トキワ荘の青春

●497 トキワ荘の青春 1996

 トキワ荘手塚治虫の部屋の向かいに寺田が住んでいた。寺田は手塚を訪ねてきた後の藤子不二雄コンビと出会う。手塚が留守だったため寺田は彼らの面倒をみることに。手塚がトキワ荘から引っ越し、藤子たちが住むことに。さらに漫画家志望の若者たちがトキワ荘に集まってくる。

 寺田は彼らのリーダー的存在となり、「新漫画党」を立ち上げる。貧乏な彼らだったが、共に漫画家を目指し頑張っていた。しかし彼らが漫画を描いていた学童社が倒産してしまう。これを機に、トキワ荘から去っていくものもいたが、逆に新たな出版社にま漫画を描くものも現れる。

 時が経ち、トキワ荘の住人たちも、漫画が売れる者とそうでない者とに別れていく。赤塚はギャグ漫画で売れ出し、森安は漫画家の道を諦めトキワ荘を去っていく。寺田も自身の描きたい漫画と出版社からの要求との乖離に悩む。仲間たちが寺田を励ますために集まる。しかし寺田もトキワ荘を去っていくことにするのだった。

 

 正直この映画はヒドい。2時間近い映画だが、前半は登場人物が誰が誰だかもよくわからず、ストーリーも暗転でブツブツと切られ、意味のわからないエピソードの羅列にしか見えない。途中に挿入されるモノクロ写真も意味がよくわからないし。BGMの音量とセリフの音量のバランスも悪く、ただでさえ少ないセリフがうまく聞き取れなかったりもする。

 後半になり、登場人物たちが誰が誰だかわかり始める。話も展開し始め、トキワ荘の中の成功者と失敗者の現実を描きたいのかと気づいたが、そこから大きな進展があるわけでもない。

 おそらく「トキワ荘」を描いた原作本があり、その中のエピソードを映像化したのだろうが、原作や漫画化されたものを読んでいない自分には正直苦痛でしかなかった。

 唯一の救いは、まだ世に出ていなかった頃の俳優さんたちの若き頃を観ることができたことか。

 ネットによると映画関係者などの一部にこの映画の熱狂的支持者がいるようだが、自分にはyahoo映画評価の2点台の方が適当だと思えてしまう。

 

ちどり亭にようこそ 〜今朝もどこかでサンドイッチを〜 十三湊

●ちどり亭にようこそ 〜今朝もどこかでサンドイッチを〜 十三湊

 京都の仕出し弁当屋「ちどり亭」を舞台にした短編集の3作目。店主花柚さんは20代半ば、毎週お見合いをしている。花柚さんに酔いつぶれた際に助けられた大学生彗太は店を手伝うことに。なぜか店に入り浸っている花柚さんの従兄弟美津彦さん、同じ大学に通うバイト仲間の菜月、花柚さんの昔の許嫁永谷総一郎、などが繰り広げる弁当屋での出来事の数々。以下の5編からなる。

 

「草露白、漆塗りと栗おこわ」

 彗太は目で見る色や口で感じる味が人それぞれであることを気づかされる。そんな中、彗太が作ったきんぴらを美味くなかったと常連客梶原さんに言われてしまう。店を手伝うことを決めていた彗太はこの事で落ち込んでしまう。花柚さんはそんな彗太にお使いを頼む。

 ポイントは「花柚さんが頼んだお使いの先」

 

「鶺鴒鳴、配膳さんと海老フライ」

 美津彦が研究室の後輩康介を店に連れてくる。彼は父親と喧嘩して家を飛び出して来たのだった。彼は喧嘩の理由をなかなか話さなかったが、美津彦により真相が明かされる。康介は父親の不倫、しかも相手は友人である男性、を疑っていたのだった。

 ポイントは「なぜ花柚さんは康介の父の友人が怪我をしていると考えたのか」

 

「鴻雁来、野菜嫌いとつくねの照り焼き」

 花柚さんと総一郎との結婚話が進む中、店で女子会が開かれ、ゆうやママのママ友福永さんが講師として呼ばれていた。子供達の運動会に皆で弁当を持ち寄ることになったが、福永さんは夫が極度の野菜嫌いであることを告白する。花柚さんはそんな旦那さんのために弁当を作ることに。

 ポイントは「花柚さんはどんな弁当を作ったのか」

 

「虹蔵不見、サンドイッチと琵琶の音」

 ちどり亭に花柚さんの失踪していた兄公篤が女性麻里衣を伴い現れる。花柚さんは混乱するが、翌日皆で紅葉狩りに行くことに。花柚さんは麻里衣に弁当を持参するように話す。翌日皆で集まり弁当を食べながら総一郎が公篤と話し込む。

 ポイントは「公篤が出した結論に花柚さんが答えたこととは」

 

「番外編 月見る月はこの月の月」

 これまでの話とは異なり、本作の1章から4章までの話を美津彦目線で語る。

 一方で、美津彦の学校の女友達村上莢子が病気となり、美津彦が彼女の部屋に行くことになる。莢子は過保護な母親を嫌っていたが、その母親から多くの野菜が送られて来ていた。莢子は料理などをしないため、美津彦は花柚さんを呼び寄せる。

 ポイントは「なぜ美津彦はちどり亭のオーナーになろうとしたか」

 

 シリーズも3作目となり、完全にフォーマットが出来上がったようだ。各章の初めに書かれるエピソードがその章の見事な前振りとなっているのだが、前振りのこの部分にハッとさせられることが多い。話は既に弁当だけに限らず、味や子供の頃食べる料理などにも触れられている。で驚くのは、この部分の2章でのサンドイッチの話。あぁそうだよね、と思って読んでいたが、これも見事に2章のオチに結びついている。

 シリーズ全体に関しても、花柚さんと総一郎の結婚話は着々と進行しつつあり、唯一で最大の問題だった、ちどり亭のオーナーの件も美津彦が出資することになり無事決着しそうな感じ。

 さらに言えば、あたらに登場した康介が野々花と仲良くなっていきそうな雰囲気だし、あの美津彦にも莢子という女性が現れ、しかも以前は付き合っていたということが暴露される。登場人物たちが皆幸せになり、大団円が予想される。次作あたりで花柚さんの結婚となるのか。

 

突破口!

●496 突破口! 1973

 田舎の小さな街で銀行強盗が発生。保安官や警備員との撃ち合いで犯人の一人は死亡、逃走用の車を運転していた女性も撃たれ瀕死の状態となる。犯人たちは乗り換え用の車の元へ行くが、女性は死亡。女性の遺体も含め車に爆薬を仕掛け、乗り換え用の車で逃走する。途中保安官に停車を命じられ、荷物を調べられそうになるが、タイミングよく車が爆発し、犯人2名チャーリーとハーマンは逃亡に成功する。

 自宅のトレーラーハウスに帰った2人は奪った金を確認するが、75万ドルもの大金だった。若いハーマンは喜ぶが、チャーリーは田舎の銀行にこんな大金があるわけはない、これはマフィアの裏金だと確信。今後警察だけでなく、マフィアにも追われることになるとハーマンに話す。

 強盗にあった銀行の頭取ボイルはマフィアの殺し屋モリーに連絡をする。モリーは正直者ジョンと接触。彼から襲われた銀行に75万ドルがあったことを知っているのはボイルと支店長ヤングだけだと言われ、情報が漏れたかを探り始める。

 TVのニュースで女性の遺体の歯型から身元を突き止めようとしていることを知ったチャーリーは夜歯科医に侵入し、女性のカルテを抜き取る。そしてメキシコへ逃げるための偽造パスポートの作成を女性写真屋に依頼する。

 モリーは正直者ジョンからの情報でチャーリーの動きを知り、女性写真家と接触。チャーリーたちの家トレーラーハウスの住所を聞き出す。トレーラーハウスを訪れたモリーはハーマンを脅し金のありかを聞こうとするが、ハーマンは知らなかった。モリーはハーマンを殺す。チャーリーはそれを外から見ていた。

 警察は銀行を訪れ捜査をしていたが、観念した支店長ヤングが拳銃自殺をする。また乗り捨てられていた車からチャーリーの仕業だと突き止め、トレーラーハウスへ行くが、時すでに遅しだった。

 チャーリーは女性写真屋の元へは行かず、ダイナマイトなどを購入。そして銀行のボイルの元へ電話し、ボイルと話そうとするが不在だったため、女性秘書の名前を確かめる。そして彼女に花束を用意し彼女の家までつけていき、ボイルとの電話連絡に成功する。チャーリーは金を返すと話し、郊外の廃車置場で待ち合わせる約束をする。

 当日小型飛行機に乗ったチャーリーは廃車置場へ。ボイルは一人で来ていたが、モリーも隠れてその様子を見ていた。ボイルと会ったチャーリーは彼を抱き寄せ、親しみを表す。それを見ていたモリーはボイルも犯人の一味だと確信し、車で彼を轢き殺す。その後チャーリーの飛行機とモリーの車の追走劇が繰り広げられ、飛行機は不時着する。身動きの取れないチャーリーにモリーは金のありかを聞く。そばにあった青い車のトランクを開けたモリーはダイナマイト爆発に巻き込まれ死亡する。チャーリーは奪った金の一部をそこへばら撒き、車で去って行く。

 

 これまた何の前情報もなく観た一本だったが、とても面白かった。ドンシーゲル監督が「ダーティハリー2」の監督を断ってまで製作した映画で、多くの映画人や作家などにも影響を与えたとして有名というのも納得。

 とにかく脚本が素晴らしい。無駄な描写がない、というのはこんな映画のことを言うんだろう。大金にビビるチャーリーを描いた直後に、銀行頭取がマフィアの殺し屋に連絡する。そのシーンでさりげなく頭取の女性秘書が登場していたり、殺し屋モリーがチャーリーの足取りを追って行くシーンでも、銃砲店の店主とのやり取りや女性写真屋とのやり取りも無駄がない。

 一番感心したのは、チャーリーがラスト直前、何気にダイナマイトを購入しているシーンを入れていること。「カリオストロの城」でもルパンが偽指輪を作っているシーンが何気なく描かれていることにあとで気づくがあれに近い。

 そしてラスト。廃車置場でいきなりボイルに抱きつくチャーリー。何だ?と思わせておいてモリーの顔の表情でその意味がわかる。

 いやぁ本当に良く出来た作品だと思う。知らない傑作はまだまだあるんだねぇ。

 

初夏の訪問者 吉永南央

●初夏の訪問者 吉永南央

 「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズ第7作。コーヒー豆と和食器の店「小蔵屋」の76歳の女主人、杉浦草が主人公。彼女の周りで起きる問題を彼女が解決していく短編集。「初夏の訪問者」「蜘蛛の網」「ががんぼ」「遥かな水音」「風ささやく」の5編。

 

 5月。近所に住む草と同年代の石井が長野への移住を決める。また近所のもり寿司は怪しい団体と提携しおかしな商売を始めていたが、店の主人の妻江子は妊娠していた。草の家に何度か訪問客があったようだが、草は会えずにいた。

 そんな中、男が草の前に現れる。近所で話題の誰に対しても優しいその男は、丹野学。彼は草の死んだ息子良一だと名乗る。3歳の時に事故死したはずの息子を名乗る男が目の前に現れ草は動揺する。

 丹野と会うために訪ねたマンションで、草は病院経営をしている宇佐木と出会う。彼の弟はアル中で有名だった。丹野は草が書いた昔の手紙を持っており、差出人の草の名前の横に「学のじつの母」と書かれていた。

 混乱する草は、学の母親であり、草が結婚時代に世話になったキクに会いに行く決意をする。

 

 前作「黄色い実」では久実に辛い事件が起きたが、本作では主人公草さんにさらに辛い出来事が起こる。死んだはずの息子の名前を語る男、学。しかも彼の持っていた手紙には信じられないことが書かれていた。動揺する草さんが哀れ。シリーズでずっと影の主人公とも言えた死んだ息子が目の前に現れるとは。

 前作でも久実の身に起きた事件が信じられなかったが、著者はまたも試練をレgつらーメンバーに与えるのかと思ってしまった。しかし真実は意外な展開を見せ、シリーズ愛読者としては一安心。

 他にも、近所の石井や宇佐木兄弟など、問題を抱えた人々が登場するが、それぞれの道においてなんとか問題を解決していく様はシリーズの持つ優しさだろう。

 救いは前作で悲劇に見舞われた久実が一ノ瀬との仲を大切に育てているところか。この二人の中にも問題が起きるが、無言でそれを受け入れていく久実が頼もしい。

 

 草さんの息子問題、もり寿司の怪しい商売、と老人に対する詐欺事件がテーマかと思ったが、それはメインテーマではなかったようだ。小さな街?に住む普通の人々の人生に待つ様々な問題を、彼ら自身が、時には周りの人々の力も借りて、一歩ずつ解決していく、というシリーズ通してのテーマが本作でも描かれていた。

 

 

 

リベンジ・マッチ

●495 リベンジ・マッチ 2013

 TV番組がスポーツの世界でのライバルの特集をする。選ばれたのはボクシングのレーザーとキッドだった。二人は1982年のタイトルマッチで激突、キッドが勝利したが、2年後の1984年の再試合ではレーザーが勝利。決着の第3戦を世間は期待したが、レーザーが引退を発表、造船所で働くことに。キッドは車の販売店とレストランのオーナーに。この番組はそれから30年後に放送されていた。

 レーザーのトレーナーだった「稲妻」は介護施設にいたが追い出されることに。レーザーは彼のために金が必要だった。そんなレーザーの元に30年前の二人の試合のプロモーターだった男の息子ダンテがやってきて、二人の試合をボクシングゲームをして売り出すことを提案する。レーザーはキッドを嫌っており彼に会いたくないため、ゲームの話を一旦は断るが、金が必要なレーザーは申し出を受け入れる。

 ゲームのCG撮影のために現場を訪れたレーザーの元に、キッドが現れる。二人はその場で喧嘩を始め、撮影現場はめちゃめちゃになり、二人は警察に。しかしその動画がネットで公開され大人気となる。警察に身柄引受に行ったダンテは二人に高額なファイトマネーを示し、二人に再戦をすることを提案。しかしレーザーは再戦を拒否する。ダンテはレーザーの態度を不思議がる。キッドは昔レーザーの彼女サリーを寝取ったことを明かす。レーザーは造船所を突然クビになってしまい、仕方なく再戦の申し出を受け入れる。

 二人の再戦のマスコミ発表が行われるが、記者たちは盛り上がっていなかった。そこへサリーが現れレーザーに試合を止めるように話すが、レーザーは聞く耳を持たなかった。

 二人はダンテの言う通り、試合に向けて健康診断を受け、PR活動を始める。レーザーは「稲妻」にトレーナーになるように頼む。キッドは現役時代のトレーナーの息子に会いに行くが、トレーナーを断られる。そこへ若い男が現れ、サリーの息子BJだと名乗る。彼は最近になって母親から、キッドが父親だと聞いていた。二人は話をするが、キッドが母親と別れた理由を勘違いしBJは去って行く。

 二人はトレーニングを始める。ジムで練習していたキッドの元にBJが現れきて適切なアドバイスをする。キッドはBJをトレーナーとして雇うことに。二人のPR活動を続ける。UFCの会場に現れた二人は総合格闘技をバカにする。そこに現れたUFC選手を一発でノシてしまう。

 レーザーは「稲妻」からのアドバイスを受け、サリーに電話をし会うことに。そして彼女から30年前キッドと寝た理由を聞かされ自分も悪かったことに気づき、よりを戻すことに。しかし「稲妻」に右目が見えていないことに気づかれ、試合を止めるよう忠告される。その頃キッドはBJの息子を預かるが、彼を連れてバーへ。そこで女性とよろしくやっていたことが原因で息子が警察へ連れて行かれてしまう。怒ったBJは父キッドと絶縁を宣言する。

 「稲妻」がダンテの元を訪れ、レーザーは試合をしないと宣告。それを聞いたキッドはレーザーの家を訪れ、どうしても再戦がしたいと訴える。造船所時代の仲間からも試合を期待していると言われたレーザーは、サリーに会いに行き、試合をすると話す。キッドはBJに会いに行き、ずっと彼のことを気にしていたことを明かし、BJはトレーナーとして戻ることに。

 二人は試合に向け最後の練習に取り組む。そして試合当日。お互いに打ち合い、最終ラウンドまでもつれ込む。お互いにダウンをするが、相手を立たせることに手を貸し合う。そして試合は判定に。僅差でレーザーの勝利となる。

 3ヶ月後、キッドが出演しているTV番組をレーザー、「稲妻」、ダンテが見ていた。ダンテはタイソンとホリーフィールドの再戦を検討していた。

 

 スタローンとデニーロが共演するボクシング映画、というだけで良いのでは(笑

 共に名作と言われるボクシング映画で主演を果たしている二人が、実年齢70歳前後でボクシング映画の主役として映画を撮っただけでスゴいこと。さすがにラストの試合シーンは無理があったようにも思えるが。それでもトレーニングシーンはよくやっている。「ロッキー」を彷彿とさせるシーンもあり、コメディとしても面白い。ただ、下ネタ満載のセリフはどうかと思うが(笑

 豪華な俳優陣による人情喜劇、の線を狙ったのだろうが、それが成功しているかどうかは…。もう一度書くが、スタローンとデニーロが共演するボクシング映画、というだけで良いのでは(笑

 

 

嵐が丘

●494 嵐が丘 1939

 男性が吹雪の中、「嵐が丘」と呼ばれる屋敷に泊めてもらう。その夜男性は窓からヒースクリフを呼ぶ女性の声を聞く。それを屋敷の主人に話すと主人はキャシーと叫び吹雪の中、家を飛び出して行った。戸惑う男性に屋敷のメイドが過去の出来事を話し出す。

 かつてこの屋敷に住んでいたのはアーンショー。息子ヒンドリーと娘キャシーがいたが、ある日捨て子を連れてきてヒースクリフと名付け、子供達と共に育て始める。ヒンドリーは彼を毛嫌いしたが、キャシーは彼に惹かれ二人は愛し合うようになる。

 しかしアーンショーが亡くなりヒンドリーが主人となると、彼はヒースクリフを馬丁として扱うようになる。それでもキャシーはヒースクリフを愛していた。

 ある時キャシーは隣家リントン家のパーティを見にヒースクリフと隣家に侵入する。番犬に見つかり二人とも怪我をするが、リントン家の息子エドガーはキャシーを見初め手当てをする。ヒースクリフは一人家に戻ることに。

 上流階級の家庭を知ってしまったキャシーはエドガーに惹かれるようになり、ヒースクリフに冷たく当たる。しかし二人の愛は変わらなかった。その後もエドガーと付き合っていたキャシーは求婚され舞い上がる。そのことを知ったヒースクリフは家を出て行くが、キャシーの本当の気持ちはヒースクリフにあった。ヒースクリフを失ったキャシーはエドガーと結婚する。

 幸せに暮らしていたキャシーの元に成功したヒースクリフが戻ってくる。彼はキャシーへの復讐を誓い、エドガーの妹イザベラに近づく。そして二人は結婚する。キャシーは戸惑う。その後キャシーは病気となり余命幾ばくもなくなる。それを知ったヒースクリフはキャシーの元へ行き、二人はお互いの愛を確かめるが、キャシーは亡くなってしまう。

 メイドの話が終わった時、医師が嵐が丘に来る。彼は道中吹雪の中でヒースクリフが女性と一緒だったところを見かけ近寄ると彼が死んでいた、と話す。メイドは女性はキャシーでやっと二人は一緒になれたのだと話す。

 

 有名なタイトルだが、これも今回が初見。何の知識もなく観たが、まるでふた昔前の「昼メロ」を観ているようだった。お互い愛し合っているにもかかわらず、結ばれない、という「昼メロの黄金パターン」(笑

 と思ってwikiを読んだら、この映画の原作をモチーフにした「昼メロ」が実際にあったと知り驚いた。原作ももっとドロドロとした長編であり、この映画ではそれをだいぶ端折っているらしい。

 古典の名作という思い込みがあったが、古典でも意外と内容は現代的なのね、と感じ安心した一本、といったところか。

 

ちどり亭にようこそ 〜夏の終わりのおくりもの〜 十三湊

●ちどり亭にようこそ 〜夏の終わりのおくりもの〜 十三湊

 京都の仕出し弁当屋「ちどり亭」を舞台にした短編集の2作目。店主花柚さんは20代半ば、毎週お見合いをしている。花柚さんに酔いつぶれた際に助けられた大学生彗太は店を手伝うことに。なぜか店に入り浸っている花柚さんの従兄弟美津彦さん、同じ大学に通うバイト仲間の菜月、花柚さんの昔の許嫁永谷総一郎、などが繰り広げる弁当屋での出来事の数々。以下の5編からなる。

 

 

 

「乃東枯、鮎ごはんと字のない手紙」

 花柚さんが風邪をひき、松園さんにピンチヒッターを頼み。お礼にと1週間彼の店に弁当を届けることとなり、彗太も松園の店に行くことになるが…

 キーワードは「弁当は手紙」

 

「菖蒲華、胡麻豆腐と晦日水無月

 花柚さんの知り合い染野井瑤子さんが結婚でアメリカに行ってしまうことに。その彼女が仕出しの弁当を頼みにくる。

 ポイントは「花柚さんが水無月豆腐に込めた意味は」

 

「温風至、甘酢茗荷と乞巧奠」

 彗太はサークルの後輩小川野々香と仲良くなる。その彼女から相談を受ける。菜月が彗太と野々香のことを気にするようになり、彗太は菜月に告白をする。

 ポイントは「野々香が弁当を食べる様子が不味そうに見えた理由は」

 

「大雨時行、塩むすびと氷の響き」

 「ちどり亭」の常連黒岩さんが娘芽衣を連れて店にやってくる。黒岩さんは離婚しており、芽衣は別れた妻が引き取っていたが、事情があり黒岩さんがしばらく預かることに。花柚さん離婚話が進んでいるゆうやママと黒岩さん親子をピクニックに誘う。

 ポイントは「花柚さんがピクニックを計画した理由」

 

「天地始粛、生姜焼きと最初のお弁当」

 花柚さんと総一郎が喧嘩をし口をきかない状態に。二人の喧嘩の理由は「ちどり亭」の存続に関わることだった。そんな中、花柚さんの父親が店を訪れる。

 ポイントは「ちどり亭存続のために彗太がすることは」

 

 前作に引き続きの2作目。ますます人情話系の色合いが濃くなってきている。そのため前作では各章の「謎」を挙げたが、本作では「ポイント」とした。

 最近多く読んでいる「日常の謎」系のシリーズと大きく異なるのは、登場人物の恋の進展が早いということ。主人公?彗太と菜月の恋も本作で成就するし、もう一人の主人公花柚さんと総一郎の結婚話も障害こそあれ、前進を続けている。「謎」がメインではないため、ストーリーの進展はスムーズに、ということだろうか。

 それでも読んでいて全く飽きないし、展開が上手いと言わざるを得ない。

 第1章で花柚さんのセリフから、彗太は「弁当が手紙」の役割をしていることに気づくシーンは見事。誰しもが手作りの弁当を食べた経験があるだろうから、この花柚さんのセリフは意外な点に気づかされる。

 そしてこのことは最終章への伏線となっている。若い花柚さんが店を出すために父親に作り続けた弁当。娘に店を出すことを諦めさせるかのような厳しいダメ出しが続いたはずだが、ここでも「弁当は手紙」の役割をキチンと果たしていた。

 2組の恋が成就し、シリーズは終わりに近づいているように思えるが、最後の難問「ちどり亭の行く末」が残されている。おそらく次作ではここがポイントとなるのだろう。早速読んでみたい。