霊長類ヒト科動物図鑑 向田邦子全集 第八巻

●霊長類ヒト科動物図鑑 向田邦子全集 第八巻

 全集のエッセイ4冊目(読んだのは3冊目)。解説?の爆笑問題太田さんも書いているが、これまでのエッセイとは違う感じがする。太田さんはそれを「向田さんの意思が存在している〜日本人論あるいは国家論〜と語られている。自分はそこまで大きな意思だとは思わないが、違和感は感じた。

 読んでいる途中でそれに気づき、そのつもりで読んでみたがよくわからない。これまでのエッセイは、向田さんがみたものや人について書かれた後、それに対してズバッと一言添えるのが特徴だったように思う。この本でも同様に向田さんが見てきたものや人について書かれているが、それについてどう思ったのかという過程を、つまり思考回路のようなものを丁寧に書かれたのだと思う。

 「寸劇」では贈り物を持参した客との駆け引きを書きながら、それについてどう対応するか、他の人はどうしているのか、など事細かく書かれている。誰しもが経験していることなので、「そうだよなぁ」と思いつつ読みながらも、向田さん独自の視点が書かれ「なるほど」と膝を打つことになる。他の話でも同じ。「新聞紙」「布施」「安全ピン」などどれもそうだ。

 一方でその頃(もう40年も前のエッセイなのだ)、一般の人があまり体験しないようなことを経験された向田さんの話も出て来る。そこでも、新しいものに対してどう向田さんの考えや思いが作られていったのかがわかるような気がする。

 一つ一つの文章の長さもあったのかもしれないが(この本の作品はどれもこれまでのものより短め)、向田さんはこれまでのような小説的エッセイではなく、人とは違うものの見方をすると言われていたであろう向田さんの思考回路を一端を見せてくれたのではないか。そんな気がした。