尾張ノ夏 居眠り磐音江戸双紙 佐伯泰英

尾張ノ夏 居眠り磐音江戸双紙 佐伯泰英

 磐音シリーズ第34作。季節は夏。おそめの半日休みと磐音尾州茶屋家との出会い、磐音尾張藩道場へ、陣羽織騒動と中部相右衛門との戦い、木曽美林横流し調べ、密偵救出と薩摩南郷十右衛門との戦い。

 前作で江戸から脱出し、無事佐々木家の墓参りも済ませた磐音一行が尾張にたどり着く。そこで偶然出会った尾州茶屋家と縁が出来、尾張での生活の目処が立って来る、という展開になった。まるで磐音シリーズの最初の頃、江戸に出て来たばかりの磐音が今津屋と知り合った時のような展開で、なんだか懐かしい。ただし今回は細作の役割もする茶屋家が相手であり、磐音も江戸で名を馳せた人物であるため、今津屋と知り合った時よりも展開が早い(笑 しかも最初は双方で騙し合い?のようなことになるが、結局はどちらも手にうちを明かし、さらに紀州の出である田沼一派に追われる磐音を尾張の人間が助ける、ということに。

 江戸の磐音の仲間たちが全滅の様相で、この先どう立て直しを図るかと思っていたが、紀州vs尾張の構図を使って来るとは。さすが佐伯泰英(笑 これならおこんも安心して出産できるしね(笑

 上手さついでで言うと、尾張話が中心の中、江戸の残された人々の話も描かれる。その中で三味線屋鶴吉が、田沼の女屋敷に潜り込み、そこで得たネタを磐音チームで共有する。残された仲間のこともしっかりと使う佐伯さんの上手さ。

 蛇足ながら驚いた言葉をひとつ。最終章で薩摩藩士との戦いをするが、そこで出た「雲燿」という時間〜示現流の太刀の打ち込みの速さ〜を表す言葉。スゴいな示現流