向田邦子シナリオⅣ 冬の運動会 向田邦子

向田邦子シナリオⅣ 冬の運動会 向田邦子

 向田さんのシナリオで今読めるものはこれで最後になる。そのつもりで1話ずつ大切に読んでいくつもりだったが、やはり面白く2話ずつ読んでしまった。

 相変わらずだが、もう設定にシビれる。祖父、両親、長男、長女の家族の話で、エピソードは男たちに集中する。ここまではまだ普通かもしれないが、それぞれの男たちが、家庭とは別の家庭を持つことが焦点になってくる。祖父が若い愛人を作り、父も亡くなった友人の残された妻と怪しい雰囲気を醸し出し、とここまでは、「阿修羅のごとく」の設定に近いが、この作品では息子までもが、靴屋の老夫婦の家に入り浸る、という特殊な状況が描かれる。

 話が面白い分、途中でなぜ「冬の運動会」というタイトルなんだろうと疑問を持つ。序盤で走り出した長男が子供の頃の秋の運動会を思い出すシーンが書かれるが、タイトルになるほどの説得力はない。しかしタイトルの謎は最後に明かされる。男たちは皆走っていたのだ。

 本にはドラマ化された時の配役も記載してあり、なぜか風吹ジュンさんが全く別人の二役を演じていると書かれていて、これも疑問だったが、これも読み進めていくと合点が行く。ある波乱を起こすためには一人二役が必要だったのだ。

 先にも書いたが、他の向田さんの小説で読んだような設定でありながら、全く異なる話が展開される。巻末の解説で、この小説は向田さん御本人が気に入っていたことが明かされるが、さもありなんと思う。他の向田作品でも書いた、組み合わせの妙が非常に効果的に使われている。父にとっての祖父が、長男にとっての父と同じ意味を持っていたことが最後に表現された時には思わず唸ってしまった。

 巻末で言えば、丹波哲郎和田勉向田邦子という豪華な3人の対談も載せられている。大変興味深い内容だったが、一番記憶に残ったのは、丹波さんの言うことが丹波さんらしい、ということだった(笑

 DVD化などがされていないらしく、このドラマを見ることができないのは承知しているが、靴屋の老夫婦の夫役の大滝秀治さんが演じた、座頭市のモノマネだけで良いので是非見てみたい。なんとかならんか(笑