病院坂の首縊りの家

●251 病院坂の首縊りの家 1979

 昭和26年、金田一は吉野市にある横溝正史の家を訪れる。アメリカに行くという金田一にパスポートの写真を撮るならと写真館を紹介する。

 金田一はその写真館本條写真へ行き、写真を撮ってもらうが、主人徳兵衛から、命を狙われている、空きビルへ行った際に入ろうとしたところ、デカい風鈴が落ちて来て寸前のところで助かった、その件を調べて欲しいと依頼される。金田一が写真館を出て行くと、入れ替わりに若い女性が出張撮影の依頼にくる。夜9時に迎えに来る、と言い残し去って行く。夜9時、男がやって来て、主人の息子直吉が同行する。古い屋敷へ連れて行かれ、金屏風の前で結婚式姿の二人を撮影する。その際二人の間に風鈴が飾られていた。直吉が撮影した写真を現像したのを徳兵衛が見て、娘は法眼病院の娘由香利だと話す。

 翌日依頼された件で金田一が写真館を訪れると、直吉が結婚写真を見せ、昨夜の話をする。そこへ電話がかかり、昨夜の屋敷で風鈴写真を撮ってくれと依頼される。金田一と写真館のメンバーで屋敷に行くと、写真の男の生首がぶら下げられていた。驚いていると、何者かが部屋から逃げ出すのを目撃、写真館の助手黙太郎が逃げ出した男を捕まえる。

 屋敷に警察が捜査に入り、関係者が集められる。屋敷の持ち主、法眼病院の弥生、法眼家と姻戚関係にある五十嵐家の光枝とその息子滋、写真館の人たちなど。等々力警部が結婚写真を弥生に見せ、写っているのは娘由香利かと尋ねるが、弥生は否定する。そこへ由香利が現れる。そして現場から逃げようとした男が供述をする。それにより、結婚写真の男は山内敏男、女は山内小雪、この二人は義理の兄弟、逃げた男吉沢はこの二人と同じアングリーパイレーツというジャズバンドのメンバーだった。吉沢は二人が結婚するのを手伝っており、翌日二人を探しに屋敷に来たとのことだった。そして二人が町外れの空きガレージに住んでいたことを聞き出し、警察はガレージへ。そこで、大量の血痕と軍隊靴の足跡を発見、吉沢はそれを見て、屋敷にバンドメンバーの佐川が探しに来ていたことを証言する。

 佐川は小雪に惚れており、二人が結婚すると聞き、ガレージに行ったと話す。

 金田一は、19年前に同じ屋敷であった首吊り事件を担当した加納巡査の居場所を聞き、会いに行く。加納巡査から、首を吊ったのは山内冬子、彼女は法眼病院の琢也の妾だったこと、冬子の子供が敏男と小雪、冬子は首を吊る前日に法眼家を訪れていたこと、琢也が歌人だったこと、を聞く。

 滋は、今回の事件は敏男と小雪による法眼家への復讐で、また弥生は滋と由香利の結婚に反対しているのでは、と推測する。

 弥生が金田一に会いに来て、山内小雪の捜索を依頼する。そして冬子が弥生を訪ねて来た時の話をする。弥生は冬子に会っておらず、その代わりに由香里が冬子にひどいことを言って追い返したことを話す。

 捜査本部に小雪からの遺書が届く。内容は一連の事件は自分の犯行であり、死ぬことをほのめかしていた。

 金田一は屋敷を調べに行き、黙太郎と出会う。彼から法眼家、五十嵐家の歴史を聞き、家系図を見せてもらう。金田一小雪の遺書の指紋を調べるように警察に頼む。調べで、手紙やガレージに指紋がほとんどないことがわかる。

 本條写真館で、直吉は徳兵衛から考えているビル建設の話を聞く。そして出張撮影へ黙太郎と出かける。二人が出かけた後、徳兵衛は何者かに殺される。

 金田一は弥生に会いに行く。そして生首にぶら下がっていた短冊にあった歌のことで、琢也の歌集がないかを尋ねるが弥生は持っていなかった。そこへ等々力警部がきて、徳兵衛が殺されたことを報告する。写真館の法眼病院に関する乾板が割られていたことを話す。

 金田一と等々力警部は、徳兵衛が狙われた空きビルに行き、調査をし、ビルの持ち主が法眼病院であることを突き止める。

 吉沢は街を歩いている由香里に「小雪」と声をかけるが、由香里は無視する。

 金田一は古本屋で琢也の歌集を見つける。

 電話のシーン。直吉、滋、黙太郎、吉沢、光枝、阪東刑事がそれぞれ誰かと話している。

 吉沢と滋が町外れで会う。吉沢は由香里が小雪ではないか、と滋を脅していた。

 弥生が由香里に「小雪」と声をかける。やはり由香里は小雪で、弥生は小雪に由香里として生きて行くことを求めていた。そして小雪に、敏男とのこれまでの生活について尋ねる。

 金田一は黙太郎と食堂で会う。黙太郎は直吉の動きが怪しいと話す。金田一はバンドのメンバーのことも尋ねるが、吉沢がいなかったことを聞き、食堂を飛び出して行く。ガレージに着くと、そこには殺された吉沢とそれを見ている滋がいた。

 弥生と小雪が家で話している時に、小雪が形見の風鈴を落とす。それを見た弥生は取り乱し、冬子が会いに来た理由に気づく。

 金田一は岩手に行き、南部風鈴のことを調べる。

 黙太郎は金田一からの依頼で、加納巡査の調書から、冬子の顔の特徴について調べる。

 直吉は屋敷に行く。そこで、天井からぶら下がっていたシャンデリアの吊り具が落ちて来て大怪我を負う。

 弥生は天井裏に匿っていた母親千鶴を見舞う。千鶴は昔のことを詫びる。弥生は結婚したい相手がいたにもかかわらず、千鶴の後添えである五十嵐猛蔵に反対され、琢也と結婚したのだった。その際、猛蔵は千鶴にテラスから突き飛ばされ、死亡していた。

 金田一は大怪我した直吉を見舞う。付き添いをしていた黙太郎から、直吉のうわ言が「赤ランプ」だと聞く。

 金田一は敏男の墓参りをしている由香里を見かけ、あなたは小雪さんですねと問いかける。小雪は告白する。

 金田一は法眼家に関係者を集め、話を始める…

 

 

 市川石坂金田一シリーズ第5作にして最終作。前作「女王蜂」でも書いたが、子供の頃に初めてこの映画を観た時、とても怖いイメージを持ってしまい、その後あまり観ていない。今回も久しぶりに観たことになる。ただ冒頭、人力車を引く小林昭二さんの顔を見た瞬間、あぁこの人がラストに良い役をするんだった、と思い出した。

 で、改めて観て気づいた点をいくつか。

その1

 これまでのシリーズは、どちらかと言うと、人間関係や事件の進展などを丁寧に説明(映像で見せる等)していたと思うが、今回の作品ではそれが相当省かれている。

 

・等々力警部が法眼家で天井裏の物音に気づいた後、金田一に徳兵衛が襲われた空きビルの話をするが、その前にそんな話はしていない

金田一が弥生に生首にぶら下げられていた短冊の歌の話をするが、そこまで短冊については映画の中で触れられていない

 

 他にもあったかもしれないが、観ていて「?」となった。何度か目の鑑賞なので、自分は話の展開が理解できたが、初見の人にはもっと「?」ではないか。wikiによれば、原作が上下本となっている長編を無理無理2時間映画にしたためでは、と書かれている。それにしてもちょっと不親切なような気がする。

 

その2

 一番はやはり人間関係が複雑で、黙太郎が金田一に説明し家系図を見せる場面があるが、初見でこれを全て理解するのはほぼ不可能と思われる(笑

 念のため、自分のためにも、まとめておくと、

 

・弥生が五十嵐猛蔵に無理やり結婚させられた琢也には、愛人冬子がいるが、彼女は弥生が猛蔵に犯され出来た子供

・つまり、琢也は、母親弥生と結婚し、その娘冬子を愛人にしていたことになる

・よって、瓜二つである由香里と小雪は母親違いの義姉妹(ただし、弥生から見ると、由香里は娘で、小雪は孫になる)

・なぜか冒頭屋敷に集まった田辺光枝は猛蔵の息子の妻、その息子滋は五十嵐家の直系ということ。

・(おそらくこれが一番のポイント)五十嵐猛蔵は、医者の家系である法眼家との結びつきを強くすることを望んでおり、そのため義理の娘弥生を、自分が支配できる琢也と結婚させた

 〜現在(映画のストーリー上の昭和26年)、滋は由香里との結婚を望んでいるが、これもまた五十嵐家と法眼家の結びつきが強くするためなのか?

 

 最後の五十嵐猛蔵の狙いが映画ではほとんど説明されておらず、「五十嵐家は何だったの?」もしくは「五十嵐猛蔵は弥生を犯しただけ?」という疑問が残ってしまう。

 

 ちなみに、千鶴が最後の方で登場、猛蔵とのエピソード(テラスからの転落)も描かれるが、このシーンは必要だったのか?原作にこれに関するエピソードがあるのかもしれないが、映画ではあまりに唐突であり、話(観客)を混乱させるためだけ、のような気がしてならない。

 

その3

 これまでのシリーズで特徴的なゲスト出演していた方々が顔を揃えている。手毬唄のピーター、女王蜂の萩尾みどり、など。もちろんいつものレギュラーメンバーもぞろぞろと。で、まさかの横溝正史御本人登場まである(笑

 

その4

 これが決定的だと思うが、これまでの4作品では連続殺人の犯人は同一人物だった(単独か複数かの違いはあったが)。しかし今回の映画では、冒頭の生首事件とそれ以降の連続殺人は犯人?が異なっている。しかも金田一シリーズにありがちな不気味な殺人は冒頭の生首事件だけで、以降の連続殺人はほぼ通常の殺人であったため、単なる殺人事件のように見えてしまう。まぁ弥生が脅迫されたために犯した殺人なので仕方ないところではあるが。

 

 

 色々と解りづらい人間関係、説明不足の話の展開、などあるが、それでもこのシリーズがこれで最後かと思うとやはり寂しい。「犬神家」のリメイクはあるがそれはちょっと置いておいて、この5本は自分の中でのミステリー映画の原点になっていると改めて感じた。良いシリーズでした。