更衣ノ鷹 下 居眠り磐音江戸双紙 佐伯泰英

●更衣ノ鷹 下 居眠り磐音江戸双紙 佐伯泰英

 磐音シリーズ第32作。季節は安永8年(1779年)2月。おこん誘拐解決のお礼参りと田沼御用人道場へ、田沼意次についての調べ、家基2回目の鷹狩りと佐々木家隠し墓と料理茶屋、玲圓隠居部屋と磐音歌女との戦いの場川越へ、家基毒殺と玲圓おえい死去。

 

 珍しく巻末に著者のあとがきがあり、『「居眠り磐音」が最大の山場を迎えようとしていた』とある。前作でおこんが誘拐されるが無事救出をしたため、今作では心配をかけた仲間たちに挨拶回りをするところからスタートする。前作後半はおこんがいないため、暗い雰囲気で話が進んだ分、今作の最初は明るい滑り出しとなった。

 それでも田沼一派の攻撃の手は緩まない。さらに金兵衛からの助言を受け、磐音が田沼意次について調べ始めるが、情報が集まれば集まるほど圧倒的に不利な状況がわかって来る。絶望的な雰囲気が醸し出される中、2回目の鷹狩りが行われ緊張が走るが、何もなくあっさりと終わる。

 そこでホッとしたところへ、玲圓が磐音を誘い、隠し墓へ。さらに代々縁が続く料理茶屋へと案内する。突然登場する茶屋話に首をかしげたまま、いよいよ磐音と歌女の対決の日が迫る。そしてさらに家基3回目の鷹狩りが行われる。

 

 以前「読本」を読んだ時に、著者のインタビューの中で、家基について「時間がない」と語られていて不思議に思ったので調べ、家基は若くして亡くなっていることをその際に知った。玲圓は家基を守るために命を賭して、というセリフもあり、その時が来たらどうするんだろうとは思っていたが、まさかこんなタイミングでその時が来るとは。ここで初めて前作今作が上下巻となっている本当の理由を知った。

 このシリーズではだいたい1冊で一つの季節が過ぎていくことが決まり事になっている。しかし史実と話を合わせるためには、安永8年2月に向けての多くの出来事を記しておかなければいけなかった。そのための上下巻だった。

 それにしても衝撃的な結末だった。本を読んでいるだけでここまで心が揺さぶられたのは、若い頃以来だ。前作同様、読み終えた後、すぐに次巻を読み始めている。玲圓、おえい、家基の死は驚きだが、次巻からももっと驚くべき展開が待っている。それにしても玲圓の死の直後に、おこんの妊娠が発覚するのはなんという皮肉。