野分ノ灘 居眠り磐音江戸双紙 佐伯泰英

●野分ノ灘 居眠り磐音江戸双紙 佐伯泰英

 磐音シリーズ第20作。季節は夏から秋。磐音宮戸川引退と優しき暗殺者岸和田富八との戦い、2人目の暗殺者、木下一郎太蟄居と田沼意次御用人葉山文左衛門一味による一郎太家襲撃、磐音おこん辰平関前藩への船旅開始と三崎湊での金比羅の稲蔵との戦い、船旅野分乗り越えと住倉十八郎殺害。

 前作でシリーズに新しい方向性を打ち出したが、その続き。

 今作でのポイント1つ目は、磐音が佐々木道場の後継となる決心をし、江戸での生計の元となっていた宮戸川を辞す。

 2つ目は複数の暗殺者が磐音を襲う。暗殺者たちは年齢などはバラバラで当然磐音に覚えは一切ない。これは前作からの続いており、黒幕は日光社参以来の田沼意次の策略だと磐音は判断する。

 そして最大のポイントとなる3つ目は、磐音がおこんを連れ、豊後関前藩に船旅で向かうこと。陸路ではないため、事件はあまり起こらないと思いきや、そこはさすが佐伯泰英さん(笑 野分(台風)が船を襲い、さらに船中に田沼の手の者が忍び込んでくる。

 しかし今作で一番笑ったのは、おこんの関前藩行きが決まったことを受けての今津屋の吉右衛門と由蔵の会話。今津屋の体面もあると言いだし、多くの荷物を持ち込もうとする。それをおこんが断ると、おこんの荷物のために今津屋で千石船を用意する、とまで言い出す。

 何作か前、豊後関前藩が船1隻の都合をつけるのに大枚をはたす、という話があったが、それを奉公人1人のためにしようとする今津屋の心意気が可笑しい。

 なぜか2人に同行することになった辰平の存在も今後ポイントになりそう。次作ではいよいよ豊後関前藩での話が展開か。正徳丸の働きで借金返済にメドのついた藩でまた黒い影が動きだしているという布石もある。20作を超えるが、まだまだ話は展開していきそう。