中野のお父さん 北村薫

●中野のお父さん 北村薫

 久しぶりに新しい北村薫さんの短編集を知ったので早速読んでみた。

 北村さんが上手いことは何度も書いたので良しとするが、ひとつだけ。

 4話目の「闇の吉原」で「闇の夜は 吉原ばかり 月夜かな」という句を巡って様々な話が展開する。これが北村さんの博覧強記ぶりが存分に発揮されていて良いのだが、ここまでの3話を比較して、この1句に対するこだわりが凄すぎて、アシモフ黒後家蜘蛛の会のような作者の膨大な知識をお披露目される展開になるのか、とちょっと心配した(あれはあれで面白いのだが、あまりにその手の話が続くとちょっと…ね)。

 しかし続く5話目の「冬の走者」が謎解きをされると、あまりに普通の話で、読んでいる自分がなぜこんな当たり前のことに気がつかなかったんだろう、伏線も「いかにも」な伏線だったのに、と驚いた。勝手な想像だが、ひとつ前の話がちょっとゴチャっとした「闇の吉原」だったこそ成立したトリックだったのではないか、と思っている。

 それにしても相変わらず上手い。短編集はどんどん次の話が読みたくなってしまう。と思ったら続編があるようで。早速読まなくては。