七年目の浮気

●230 七年目の浮気 1955

 夏、マンハッタンの男たちは家族を避暑地に送り、一人仕事に勤しむ。出版社に勤めるリチャードも同じだった。駅まで妻と子を見送るが、息子はパドルを忘れていってしまう。

 出社したリチャードは夏の浮気を楽しもうとする男たちを非難し、禁酒禁煙を守り仕事をする。家に戻ったリチャードは呼び鈴で集合玄関を開ける。そこにいたのは、2階のカウフマン家が留守の間だけ住むことになったブロンドの若い女性だった。鍵を忘れた彼女はリチャードの家の呼び鈴を鳴らしたのだった。挨拶する二人。

 家に戻ったリチャードは妻からの電話を待つ間、仕事の原稿を読み込む。それは「中年男性の抑圧された衝動の原因と結果」というタイトルだった。庭で原稿を読むうちに、リチャードは妄想の妻と会話を始める。彼は自分がいかにモテるかを語り出す。会社の秘書、入院し後きの病院の看護婦、妻の友人。どれもリチャードの妄想だった。妻からの電話で、妻のところにトムがいることがわかる。電話を終え、庭での原稿読みも終わりにし、寝ようとしたところ、2階から植木鉢が落ちてくる。危うく難を逃れたリチャードは2階に向かって怒鳴る。そこから顔を出したのはあのブロンド美人だった。彼は謝罪する彼女に一杯やらないかと誘う。

 彼女が来ることで興奮したリチャードは禁酒禁煙の誓いを破る。そしてラフマニノフのレコードをかけ、彼女が部屋に来た後の妄想に耽る。そこへ客が。美女だと思ってドアを開けると管理人が妻からの依頼の絨毯を引き取りに来たのだった。しかしリチャードは管理人を返し翌日取りに来るように言う。

 やっと彼女が来る。二人は酒を飲み始める。ブロンド美女は飾りとなっている階段をオシャレだと褒める。リチャードは元は2階建てだったものを二つに分けた時に天井を塞いだのだと説明する。彼女は部屋にエアコンがあることに驚く。リチャードは彼女の仕事を聞く。彼女はUSカメラのモデルやTVCMの女優をやっていると答える。彼女が家にあるシャンパンを持って来ると言い、部屋に戻る。

 リチャードは部屋にあったUSカメラを読み、彼女の刺激的な写真を観て驚く。その時妻からまた電話がかかって来る。妻は彼が酔っているのではと疑うが彼はごまかす。ブロンド美女が戻って来てシャンパンを飲み始める。彼女はリチャードが結婚指輪をしていることに気づき、既婚男性は結婚してくれと言わないので好きだと話す。二人は部屋にあったピアノを弾き始める。興奮したリチャードは彼女にキスしようとするが、椅子から転げ落ちてしまう。そこで正気に戻ったリチャードは彼女に部屋に帰るように言う。そして鏡で自分の顔を見て、「ドリアン・グレイの肖像画」のようだと落ち込む。

 翌日出社したリチャードは社長にこのままでは気が変になりそうなので、休暇を取って家族の元へ行きたいと話すが、社長は忙しい時期なので許さなかった。一緒に夜遊びをするよう誘うが、リチャードは断る。自分の部屋に戻った彼は原稿を読む。そこには男は七年目に浮気する確率が高いことが書かれていて、実例も挙げられていた。そこへ原稿の執筆者の医者がやって来る。リチャードは彼に自分のことを相談するが、医者は本格的な話は治療として、と言って帰ってしまう。

 不安になったリチャードはまた妄想する。ブロンド美女が昨夜のことを言いふらし、それが妻にも知られてしまう、というものだった。心配になった彼は妻に電話をするが、妻は不在で、トムとドライブに出かけていると聞き、伝言があると言われる。それはパドルを送れということだった。昨夜のことが妻にバレていないとわかったリチャードは安心し家に帰る。

 玄関で2階からブロンド美女に声をかけられるが、冷たく返事をする。部屋で平和に暮らそうとしてシャワーを浴びる。妻のことを考えているうちに、一緒にいる作家のトムの書いた文章を思い出す。いつしかそれが妻とトムが浮気をしている妄想に変わっていく。自分の妄想で怒ったリチャードはブロンド美女を映画に誘う。彼女が出ているTVCMの歯磨きの話をし、二人はキスをする。家に戻った二人、リチャードはエアコンで涼んで行けばと、彼女を部屋に誘う。彼は酒を作りながら彼女を口説こうと話をするが、彼女は話を聞いておらず、エアコンの効いた部屋のことを考えていた。そして今晩この部屋に止めて欲しいと頼む。そこへまた管理人が絨毯を取りにやって来る。管理人に誤解されたくないリチャードはあれこれと言い訳をし、彼女を部屋に返すことにする。

 部屋に一人残ったリチャードは、寝れないため、パドルを送る準備を始める。その時天井の板を外しブロンド美女が降りて来る。リチャードはベッドを彼女に貸し、自分はソファで寝る。朝リチャードは目が覚め、会社に行くため彼女を起こそうとするが、起きない。朝食の準備をしている時に、妻が帰って来る妄想をしてしまい、その妄想の中で彼は妻に撃たれ死んでしまう。その妄想話を聞いたブロンド美女は私でも同じことをすると話すが、リチャードは自分の妻はヤキモチなど妬かないと話す。彼女はリチャードを褒め、嫉妬しない奥さんはおかしいと話す。

 そこへトムがやって来る。リチャードはトムが妻が離婚したがっている話を持って来たと思い話すが、トムはパドルを取りに来ただけだった。しかし興奮しているリチャードはトムの話を全く受け付けず殴って気絶させてしまう。そしてパドルは自分で届けることにし、ブロンド美女に会社に2週間休むことを連絡してくれるように頼む。美女は出て行こうとするリチャードを呼び止め、キスをし、奥さんが口紅をクランベリーソースと間違えたらお馬鹿さんと言って、と話す。リチャードは家族の元へパドルを持って出かけ、美女はそれを見送る。

 

 モンローの作品は「紳士は金髪がお好き」に続いて2本目。「紳士は〜」はモンローを観るためだけの映画だったように思うが、本作はワイルダー監督脚本だけあって、ストーリーに工夫がある。それは主人公リチャードの妄想シーン。随所に出て来るが、最初はリチャードが妄想を語り始め、それが映像化されていく、という手法を取っている。そのため妄想がわかりやすく、当時は観客の笑いを誘う場面だったのだろう。この手法は今でこそ、映画、漫画、推理ドラマなどで多用されているが、この映画が初めてだったのではないか。さすがにワイルダーだと思わせるところか。

 しかし今観ると妄想シーンが多すぎる感は否めない。もう一つのストーリー上の見せ場は最後のモンローの告白とリチャードの妻への台詞なのだろう。セックスシンボルだったモンローにあの台詞を言わせることで、世の男性たちにエールの送ったのではないか(笑 美女が自分の家の上の部屋に住むこと自体が、もう大人のおとぎ話のようなものだが。

 有名な地下鉄の風でスカートが巻き上がるシーンは映画の中では初めて観た。ほぼストーリーと関係ないシーンで、サービスシーンのように見えるのは仕方なしか。

 モンローの本を読むとこの作品の後、芝居を習うことに勢力を注いだモンロー。この後の作品を是非観たいものだ。