舞踏会の手帖

●174 舞踏会の手帖 1937

 クリスティーヌは若くして未亡人となる。子供もなく友人もいない彼女は孤独を感じる。夫の遺品を整理している際、自分が16歳で初めて舞踏会に行った時に一緒に踊り愛を囁いてくれた男の名前が書いてある手帖を見つける。夫の秘書から旅を勧められた彼女は手帖にある男たちの元を訪ねる決意をする。秘書に過去の私を探しに行くと告げて。

 一人目ジョルジュ。彼の家を訪ねたクリスティーヌはお手伝いに彼は死んだと聞かされるが、彼の母は彼が生きているように振る舞う。奇妙に感じる彼女を母親はクリスティーヌの娘と勘違いし会話をする。ジョルジュの部屋に通されるが、そこは20年前のまま時が止まった部屋だった。母親は息子がクリスティーヌの婚約を聞き絶望し、20年前のクリスマスの時期に息子が自殺したと話し彼女を追い出す。

 二人目ピエール。彼はナイトクラブの支配人で今はジョーを呼ばれていた。従業員たちと客の持ち物を盗む算段をしていた。クリスティーヌは従業員に詩の一節を彼に伝えるように頼む。ジョーは彼女と話をするが、彼女が金がなく困っていると勘違いし、店で働けるように手配しようとする。彼女は誤解をとき、二人は会話をする。彼は弁護士だったが罪を犯し刑務所に入った後、今の店を始めていた。二人は昔話をする。そこへ警察が来て、ピエールを逮捕する。

 三人目アラン。彼は神父となり聖歌隊の指導をしていた。彼は作曲家で彼女に向けた曲を作り当時披露したが、誰も気に留めなかったことで全てを諦めた。その曲を気に入った息子がいたがすぐに亡くなっていた。その代わりに少年たちの面倒を見ていた。

 四人目エリック。彼は山で山岳ガイドをしていた。彼は30歳までの人生を反省し今は山で生活をしていた。彼はクリスティーヌは昔は手の届かない女だったが今はありのままに話ができると話す。彼女は彼の山小屋で一夜を過ごすことを提案し彼も受け入れる。二人は小屋で愛を語る。しかし救助要請が入り、彼は出て行く。彼女は手紙を残し山を去る。

 五人目フランソワ。彼は町長になっていてその日が女中との結婚式だった。クリスティーヌは二人の結婚式と披露宴に出ることに。彼には養子がいたが、仕事で式には来られないということだった。しかし披露宴にその養子が現れる。彼は盗みを何度も犯すような男だった。彼は結婚のお祝いに来たと話すが、最後には金をせびり、断られるとフランソワを脅す。激怒した彼は息子を無知で叩き大騒ぎとなる。

 六人目ティエリー。彼は造船所で働く闇医者だった。彼は左目を失っており失意の20年を過ごしていた。しかし現状を変えるべく立ち上がろうとしていた。クリスティーヌは彼を支援しようとする。彼は喜び彼女を食事に誘う。しかしその場で彼は発作が起こりおかしくなってしまう。クリスティーヌはティエリーの妻に追い出されてしまう。彼は拳銃を取り出し妻を撃ってしまう。

 七人目ファビアン。彼は理容師をしていた。彼の店に行き、得意の手品の種明かしをすることでクリスティーヌと気づく。二人は舞踏会の話をし、他の男たちの消息を話し合う。彼はクリスティーヌを舞踏会に誘う。二人は会に行く。そこでクリスティーヌが見たものは彼女の記憶とは程遠いものだった。彼女は彼に「灰色のワルツ」を演奏するように頼む。彼が離れた際彼女の横に若い女性がやってくる。二人は束の間の会話をする。若い彼女は16歳、初めての舞踏会に興奮していた。クリスティーヌはファビアンと踊りながら16歳の舞踏会を思い出していた。

 クリスティーヌは家に戻り、秘書と話をする。秘書は彼女の話を聞き、これで過去が断ち切れ再出発だと話す。そして唯一住所がわかっていなかったジェラールの住所がわかったと話す。彼女の家の湖を挟んだ向かい側に住んでいた。彼女はジェラールの家を訪れる。そこにいたのは16歳の時に見たままのハンサムな少年だった。話をすると彼はジェラールの息子で、ジェラールは亡くなったとのことだった。クリスティーヌは彼を養子とし、初めての舞踏会に連れて行くのだった…

 

 何の予備知識もなく観たが、一人目の家を訪ねた直後から見事に引き込まれた。信じられないという表情のお手伝いさんの後に出て来た母親の不気味なこと。時が止まった息子の部屋の異常さ。そしてだんだんと狂って行く母親。

 二人目以降はどうなるのかと思っていると、一人一人が違う人生を歩んでいたことがわかる。皆クリスティーヌに夢中だったことは本当だが、それも20年前の話。彼女の思い出が少しずつ壊されていくのもよくわかった。そして六人目のティエリーの絶望感。もはやクリスティーヌの思い出の話ではなく、男たちの歩んだ20年の人生にテーマは変わっている。ティエリーの家でのカメラの不安定なこと。話の展開を暗示している。

 そして七人目。やっと平和な家庭を築いている男。下手な手品もホッとさせる。そして20年ぶりの舞踏会でクリスティーヌは気づく。そこにあの時の自分と同じような16歳の少女。

 完璧な脚本。最後のジェラールのエピソードは蛇足のような感じもするが、思い出が壊れたクリスティーヌにやっと見えた明るい未来、ということなんだろうと思う。

 ここ何本か古い映画で驚かされてばかり。この時代の映画ももっと観なくちゃダメでだと改めて思う。