チャップリンの殺人狂時代

●220 チャップリンの殺人狂時代 1947

 ヴェルドゥの墓が映し出され、彼の語りから映画が始まる。

 フランス北部の街のワイン商の家でテルマが行方不明になる。彼女は50歳、預金を全て下ろし男と結婚すると言っていた。

 フランス南のとある村。ヴェルドゥは家で花を摘んでいた。そこへ郵便が来る。テルマ宛に預金6万フランが送られて来ていた。それを受け取ったヴェルドゥは証券会社に連絡し株を購入する。

 テルマの家族は警察に相談する。3年間で12名の女性が同じような状況で姿を消していた。

 ヴェルドゥは家を売りに出す。それを見に来た婦人グロネーが夫と死に別れたことを知ると猛烈にアタックする。しかし女性はそれを嫌がり帰って行く。

 ヴェルドゥはパリで家具屋を営んでいた。そこに証券会社から連絡が入り5万フランが必要だと言われる。ヴェルドゥはリディアに連絡し会いに行く。大不況で銀行が倒産するかもと話し、リディアに預金を降ろさせ、その夜彼女を殺害、お金を奪う。

 ヴェルドゥは家に帰る。そこには幼い男の子と足が不自由な妻がいた。彼は家の権利書を持って帰るが、妻は仕事で忙しそうにしている夫の体を心配していた。その夜家にボテロ夫妻が客としてやって来る。彼は薬局を経営していた。

 ヴェルドゥは船長に扮しボヌールと名乗り、アナベラに会いに行く。彼はアナべらとも結婚していた。しかし彼女はお金に関しては彼を信用していなかった。そんな彼女が友人から買った宝石を彼は偽物だと鑑定する。アナベラは預金を下ろし現金として持っていると話すと彼は出かけることを辞め、家に泊まると言い出す。二人は外に食事に出かける。途中彼はクロロホルムを購入する。家に帰りアナベラが寝たのを見計らいクロロホルムを使おうとするが、昼間クビにしたはずのメイドが戻って来て未遂に終わる。

 パリに戻ったヴェルドゥはグロネーの居場所を調べ、偶然を装い会いに行く。しかし反応は冷たいものだった。そこで彼は花屋に頼み、2週間花を送り続けることにする。

 ヴェルドゥは家に戻る。ボテロ夫妻と食事をしたのち、会話を楽しむ。そこで彼はボテロと安楽死について話をし、心臓麻痺に見えて死ぬ薬のことを聞く。

 ヴェルドゥは薬を作る。街を歩いている時に偶然若い女性と出会い、家に誘う。薬の入ったワインを飲ませるつもりだったが、彼女のこれまでの話を聞いて薬を飲ませることを断念し、彼女にお金を渡し別れる。

 ヴェルドゥは花屋に行き婦人の様子を確認する。そんな彼を刑事がつけていた。刑事は彼の家に来て2週間尾行したことを告げる。彼は妻に合わせてくれれば自白すると話し、刑事に薬の入ったワインを飲ませる。二人は列車で家に向かうが、刑事は薬が効いて寝てしまう。彼はその隙に逃げ出し、刑事は心臓麻痺で死んだことになる。

 ヴェルドゥは薬を用意しアナベラに会いに行く。薬をワインに入れてアナベラに飲ませようとするが、ちょっとした手違いでメイドが薬の入ったビンを割ってしまう。それを知らない彼はアナベラに薬の入ったワインを飲ませたつもりでいたが、彼女の様子は一向に変わらない。そのうち誤って彼女のグラスからワインを飲んでしまった彼は大騒ぎをする。医者が呼ばれ、しばらく休養をするようにと言われる。

 二人は田舎に休養に行く。そこでボートに乗る。彼はアナベラを殺そうと色々するが、どれも失敗に終わる。

 グロネーの家にまた花が届けられる。偶然居合わせた友人が一度会うことを勧める。彼女は花屋にヴェルドゥへのメッセージを渡す。彼は早速彼女に会いに行き、猛アタックをする。そして二人は結婚することに。式にはなぜかアナベラも来ていた。彼女の存在を知ったヴェルドゥは慌てる。そして逃げ出してしまう。

 グロネーも警察に行く。そこにはテルマの家族も来ていた。

 株の大暴落が始まる。ヴェルドゥも破産してしまう。

 街を歩いていた彼をいつかの若い女性が車の中から呼び止める。彼女は兵器会社の社長と結婚し裕福になっていた。いつかのお礼にと二人は食事に出かける。そこにテルマの家族が来る。ヴェルドゥに気づいた彼らは警察に連絡、ヴェルドゥは逮捕される。

 裁判が行われ、彼は死刑を宣告される。彼は戦争での大量殺人のことを話し、最後に「この世から私の生命の火が消える前にひと言だけ 皆さんとは程なくお会いすることになる すぐにね」と話す。

 刑執行当日、最後の面会に来た新聞記者に「君は人を殺し 盗み続けた」と言われ「ビジネスです 歴史的には殺しは一大ビジネス 戦争も紛争も全てビジネスです 1人殺せば悪党 100万人殺せば英雄」と答える。そして刑が執行される。

 

 チャップリンの映画は若い時にほとんど見たつもりでいたが、これは観た記憶がない。あったかなぁ。いつもの「チャーリー」ではないチャップリンは初めて観た気がする。

 この映画では残忍な連続殺人犯を演じているが、要所要所に入るコメディシーンのせいか暗さは感じられない。残虐と思われるシーンもある。冒頭のテルマの家の外で3日間燃え続けているのは、おそらく彼女の死体だろうし、リディアに至ってはおそらくチャップリンが部屋に入ってすぐに殺されたのだろうし。ただ後半のアナベラをボートの上で殺そうとするシーンがまさにコメディ感満載のため、先の2件については忘れられてしまう気がする。

 チャップリンのメッセージは裁判、刑務所で語られたことが全てなのだろう。wikiによれば、まさにハリウッドの赤狩りのターゲットにされた時代。しかし戦争を憎む彼は作らずにはいられなかったのだろう。前にも書いた漫画「赤狩り」の最新話に、チャップリンがアカデミー名誉賞を1972年に受賞する話が描かれているが、この映画を観るとその意味がよくわかる。