姥捨ノ郷 居眠り磐音江戸双紙 佐伯泰英

●姥捨ノ郷 居眠り磐音江戸双紙 佐伯泰英

 磐音シリーズ第35作。季節は秋から冬。速水甲府へと磐音名古屋立ち退き、磐音たち彦根へ、辰平関前藩経由で高知藩へ、磐音たち姥捨の郷へ、辰平利次郎姥捨の郷へとおこん出産。

 前作で江戸から逃れた磐音たちが尾張に着き、尾張紀州の構図を受けてここでおこんの出産かと思っていたのだが、すっかり騙された(笑 あっさり1冊で安住の地は終わり、次の地へと移動する。それが高野山であり、霧子が育った雑賀衆の隠れ里。身籠のおこんが険しい山道を行く場面では、まさかおこんは出産と引き換えに死んじゃうのかとちょっとドキドキした。しかし着いてみれば、尾張よりも安住の地となる場所であることがわかる。巻末ではいよいよおこんが出産。

 この磐音一行の移動がメインだが、他にも見せ場は多かった。甲府行きを命じられた御側衆だった速水を府中宿で迎える面子の豪華なこと。その後府中宿を後にした速水が襲われそうになった際に現れる平助のカッコ良いこと。

 また数巻前に前フリはあったが、辰平が関前藩に立ち寄った後に高知藩で利次郎と出会い、そして磐音たちの元へ向かう。その高野山でのバタバタ騒ぎも少し笑ってしまった。読者は当然わかっているが、登場人物たちは高野山で目撃された怪しい2人組の正体を知らないからだ。霧子がそれに気づく場面が可笑しい。

 他にも江戸の様子も描かれ、相変わらずの武左衛門でこれまた笑ってしまう。

 おこんの出産が手近で一番の問題だっただけに、これが済んだ後、磐音たちがどう動くのか。そこへ辰平と利次郎が加わったのにも何かありそうな予感。