あなたへ

●190 あなたへ 2012

 倉島は富山の刑務所の刑務官。妻を最近亡くしたばかりだった。彼の元へNPOの女性が訪れ、妻の手紙を渡す。そこには自分の遺骨は故郷の海に撒いてくださいと書かれていた。

 倉島は自分の車をキャンピングカーに改造し、妻と旅をするつもりだった。その車で妻の故郷長崎の平戸へ行くことにする。

 倉島の妻は刑務所へ慰問に来て歌を歌っていた時に知り合っていた。彼が声をかけると妻は本当は慰問ではなく一人のために歌っていたと告白する。彼は刑務所で突然亡くなった受刑者の持ち物に、妻からもらった手紙と同じ絵が描かれている手紙があったことを思い出す。彼は上司に退職願を出し長崎に向かうつもりだったが、上司は受理はせず休暇とすることを伝える。

 倉島は長崎へ向かう。途中飛騨で水を補給する時に杉野と出会う。二人はキャンプ場で泊まり話をする。杉野は倉島に山頭火のことを話し、一冊の本を送る。

 京都で車の中で本を読んでいた倉島は田宮と知り合う。車のバッテリが上がり困ってい田宮を倉島は大阪まで乗せて行くことに。彼は弁当の実演販売員だった。大阪で倉島は田宮の仕事を手伝い、田宮の同僚南原と知り合う。

 倉島は竹田城跡に寄る。そこで聞いた妻の歌を思い出していた。そこに杉野がやってくる。二人は亡くした妻の話をする。そこへパトカーがやって来て杉野は逮捕される。倉島も警察に同行を求められる。

 九州へ向かっていた倉島に田宮から電話が入り門司で会うことに。南原を含め三人で飲むことになる。そこで田宮は自分の妻が浮気をしていると話す。ホテルに泊まった倉島の部屋を南原が訪れる。田宮の件で謝罪をし、平戸で船の手配で困ったらこの人を訪ねればといい、大浦吾郎の連絡先を渡してくれる。

 平戸に着いた倉島は郵便局で妻からの手紙を受け取る。そこにはさようならとだけ記されていた。彼は散骨のため船をチャーターしようとするが、組合に断られてしまう。彼は食堂に入るが、そこの娘が偶然彼の話を聞いており、倉島は大浦のことを尋ねる。そこにいた娘の婚約者の漁師の祖父が大浦だと判明する。倉島は大浦に船を出すことを頼むが断られてしまう。

 倉島は食堂の女将に台風が来ているので店で寝るように言われる。そこで女将の旦那が海で遭難したことを聞く。翌日倉島は街を歩く。写真館に飾られていた幼い頃の妻の写真を目にする。妻からの手紙に描かれていた灯台が見える場所に戻り、手紙を投げ捨てる。

 天候が良くなり倉島は再び大浦に船を出してくれるように頼む。大浦は了解する。その日の夜車にいた倉島の元へ食堂の女将がやって来て、娘と婚約者の写真を渡し、一緒に海に投げてほしいと頼む。

 倉島は婚約者と大浦とともに海に出る。そして散骨をする。

 倉島は退職願を郵送する。そして門司にいる南原に電話をする。二人は落ち合って話をする。倉島は女将から渡された写真を南原に渡す。彼は女将の旦那だったこと、遭難しそのまま姿をくらましたことを告白する。倉島は刑務所内で外と連絡を取り合うことを鳩を飛ばすと言うが、今日自分は鳩になったと話す。

 

 高倉健さん、大滝秀治さんの遺作。一度見たことがあったが、二人が亡くなった後初めて見た。

 最初に見たときは、久しぶりの健さんの映画で、豪華な共演陣で、健さんロードムービー、と思っただけだったが、今回また見てみるとテーマが深かったんだと思わされた。健さんロードムービーのように見えるが、テーマは身近な人間を亡くした人がどう生きて行くか、ということだと思う。幾度となく健さんと田中裕子の回想シーンが流れ、健さんが妻を懐かしむ表情をするが、最終的には妻からの手紙を捨て去るという行動を取る。これが映画のテーマなのだろう。普通に考えれば妻からの手書きの手紙など捨てられないが、妻の思いはきっとそこにあったんだろうということに気づいたからなのだろう。

 二人の名優の遺作となった映画のテーマがこれだと思うと重い。思い出を捨てるわけだはなく、いつまでもとらわれない、言ってみれば未練を捨てる、ということか。

 食堂の女将の旦那が南原であるというある意味サプライズが最後に出てくるが、これにより、女将から写真を受け取った後の健さんの回想〜刑務所内の映像〜の意味がわかる。つまり写真を受け取った時に、自分は鳩になる決意をしていたのだということが。

 

 この映画の作成中に撮影されたNHKでやっていた高倉健のプロフェッショナルをもう一度見たくなった。