迎えられるが、息子は原爆のことを気にしており、娘も家政学を学び成長している姿を見て戸惑う。フレッドは新婚だったが、妻マリーは夜の仕事をしていると両親から聞く。ホーマーは戦争での怪我で両手を失い義手になっていたため、恋人ウィルマとの再会を素直に喜べないでいた。

 アルは妻と娘を誘い夜の街へ飲みに出かける。ホーマーは家族やウィルマの父やウィルマと時を過ごすが、彼の義手を見る皆の視線が辛く家を飛び出してブッチの店へ。そこにはフレッドがおり、そこへアルも妻と娘を連れてやってくる。3人は大いに酒を飲む。その夜、店を出たフレッドはアルの家へ泊めてもらうことに。フレッドは戦争の悪夢を見てうなされ、アルの娘ペギーが彼をなだめる。

 翌朝フレッドは妻マリーのマンションへ。ペギーが出勤ついでに彼を送っていく。

 アルに電話が入り、勤めていた銀行から復帰を打診される。フレッドは以前勤めていた薬局に行くが店は大半が化粧品売り場に変わっていた。フレッドは店のオーナーから復帰を打診されるが断る。アルは銀行へ行き話を聞く。頭取はアルを復員兵援護のための小口融資係として採用するつもりだと話し、アルは承諾する。

 フレッドの妻マリーは彼に軍服を着せ皆に自慢したがるが、彼はあまり気乗りがしなかった。ホーマーの恋人ウィルマは彼のことを気にかけるが、ホーマーはウィルマにも冷たい態度を取ってしまう。彼は父の助けがなければパジャマにも着替えられない自分を情けなく思っていた。

 フレッドの妻マリーが外食のため着飾っているところへフレッドが帰ってきて、自宅で食事をすると話す。仕事も見つからず金がないことを正直に話すが、マリーは怒ってしまう。フレッドは結局勤めていた薬局に勤め始めるが、以前部下だったマーケルの部下になってしまう。

 アルはある復員兵の相談を受け、6000ドルの融資を決める。しかし上司は甘いと指摘、アルは以後気をつけると謝罪する。フレッドは無難に店員の仕事をしていた。そこへペギーが様子を見にやってくる。フレッドは彼女を休憩時間に昼食に誘う。彼女を送る際にフレッドはペギーにキスをする。

 フレッドが家に帰るとマリーが出かける準備をしていた。ペギーからダブルデートに誘われたと話す。アルはペギーからフレッドのことが好きなことを告げられるが、諦めるためにダブルデートをするのだと聞く。

 アルは妻ミリーと復職記念のパーティへ出席する。スピーチを求められ失言しそうになるが、ミリーの機転で無事スピーチを終わらせる。

 ダブルデートをしていたペギーは化粧室でマリーからフレッドが金がないことを非難するのを聞いてしまう。家に帰ったペギーは正直に自分の気持ちを両親に伝える。翌日アルはフレッドを呼び出し、二度とペギーに会わないように約束させる。フレッドはペギーに電話をする。電話を受けたペギーもフレッドのことは忘れると母親に話す。

 フレッドの店にホーマーがやってくる。偶然居合わせた客がホーマーの義手を見て戦争は誤りだったと話し、ホーマーとケンカになる。中に入ったフレッドはその客を殴ってしまい、店をクビになる。店を出た二人、フレッドはホーマーに恋人とのことを尋ね、ホーマーにすぐに恋人にプロポーズするようにアドバイスする。

 遺影に帰ったホーマーを恋人ウィルマが訪ねてくる。彼女は両親から明日この街から離れるように言われていると話す。ホーマーは自分が寝る際の様子をウィルマに見せる。彼女はそれでも愛していると伝え、ホーマーもそれに応える。

 フレッドは職探しをし家に帰る。そこにはマリーの昔の知り合いの男がいた。マリーは離婚したいと話しフレッドは家を出て行くと告げる。彼は両親に街を離れると告げ空港へ。そこには廃棄された軍用機があり、フレッドはそれに乗り込む。それを注意した作業者に仕事はあるかと訪ね、そこで仕事をすることに。

 ホーマーとウィルマの結婚式が行われる。アルもフレッドも呼ばれていた。フレッドはペギーと再会する。式が始まり誓いの言葉を述べる時、フレッドとペギーは見つめあい、フレッドはペギーにプロポーズをし、ペギーも受け入れる。

 

 アカデミー賞9部門を受賞した名作、らしいが初見。正直タイトルを見てもピンとこなかったし、出演していた俳優さんも見覚えのある顔は一人もいなかった。しかし確かに名作。170分強の長い映画だが、ダラけることもなく、見ごたえのあるストーリー展開だった。

 ストーリーは単純で復員してきた3人の男たちの生活を描いたものであり、予想できる展開ばかりだが、仕事ととの関わりや家族や妻、恋人との関わりを多彩なエピソードで描いている。人間ドラマも見応えがあるが、反戦映画としても描かれており、製作は1946年で終戦翌年にこんな映画が作られていることに驚きしかない。

 不幸な部分もあるが、最終的には大団円を迎える、戦争後を描きつつ優しいエンディングを迎える名作。

 

刑事スタスキー&ハッチ 第1シリーズ #03 深夜の暴行殺人事件

●刑事スタスキー&ハッチ 第1シリーズ #03 深夜の暴行殺人事件

 

あらすじ

 夜道で強盗2人組に襲われたザックは妻を殺される。スタハチは盗まれた妻のネックレスや犯人が特殊な入れ墨をしていたことから調査を進め、犯人の一人を捕まえるが、ザックは違うと証言し、犯人は釈放される。しかしザックはその男を射殺する。残った一人の犯人を追うスタハチの前にまたもザックが現れる。

 

ストーリー

 夜道で男2人が車を止める。彼らは自分たちの車が故障したと助けを求める。刺青の男がファンベルトが切れたと話すと、止まった車のカーボーイハットの男はそれなら簡単に直ると話し、彼らの車に近づく。するともう一人の男がカーボーイハットの男を殴り気絶させる。止まった車に同乗していた女性はそれに気づき逃げるが、刺青の男が追いかけ女性を襲う。

 翌朝、その現場にスタハチが。殴られたカーボーイハットの男はザック・タイラーといって車の販売会社を経営、TVCMでも有名な男だった。ザックは命に別状はなかったが、若い妻エマは暴行されネックレスのようなもので絞殺されていた。ハッチは現場で靴の飾りを発見する。スタスキーは巡査から犯人は2人組で、一人はラテン系、もう一人は刺青をした白人で大男だと聞く。

 スタハチは被害者のザックに会いに行き、犯行当時の状況を聞く。ザックはスタハチに協力的。ハッチが靴の飾りを見せると、1足200ドルする特性ブーツのつま先についている飾りだと答える。スタスキーに犯人の顔を覚えているかと聞かれたザックはもちろん覚えている、忘れないよと答える。

 その頃犯人の2人は事件が新聞に載ったことを喜んでいた。しかしラテン系の男は新聞で女性が妻だと知り驚く。しかし白人は気にしていなかった。

 スタハチはまず殺された妻の盗まれたネックレスから調べることに。マーケットで動いたブツを全て知るローリーの店へ。二人は店の用心棒マーティをぶっ飛ばしマーティの部屋へ。スタハチは事件のことを説明しローリーに協力を求めるが、彼はとぼける。スタスキーはスノータイヤを発見、さらにスタスキーが物を壊すとローリーは口を滑らせ、ラテン系がプエルトリコ人だと話してしまう。スタハチはよく考えろと話し店を出る。

 次にスタハチは彫物師の女を訪ね、犯人のイレズミの特徴を話す。それはマカオでやっている刺青でこの辺りでは彫れないと聞き出す。2人は本部へ情報を流す。その際、犯人がペイ中(麻薬中毒)であると知らされる。

 ローリーは犯人たちから買い取ったネックレスを見ながら、ヒョロ松に連絡、スタハチに会いたいと伝言を頼む。直後スタハチがヒョロ松の店へ行き、犯人の特徴を話す。機嫌の悪いヒョロ松は渋々その話を受けながら、ローリーの伝言を伝える。2人が早速ローリーの店に行くと店ではケンカが起きていた。ローリーをぶちのめしていたのは、リリアンの亭主を名乗るレスラーのような男だった。ケンカの報告を受けたドビー主任は話がわからず激怒するが、スタハチは事情を説明、ローリーは大怪我を負ったためしばらく話が聞けない状態になっていた。

 主任の部屋を出た二人を待っていたのは、ザックだった。彼は明るく振舞うが、本心では犯人を憎んでおり、犯人逮捕の状況を聞きに来ていた。そして会社を手放し街を出る決意をしたことを二人に話す。しかし街を出るのは犯人をとっちめた後だと話し、部屋を出て行く。そこへヒョロ松から連絡があり、ペイ中のことを知りたいならエンジェルの話を聞きなと言われる。

 スタハチはエンジェルの家へ。そこにいたのは自らもヤク中の黒人の老婆だった。二人は老婆に話を合わせつつ、プエルトリコ人が遊園地の軽食堂マイルにいること、もう一人は船員であることを聞き出す。

 スタハチは遊園地の軽食堂へ。スタスキーはそこでブーツの片方の飾りがない男を見つけ、持っていた飾りを見せる。男は店の女性店員を人質に取るがハッチが駆けつけ男を逮捕する。

 スタハチは取調室で男チャコを取り調べるが男は黙秘する。ザックに面通しをさせるが、彼は知らないと答える。驚くスタハチ、ドビー主任も証言が取れないならチャコは釈放だと話す。彼が犯人だと確信しているスタハチは反対する、その時ローリーが入院している病院から意識が戻ったと知らせが入る。ハッチは急いでチャコの釈放を止めようとするが、すでに釈放されてしまっていた。釈放されたチャコをザックが車で追っていた。そして声をかけ、射殺する。

 ローリーの病院へ行ったスタハチは、ザックにチャコが殺されたことをローリーに話し、犯人2人組の名前ヒューイ・チャコとブラウン・ハリス、さらにハリスがエース診療所で酒代のために血を売っていることを聞き出す。

 スタハチはエース診療所へ。受付の女性看護婦にハリスの写真を見せるが知らないと言われるが刺青のことを話し、ハリスのハリスの電話番号を聞き出す。その番号が港にある公衆電話の番号であることを突き止め港へ。その頃ザックもその港へ来ていた。

 スタハチはハリスを見つけるが、彼はライフルで撃ってくる。ザックがそこへ来てハリスを撃つ。ハリスは逃げ、ザックとスタハチは二人を追うことに。港の資材置き場に逃げ込んだハリスとの銃撃戦が始まる。廃コンテナに逃げ込んだハリスはザックを射殺、スタハチはクレーン車に乗り込み廃コンテナを釣り上げて落とし、ハリスを逮捕する。撃たれたザックの元へに駆けつけたスタハチは、なぜ警察に任せなかったんだと尋ねると、彼はサソリとカエルの話をし、俺もこうしたかったんだ、妻を亡くして辛くなったんだよと答え、息絶える。

 スタハチは翌日ヒョロ松の店に行く。機嫌の良いヒョロ松が迎える。そこへローリーの店で喧嘩を起こしたレスラーのような男が妻リリアンを連れてくる。皆でヒョロ松が酒を勧める。

 

 

今回の登場人物など

ザックを襲った犯人ハリス(左)とチャコ(右)

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襲われた妻エマとザック

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盗品をさばく商売をするローリー 右は倒れているローリーの部下マーティ

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犯人のイレズミについてスタハチに教える女彫物師

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ローリーをぶちのめすレスラーのような男

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エース診療所の女性看護婦とそこで血を売っていた男

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今回の物証、捜査

ハッチが犯行現場で見つけたブーツの飾り

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遊園地でブーツの片側の飾りが取れている

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スタさんに見つかり人質を取るチャコ、それを阻止するスタハチ

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スタさんの取り調べ(相手はチャコ)とそれを見るハッチとザック

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今回のスタさん

 スタさんは今回小銭に関わることがことごとくツイていない。

ローリーの店の自販機(カップが出ずにコーヒーが…)

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本部に連絡を入れようと公衆電話をかけようとするが電話がかからない

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エース診療所の自販機でも

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今回のハッチ

 お笑い役はスタさんであることが多いが、今回はハッチがちょっと面白い。

 エース診療所で女性看護婦からハリスの電話番号を聞き出すハッチだが、その場にいた血液を売っている男性(上に写真あり)の表情があまりにおかしく、ハッチが気を取られてしまうシーンがある(下はその時のハッチ)

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 今回のお笑いシーン

 スタさんの小銭に関するツキのなさも笑えるが、その際の会話も可笑しい。

ス「セコいんだよ、コイン返せ」

ハ「今のはシャレか」

ス「ありがとう」

 補足すると、「セコいんだよ」に『コイン』という言葉が隠れている(笑

 

今回のスタハチの会話

 ちょっとやりきれない感じのする今回の事件だったが、ラストでの二人の会話がその嫌な感じを吹き飛ばす。

 レスラーがヒョロ松の店に来て、仲直りにワインを注文するが、それに答えたヒョロ松の答えがイカれていて、ハッチは呆然をする。その後の会話。

ハ「この街でまともなのは俺たちだけみたいだな。そう思わない?」

ス「ホント?俺だけだと思ってたのによ」

 

今回の印象的なセリフ

 犯人ハリスにザックは撃たれてしまう。ザックの今際の際のサソリとカエルの話。

 「川を渡ろうとしたサソリはカエルに声を掛ける。カエルは川を渡っているときは刺されないだろうとサソリを乗せ川を渡るが、途中でサソリはカエルを刺す。なぜ刺したんだと尋ねるカエルにサソリは、こうしたかったんだよと答える」

 

 

今回のまとめ

 まだ3話目だが、それでもちょっと珍しいと思えるシーンが満載の今回。

 途中ペイ中の犯人の情報を得るために黒人女性に会いに行くが、彼女が劇中で歌を歌う。それが吹き替えなしで流される。スタハチでは珍しいシーン。女性はAnn Weldonという女優さんのようだが、ネットにもあまり情報はない。

 上記で写真をupしてあるが、取調室でのシーンがある。スタさんがチャコを取り調べ、ハッチが外から見ている。取調室のシーンは他の話であまり観た記憶がない。

 

 例によって吹き替えの翻訳が当時っぽい。盗品売買をするローリーのことをヒョロ松が「デブリゴン」と呼んでいる。エンディングの字幕でも、ローリーは「ファット ローリー」と書かれているが、それを「デブリゴン」って(笑

 ちなみに途中でてくる「ペイ中」という言葉、「白い麻薬の中毒」ということで、中国語では「白」を意味する「ペイ」が使われて、「ペイ中(毒)」となったらしい。

 

 そういえば第1話で、グラン・トリノのコードネームが「ゼブラ3」だったが、今回は聞き慣れている「ゼブラ6」となっていた。1話目だけが特別だったのか?

 

 今回は被害者が意外な行動をとり、メインゲストキャラになる展開だったが、被害者や犯人以外でも、多くのゲストキャラが登場。事件に直接関係はなくても、いずれも一癖も二癖もありそうなキャラばかりで、話を飽きさせなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

オリエント急行殺人事件

●411 オリエント急行殺人事件 1974

 1930年、富豪アームストロング家の娘が誘拐され身代金を払ったが、娘は遺体で発見される。

 1935年ポワロは事件解決後、オリエント急行でロンドンへ行こうとするが、座席が満席であった。しかし知り合いの鉄道会社の重役のおかげでなんとかオリエント急行に乗車する。

 乗車2日目の夜、列車は雪のため立ち往生することに。翌朝会社経営から退いたラチェットが寝台個室にて死体で発見され12箇所の刺し傷が見つかる。ポワロは遺体のそばにあった燃やされた紙に5年前に殺されたアームストロング家の娘の名前が書かれていたことを発見する。会社重役の依頼を受け、ポワロは寝台車両に乗っていた乗客から事情聴取を始める。

 ラチェットの遺体にあった壊れた時計から犯行時刻、ラチェットが本名カセッティであることが判明、ガウンを着た謎の女性、車掌の衣装や取れたボタン、犯行に使われたと思われるナイフなどが見つかる。

 ポワロは乗客全員の事情聴取を終え、真相を語り出す。

 

 昨年秋に2017年版のリメイクを観ているが、その時感じたことが勘違いだったことが判明(ポワロが事件前夜眠り薬を飲まされたため、犯行に気づかなかったこと)、ブログを修正した。

 映画は130分、最初の30分でざっと乗客全員を見せておき、そこから10分で死体が発見される。中盤の60分を使い、乗客の証言を聞き、最後の30分ほどで謎解きとなる。2時間越えの映画だが、全く飽きさせない展開。

 この時の手法がのちに使われることになったそうだが、謎解きの場面で乗客各人の証言をVTRのように繰り返すのが非常にわかりやすく、再度観たときにその場面を注目してしまう。

 また謎解き冒頭でポワロが真相ではない「もう一つの仮説」を話す際、一気にまくし立てる場面は圧巻。それが真実ではないことを知りながらも話さなければならないポワロの怒りを感じさせるシーンである。

 もちろん「真相」を語るポワロの口調も素晴らしい。12名の容疑者を次々とねじ伏せて行き、アームストロング家との関係を暴いて行く。そして真相を知りながらも、警察には「もう一つの仮説」を報告することに同意するポワロの優しさ。見事な結末であり、その後の乗客同士の乾杯シーンも事件解決後のシーンとしてふさわしい。

 

 それでも、負け惜しみのようだが、2017年版のリメイクを観たときに感じた勘違いは本作でも同じことを思ってしまった。なぜポアロは12名による犯行の騒ぎ?に気づかなかったのか。それとも本作でのその点を気遣って「ナイル殺人事件」では、薬を飲まされたことにしたのかしら?

 

 しかしやはり本作は俳優陣があまりに豪華。はっきりわかる人から、名前を観てわかる人までとにかく豪華。中でも犯人の中でも主役級の扱いだったローレン・バコールはアームストロング夫人の母親だったのね。今回観て初めて納得した。謎解き終わりでポワロの話を聞いて喜び、思わず立ち上がってしまうアンソニー・パーキンスの表情は最初観た時から忘れられない。今回観て改めて気づいたもう一つの点は、「5年前」がキーワードになっている点。あぁだから、映画冒頭でアームストロング家の誘拐事件が1930年だと念押ししているのね。

 

 リメイクの方でも書いたが、やはり本作はミステリー映画の最高峰だと思う。オールスターキャスト、豪華な舞台、見事な謎解きと犯人。あとは見終わった後に、昔の「日曜映画劇場」のテーマが流れれば言うことなしかな(笑

 

家康(六) 小牧・長久手の戦い 安部龍太郎

●家康(六) 小牧・長久手の戦い 安部龍太郎

 前作に続き6巻目にて現時点でのシリーズ最終作。章立ては、変の真相、甲州合戦、北条との和解、近衛前久、宿敵秀吉、家康圧勝。

 本能寺の変直後、命からがら三河へ戻った家康。その後配下の者からの情報で変の真相を知る。秀吉は変が起こること=信長の死、を知りながらそれを見過ごし、光秀を討つことに全力を注いだと知る。

 信長が討たれたため甲信の地が争いの地となり、家康はその地の安定へ全力を挙げる。同時に秀吉が畿内で怪しい動きをし始めたため、最大の敵であった北条と和解、秀吉の独走を許さないために秀吉との戦いを決意する。

 

 前作では、本能寺の変が起きたため、家康が三河へ逃げ帰る場面で終わったが、本作では本能寺の変の真相を家康が知ることになる。未だに結論づいていないこの問題に対し、本作では朝廷陰謀説が取られ、秀吉がその証拠を掴み朝廷を揺さぶる、というストーリーになっている。

 現在、同時に「本能寺の変431年目の真実」という本を読んでいたり、NHKBSで再放送された「本能寺の変サミット2020」も見ていたりして、本能寺の変にまつわる様々な仮説を知ったが、本作の説も相当な説得力があると読んでいて思ってしまった(先にあげた本や番組では否定されていたが)。

 

 本作は、小牧・長久手の戦いの序盤で話が終わっている。この後、秀吉と家康の戦い、秀吉に天下取りで先を越されてしまった家康の心情やその後の家康について、まだまだ読みたいところである。

 シリーズの続編が早く書かれることを望む。

 

魔法飛行 加納朋子

●魔法飛行 加納朋子

 加納朋子の駒子シリーズの第2作であり、4編からなる短編集。

 前作で正体?が明かされた瀬尾へ主人公駒子の手紙が書く形で小説を書き始める。題材は前作と同様、彼女の周りで起きた不思議な出来事。学校で知り合った偽名を使う女性、美容院で聞いた事故現場の幽霊話、学園祭での双子のテレパシー実験。この3件に加え、最終章では「謎の手紙の謎」が解き明かされる。

 

 前作で正体がバレてしまったため、どのような続編になるかと思いきや、そこは正直にバレた相手に同じように謎を書き綴る主人公駒子。最初の3編は正直なんとなく謎解きがわかってしまうようなものだったが、読者としての興味はそこにはなく、各章の最後に付けられている謎の短い手紙。その手紙は、まるで我々読者を思わせるような書き手であり、読んでいる最中は、ひょっとして推理小説の最大の挑戦である「読者を小説に引き入れる」大技に作者が挑戦でもしているのか、と錯覚してしまった。

 

 しかし最終章でその「謎の手紙の謎」が解き明かされる。しかもそこまでの3章が見事な伏線となっていてさらに驚かされる。前作も「入れ子構造」を使った凝った作りの短編集だったが、本作はそれをはるかに上回る出来。このブログを書き始めてから数十冊の推理小説を読んできたが、伏線回収の鮮やかさではNo. 1と言える。有栖川有栖さんの解説もついており、こちらも謎解きではないが、本作の素晴らしさを見事に言語化していて気持ちの良い解説となっている。

 こんな傑作を読んでしまうと、このシリーズの次が読みたくなってくるのは当然だよなぁ。

 

 

刑事スタスキー&ハッチ 第1シリーズ #02 俺たちの旅立ちの空

●刑事スタスキー&ハッチ 第1シリーズ #02 俺たちの旅立ちの空

 

あらすじ

  スタハチは上院議会で証言をする組織の元ボス、メロを護衛するが、狙撃されてしまう。命が助かったメロだが、娘の命が保証されるまで証言は拒否すると言い出す。スタハチは娘ジョアンを護送してくる役目に。組織に狙われる3人だったが、なんとかジョアンをメロの元に連れてくることに成功する。しかし警察内部の情報があまりに早く漏洩していることに気づいた二人は漏洩の犯人を探し出す。

 

ストーリー

 スタハチがホテルに向かう。それを見ている女が一人。2人は地方検事から組織のボスを隠れ家に護送するための警護を頼まれる。ボスは上院議会で証言するためだった。ホテルからボスが出てくるのを見届けた女は公衆電話に連絡、ベルが鳴ったのを聞いた2人組がバイクを走らせる。

 スタハチ初め警察がボスの護送を始めると、バイクがボスをライフルで狙う。スタハチは狙撃者を撃つがバイクの運転手は逃してしまう。ボスは命は取り止め病院へ運ばれるが、証言することを拒否する。検事が協力を求めると自分は良いが守りたい人間がいるからだ、と話す。さらに自分が仕切っていた頃は警察に仲間がいたと話し、スタハチの同席を拒否する。

 同席を拒否されたスタハチはヒョロ松の店へ行き、ケスターと通じている警察内部の人間を調べて欲しいと頼み、警察へ戻る。そこでドビー主任からサンフランシスコ郊外の小さな街ブライランドへ行くことを命じられる。コールマン検事はボス メロが心配しているのは娘のジョアンのことで、娘を無事に連れてくるまでは証言をしないと言っているとのこと。ドビー主任は今回の件は極秘任務となるため協力はできないと話す。スタハチはドビー主任の秘書から航空券とキャッシュをドビーの秘書テリーから受け取る。

 スタハチはサンフランシスコへ飛びジョアンの家へ。それをつけている男たちがいた。スタハチは反抗的なジョアンを連れ乗ってきたタクシーで空港へ。途中つけてきた2台の車に襲われ銃撃戦となるが、スタさんが銃で対応しその場を逃げきることに成功、スタさんの腕時計と交換に運転手ジョージを降ろし3人は先へ進む。マリン郡の警察からドビーへ連絡が入るが、主任には打つ手がなかった。

 スタハチは空港は危ないと判断しそのままタクシーで南に向かうことにし、ガソリンスタンドへ。そこで車を隠し食事をとることにするが、乗ってきたタクシーを隠すことを求めたスタンドの親父に足元を見られスタさんは金を払うことに。

 3人は食事をする。ハッチとジョアンは良い雰囲気になり、スタさんは一人スタンドの親父がやめとけと言ったミートローフを食す。スタさんは追っ手が来たことを目撃、裏口から逃げ、その場にあったバンに乗って逃げることに。またもスタンドの親父にボラれるが仕方なく金を払いバンに乗り込み逃げることに成功する。しかし追っ手もガレージにタクシーがあることに気づき、ジョアンたちがバンに乗って逃げたことに気づき追ってくる。打つ手のないスタさんはバンを切り返し、相手の車に正面から突っ込み相手をかわすことに成功、相手の車は電信柱に衝突する。

 スタハチは無事にジョアンをメロの病室に送り届けるが、そこにいたのは本当のジョアンだった。彼らが送り届けたのはサンフランシコ警察のリンダという刑事だった。替え玉を護送していたと知らされたスタハチはドビーの前で怒りを爆発させるが、検事から警察内部に密告者がいるため仕方なかったこと、スタハチも容疑をかけられていることを知らされる。さらに怒りを爆発させる二人だったが、ドビーはリンダ(ジョアンの身代わり)をパリへ脱出させると話し、リンダを護送することを命じる。スタハチは渋々任務を認める。それを見送るドビーの秘書テリー。テリーはケスターの手下に全てを連絡する。

 リンダやドビーとともにスタハチはメロのいる病院へ。ケスターの手下たちは医者に扮してジョアンを拉致しようとする。しかし腕時計を見たスタさんがそれに気づき銃撃戦へ。リンダは撃たれるがスタハチは犯人たちを倒す。撃たれたリンダにハッチは優しい言葉をかける。リンダは最後までパリへ行く芝居をする。そこでスタハチとドビーはリンダのパリ行きを知っていたもう一人に気づく。

 3人はドビーの部屋へ戻る。そこでドビーの秘書テリーの前で嘘情報を話す。その後情報を漏らしているテリーの前でスタハチは全てを知っていることを知らしめる。

 スタハチはヒョロ松の店へ。クイズ番組の結末を聞く。その後ハッチがタクシー運転手がスタさんの腕時計を返して来たが、それが盗品であったことが判明。スタさんはそれをヒョロ松から買っていた。ヒョロ松は盗品とは知らなかったと話すが、スタさんはヒョロ松に金を要求する。

 

今回の登場人物

元ボス メロ(中央左の白髪の男性)

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ボスを護衛するスタハチを遠くから見守る女

(後にドビー主任の秘書テリーだと判明する 写真右)

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メロを狙撃するバイクに乗った2人組(手前の公衆電話のベルを聞いている)

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メロに証言をさせようとしているコールマン検事

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メロの娘ジョアン(後にリンダ刑事だと判明する)

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追っ手に追われる3人を乗せたタクシー運転手ジョージ

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テリーから連絡を受ける組織の追っ手の一人

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3人が逃げる途中に立ち寄ったガソリンスタンドの老人

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今回のスタハチの会話

 冒頭、元ボスのいるホテルに着いたスタさんが腕時計を見て話し出す。

ス「地方検事とのデートは10時だったな。ピッタリだぜ」

ハ「そんな時計捨てちまえ」

ス「360ドルもするのに冗談じゃねぇ」

ハ「高級品は似合わねぇよ」

ス「ご機嫌斜めだな」

ハ「ヤクザのお守りはつまらんな」

 スタさんが腕時計を新しく手に入れたことがわかる。それが高級品だと知ったハッチは似合わないと断言。それを聞いたスタさんはハッチの機嫌が悪いことを気にしてなだめようとする。今回の二人の仕事の内容がこれだけで判明する見事な会話。さらにこの腕時計がラストのオチに繋がっている。

 

今回のヒョロ松

 元ボス、メロから警察内部に組織に通じている人間がいると聞かされ、スタハチはヒョロ松を頼って店に来る。二人を出迎えたヒョロ松は、店の女の子と今度TVのクイズ番組に出ると話す。

 クイズ番組に一緒に出る店の女の子を紹介するヒョロ松(女の子の名前は不明)

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 今回のお笑いシーン

 事件が解決しスタハチはヒョロ松の店へ。そこでハッチは、ジョアン(リンダ刑事)を護送するのに借りたタクシーの運転手が代わりに預けていたスタさんの腕時計を返してきたと話すが、時計が盗品だったと話す。腕時計をヒョロ松から買っていたスタさんは、店のレジを開け金を要求、さらに利子分も要求する。

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 今回のドビー主任

 スタハチにジョアンを連れて来る任務を言い渡すドビー主任とコールマン検事だったが、主任はコールマンが直接スタハチに指示することを不愉快に思い始める。コールマンがスタハチに命令調で話した際に主任はコールマンを叱りつける。

 部下思いであり、スタハチを信頼していることがうかがえるシーン。

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今回のスタスキー

 メロの病院へジョアン(リンダ刑事)を連れてきた際に、ストレッチャーで運ばれる患者の異変に気付くスタさん。銃撃戦の後、スタさんは「ストレッチャーに乗る人間が腕時計をするのはおかしい」と語る。この後に出て来る腕時計のオチの前振りでありつつ、できる刑事であることを証明したシーン。

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今回のまとめ

 2話目にして早くも刑事モノの定番である「重要人物の護送」がテーマ。もちろん道中護送相手の女性と仲良くなるシーンもあり(こんな時の相手はだいたいハッチ〜スタハチあるある)。

 1話目に引き続きレギュラー4人(スタハチ、ドビー主任、ヒョロ松)のチームワークは抜群であり、関係性や各人のキャラも描かれていく。

 女性と仲良くなりがちなハッチ、ガソリンスタンドの老人にボラれた際に金を払い続けるスタさん、その老人に止められたのにミートローフを頼もうとするスタさん、部下を守ろうとするドビー主任、ネタ(情報)集めでは頼りになるが時にはすっとぼけたことをするヒョロ松、など。

 ストーリーとしては意外な犯人、という形を作りたかったんだろうが、割と冒頭ドビー主任の助手が登場した際の音楽が怪しさ満点で、早いネタバレ。それでも、証言者の娘の意外な正体やガソリンスタンドの老人のとぼけぶりなど、ゲストキャラが良く、面白い話になっている。