山桜

●302 山桜 2008

 磯村野江は叔母の墓参りをする。その帰り道、見事な山桜を見かけ枝を手折ろうとするが手が届かない。そこへ通りかかった武士が代わりに枝を手折ってくれ、野江の名前を呼ぶ。彼は手塚弥一郎、以前野江が見合いし断った相手だった。手塚は挨拶をし野江の元を去るが、その際今幸せかと尋ね、野江ははいと答える。

 野江は実家に寄り桜の枝を生け、母親に手塚のことを聞く。手塚は未だ結婚をしていないとのことだった。野江は弟新之助に送ってもらう。新之助は道場で手塚に稽古をつけてもらっていた。野江は手塚が剣の使い手だと聞いてお見合いを断っていたのだが、新之助は手塚が若い頃から野江のことを見て気に入っていたらしいと話す。

 新之助は野江が今の嫁ぎ先で不幸であることを知っており、実家に戻るように勧めるが、野江は新之助も年頃であり、見合い話があった時に出戻りの姉がいては不都合だろうと話す。

 野江は嫁ぎ先磯村の家に戻る。家の前で義父が借金の延滞を頼んできている客に冷たく当たっていた。義母は実家からの贈り物にケチをつけ、夕食の支度もお手伝いにさせず野江がするように言いつけていた。

 野江の夫庄左衛門は藩の実力者諏訪と酒の席にいた。そして諏訪からの金の融資を受けるべく話を進めていた。庄左衛門は父にその話をし、二人はほくそ笑む。庄左衛門は野江に昼出かけていたことで文句をつける。体を求める庄左衛門を野江は拒むのだった。野江は磯村の家では冷遇されていた。野江は使いをした帰り道、新之助から聞いた手塚が若い頃に通っていた道場の跡地を見に行く。

 藩では諏訪が上役たちに新田開拓の話をしていた。この策で石高は上がるが、農民にさらなる負担を強いるもので、3年前の不作の影響があり、この策に反対する者もいたが諏訪は新田開拓と年貢の引き上げを決定してしまう。しかし諏訪の本当の狙いは新田開拓をした豊かな農民と結託し私腹を肥やすことにあった。

 郷方廻りだった手塚は農村の田んぼを見て廻っていた。手塚は農民の娘に自分の握り飯を与える。その家は貧しく食べるものにも困る状況だった。城中でも諏訪のやり方に反対していた堀井が上役に諏訪が私腹を肥やしていることを訴えるが、証拠がないと言われてしまう。農民たちは役所に年貢の引き上げを取り下げるように訴えに行く。堀井は部下に書状を渡し、江戸にいる殿に知らせるつもりだったが、部下は諏訪の一味に殺されてしまう。手塚は郷方廻りをしている際に、以前握り飯を与えた娘とその祖母の墓を父親が作ったのを見かけ、決意をする。

 手塚は城中で諏訪とその仲間に斬りかかり、仲間は峰打ちで仕留め、諏訪を斬り捨てる。

 野江の夫庄左衛門は家に帰ってきて、諏訪の件を話す。野江は手塚の名前を聞き、手塚がどうなったかを尋ねるが、それを聞いた庄左衛門は激怒する。野江は庄左衛門の服を投げ捨ててしまう。そして義母から離縁を申し渡される。

 野江は実家に戻り平穏な生活をする。それでも野江は弟のために家を出るつもりでいた。一方手塚の処罰は4ヶ月経ってもまだ決まらなかった。野江は手塚の実家の前まで行くが、訪ねる勇気は持てなかった。野江は手塚のために御百度参りをする。

 野江は母と叔母の墓参りをする。その際、叔母はどうして結婚しなかったのかと尋ねる。叔母は結婚相手がいたが、結婚直前に亡くなったためその後結婚をしなかったのだと聞く。それを聞いた野江は叔母は自分とは違うのだと話すと、母はあなたは回り道をしているだけだ、と答える。

 春になりあの山桜の枝を手折り、野江は手塚の家を訪ねる。手塚の母は息子から野江のことは聞いていたと話し、野江を家に招き入れる。そして息子が事件を起こして以来、家を訪ねてくる者はいなくなった、あなたが初めてですと話し、それを聞いた野江は涙を流す。

 野江は手塚の母と料理を作る。手塚の処罰を決める殿が国許へ帰ってくる…

 

 ここのところ「居眠り磐音シリーズ」で衝撃を受け、TV放映していた、北大路欣也版「三屋清左衛門残日録」の最新作があまりに原作からかけ離れたドラマになっていたので衝撃を受けたので、というわけでもないが、やっぱり藤沢周平作品だろうということで、この映画を観た(初見)。

 藤沢周平の作品は8割がた読んだつもりだが、この話は知らなかった。食事の場面や下城し帰宅後の着替えの場面など実に丁寧に描かれ、静かに話は進んで行く。と思いきや、1時間経ったところで、野江と手塚の仲に進展がないままに、手塚が諏訪を斬り、捕らわれの身になってしまう。

 えっこの後どうするのさ、と思ったが、後半もしっかりと話をまとめてきた。それでも二人の仲については進展はない。野江が手塚の母と料理を作るぐらいだし、そもそも手塚の処罰も決まっていないままに映画は終わる。でもこれが藤沢周平だよなぁ。

 あえて言うなら、野江は自分の思いで嫁ぎ先と別れ、手塚の実家を訪ねたし、手塚も自分の思いで諏訪を斬り、自ら牢へ向かったし。ずっと耐える強さを持っている人間もここぞの時にはしっかりと行動する、ということかなぁ。

 田中麗奈がずっと耐える演技をしてきて、映画のラストで手塚の母(富司純子)の言葉に思わず涙する場面はそんな意味では一番の見せ場のはず。それなのにあの歌はないよなぁ。歌が悪いんじゃなくて、タイミングやボリュームがあまりに酷すぎる。ここまで丁寧に作り上げてきたものなのに、最後にやらかした感がスゴい。あぁそこが残念。