眠る盃 向田邦子全集 第六巻

●眠る盃 向田邦子全集 第六巻

 全集2冊目のエッセイ集。

 第五巻の父の詫び状に比べ短めのエッセイとなり、数ページのものがほとんど。中には二ページのものまである。どうやらいろいろな雑誌などに掲載されたものの寄せ集めらしい。ある程度似通ったテーマごとに並んでいるので読みやすい。

 最初はいつも通り子供の頃の思い出に関連したもの、そして猫や犬、食べ物、服、旅行、人について、とあらゆるものに対する向田さんの目線が描かれる。

 短めの文章なのでサクサク読める。しかし短いからといって油断しているとバッサリとやられる一文が入っていたりして驚かされる。

 「あ」の『子供を持たなかったことを悔やむのは、こういう時である。』

 「一冊の本 吾輩は猫である」の『〜ひげをはやした偉そうな夏目漱石先生から、一人前のおとな扱いされていました。』

 「ツルチック」や「中野のライオン」で展開される当時の読者を巻き込んだ昔の記憶に関する事件とその解決?もあれば、「パックの心理学」で告白のように描かれる化粧に対する女性心理や「男性鑑賞法」では人の褒め方のお手本のような文章もある。文章が短い分、向田さんの様々な「技」を存分に味わえる一冊。

 中でも出色なのは、まるで推理小説のような部分。

「抽出しの中」の『夜中に切手が要るという場合は、まず冷蔵庫をあける。』の一行はどうしたって次の文章を読まざるを得ないし、「続・ツルチック」の最後の一行に登場する有名人の名前には驚くしかない。

 「銀行の前に犬が」はこの本の中では八ページものと少し長いが、その話の展開の仕方がまさに推理小説、しかも二段落ちとなっていて、これまた最後の一行で唸らされてしまう。お見事、の一言。