向田邦子・映画の手帖

向田邦子・映画の手帖

 これは向田さんが出版社に勤め、映画雑誌「映画ストーリー」の記者時代に書かれた編集後記が掲載されているとても貴重な本。入社直後のものから、約3年の休載を経て退社までのものが網羅されている。

 入社翌月号のものから掲載されているが休載までの約半年分は、今でも雑誌の巻末などでよく見かけるような文章で、さすがに「素人」向田さんと言わざるを得ない。しかし3年の休載の後のものを読むと、最初こそ映画に絡めた話を書こうとしているのがわかるが、途中からは既に「ライター」向田さんの文章になっている。これまで読んできたあの名エッセイの種のようなものが見受けられる。

 この本にはそれ以外にも、出版社時代の上司、同僚の方から見た向田像が書かれており非常に興味深い。同僚の方の記憶によれば、雑誌記者時代は毎日映画の試写を見るような生活だったとのこと。どのぐらいの本数の映画をご覧になったのか。この時期に、後の名脚本家としての骨格となる部分が作られていたのかと思う。