更衣ノ鷹 上 居眠り磐音江戸双紙 佐伯泰英

●更衣ノ鷹 上 居眠り磐音江戸双紙 佐伯泰英

 磐音シリーズ第31作。季節は冬。丸目高継身罷りと羽根村金次郎登場、松平辰平福岡入りと国瑞西の丸解雇、平助対歌女と家基放鷹(ほうよう)、おこん勾引と羽根村金次郎失踪、羽根村黒幕橘右馬助と砂村新田からのおこん救出。

 

 今作まず驚くのは、ほんのタイトルに「上」が付いていること。ここまでのシリーズ30冊ではなかったことで、その真意がどこにあるのかを探りながら読むことになった。後述するが、それが気になり既に次巻32作も読み始めているが、なるほどね、と思わせる進行になっている。

 ポイントは、丸目の身罷りとその仇討ちとして歌女がしつこく(笑 登場すること。前々作29作で磐音が丸目の左腕を斬り落としたがそれが原因となり、丸目が身罷る。あれっ?と思う展開だが、小説の中でも再三丸目はもし生きていたとしても100歳を越えるはず、とのセリフがあるため、さすがに無理があったか。しかし歌女との戦いもファンタジー路線は引き継いでいる(笑

 そして上下巻となった最大の理由は、家基暗殺が最終段階に入ったと思われること。第一弾として放鷹時の暗殺が計画される。もちろん磐音とその仲間たちが全力で阻止するが。しかし第二弾として、第4章でとうとうおこんが誘拐されてしまう。第4章5章での磐音の意気消沈ぶりは読んでいても切なくなるほどで、磐音の様子を見た周りの人間の気遣いも相当なものだった。最初は上下巻となった理由は、おこん誘拐が次巻まで続くのかと思ったが、次章で意外とあっさり解決してホッとする。

 第5章があっさりと終わるので、思わず次巻を読み始めたが、誘拐されたおこんはその時のことをはっきりと覚えておらず、ここでもファンタジー感が現れる。敵が敵だけにある意味仕方なしか。

 ストーリーとしては、尚武館のもう1人の若手辰平のその後が描かれ、磐音も訪れた福岡の街で活躍する話もあれば、前巻での小田平助登場に続き今作では道場に羽根村というちょっと曰くありげな武士が登場する。そしてその彼が、久しく出番のなかった5人目の刺客橘右馬助から依頼され磐音たちを毒殺しようとしていたことが判明する。

 30作を超え、シリーズも中盤の山場と思われる。田沼意次と磐音たちとの全面対決が近いことが予想される。上下巻となる次作がどう進むのか。大変気になるところ。