夜中の薔薇 向田邦子全集 第九巻

●夜中の薔薇 向田邦子全集 第九巻

 全集のエッセイ5冊目。一つ前に読んだ「霊長類ヒト科動物図鑑」でも書いたが、それまでの作品と異なり、やはりこの本でも向田さんの考えがストレートに書かれているように感じた。エッセイなのだから著者の考えが書かれるのが当たり前、という考え方もあるだろうが、「父の詫び状」の頃の文章はエッセイでありながら小説よりも切れ味鋭いところがあった。それが「父の詫び状」での最後の一文であり、そこにだけ向田さんの考えが現れていた、と思う。

 この本では、これまた前作同様、短い文章が多い。巻末の初出一覧を見ると新聞に掲載されたものが多いのも関係しているのだろう。直木賞を受賞され、様々な媒体(新聞、雑誌等)に文章を書くことになったためだと思う。短い文章ではあまり仕掛けは作れない。だから向田さんの考えや思いがストレートに出ているのだろうと思って本を読み進めた。

 そして最後の「手袋をさがす」で見事に向田さんの思いは爆発する。ご自分の性格をしっかりと分析し、それがどの時点で決意されたものかを滔々と語られる。まるで前作、今作の作品たちは、この文章へ向かって書き進められたもののようにさえ思える。そして「手袋をさがす」を読むと、向田さんの文章の中に多々ある外国旅行記などの本当の意味がわかってくる。向田さんは常に何かを探し続けていた方だったのだ、と。