弓張ノ月 居眠り磐音江戸双紙 佐伯泰英

●弓張ノ月 居眠り磐音江戸双紙 佐伯泰英

 磐音シリーズ第46作。季節は引き続き春。1784年3月24日早朝の様子、同朝と弥助藪之助、意知襲撃、佐野善右衛門取り調べと意知死去、磐音の翻意。

 田沼意知が殺害される日がやってくる。その日の早朝や朝の磐音とその仲間たちの様子が淡々と描かれる。異変を感じている者にはいつもとは違う、そうでない者にはいつも通りの朝。

 そして第3章で意知が襲撃される。事件が起こった時の周りの人々の様子がリアル。江戸時代になり約200年弱が経過しているこの時、目の前で刃傷沙汰が起きてもすぐに動けず、慌てふためく姿が描かれている。作品内でも書かれているが、現場にいても何もできなかった人々が後にそれを理由に罰せられたらしい。罰する側の論理もわかるが、何もできなかった側の気持ちもよくわかる。

 大事件の裏で弥助が本作一番の活躍を見せる。佐野善右衛門が使った刀を密かに奪い磐音の元へ持って帰る。松平定信の刀での刃傷沙汰だというのを隠すため。この活躍の裏には、弥助が親子同然に思っていた同業の藪之助と戦わざるを得ない場面もある。

 だが本作の見せ場は最終章。磐音が田沼父子への仇討ちを翻意する。そこに至るには亡き養父玲圓との会話や前作での金兵衛からの言葉もあった。そして磐音は辰平と利次郎に仕官への道を取ることを勧める。

 最大の敵であった田沼父子の一方が倒れ、シリーズはどのような最後に向かっていくのか。ここに来て奈緒の登場場面も増えてきている。あと5巻、どうなるのか。