完本 寺内貫太郎一家

●完本 寺内貫太郎一家 向田邦子

 寺内貫太郎一家の完全本。よくわからないが、TVドラマは39話あるのに対し、小説は全24話となっている。前回読んだ「寺内貫太郎一家」が12話でここまでが向田さんが発表した作品であるのに対し、後半の12話を追加して完本とした模様。後半はTVドラマのノベライズ化なのか?話数が合わないのがよくわからないが。

 しかしやはり冴えている。昔のドラマを懐かしむ番組などで、樹木希林扮するきんがジュリー(沢田研二)のポスターの前でジュリーと叫ぶ名シーンを何度も見たことがあるが、後半ではとうとうジュリー本人が登場する回がある。しかも脚本の見せ場、大ファンのきんがジュリーと絶妙に会えないシーンが続き、あーとこちらが思っていると最後に出会うことが叶う。しかしジュリー本人に会ったことを周りのみんなは理解してくれない、というオチがつく。ここでは回の冒頭でその伏線が張られていて…という仕掛け。

 向田さんの小説は登場人物の思いが思いがけない形で現れて周りの人間が慌てたり、後ろめたさがドラマの伏線になっていることが多かったが、この話ではコメディドラマの王道を行きながらも、しっかりとほろっとさせる話になっている。さすがに上手い。

 もちろん貫太郎一家としてのメインの話、静江の結婚話が後半のメインとなってきて、色々とありながらも、最後はめでたく結婚式となっていくのだが、そこも一筋縄ではいかず、静江の白無垢にミヨちゃんが…というエピソードでハラハラさせられる。一家それぞれが本音をぶつけ合う小説としてのハイライトとともなっている。しかし最後にいつもお調子者のきんがミヨちゃんの心境を語るシーンがあり、こちらも見事にほろっとさせられる。

 解説で爆笑問題の太田さんが書いているが、きんは向田さん本人のイメージとダブる。結婚がらみの話できんが結婚に関する昔から慣わしを語るシーンが随所に見られ、「結婚とは」に対する向田さんの思いが語られているようだ。

 

 向田さんの長編の小説はこれで終わりのようで、もっと読みたいと切望する。事故さえなければもっと傑作を書いてくれた人であったと思うと今更ながら本当に残念。