花のあと

●315 花のあと 2009

 海坂藩では毎年春、城の二の丸まで女性が入ることが許され、女性たちは花見を楽しんだ。以登も花見に出かけるが、そこで江口孫四郎に声をかけられる。以登は女性でありながら剣術が得意で、道場に行き門弟たちを皆倒すほどの腕前だった。孫四郎は道場一の門弟だったが、当日は不在だったため、一度お手合わせ願いたいと以登に話す。以登も是非と答える。家に帰った以登は父親に孫四郎との試合がしたいと願う。

 父は願いを聞き入れ、孫四郎が以登の家に来る。二人は立ち会うが、以登は孫四郎に負けてしまう。しかし以登は孫四郎が女の剣と侮らないことを喜び、恋心を抱く。孫四郎が帰った後、父は以登に孫四郎と二度と会うことはならんと言い渡す。孫四郎にも以登にも決まった相手がいるためだった。

 以登は友人の津勢と稽古事をしていた。そこで津勢から同じ稽古仲間の加世についての噂話を聞く。加世は男遊びが好きで、御用人の藤井と茶屋から出てきたところを目撃されていた。しかしその加世も親の病気のため嫁入り先が急ぎ決まり、その相手が孫四郎だと聞く。

 以登の結婚相手片桐は江戸勤めをしており、しばらく以登は会えずにいた。急な帰国の際も会えずじまいだった。

 孫四郎は加世と結婚、内藤家の入り婿となり、奏者番見習いとして勤め始める。藤井は孫四郎に目をかけていた。

 津勢も結婚が決まり、以登と二人で湯浴みに来ていた。以登は一人で散策をしている時に藤井と加世が会っているのを目撃してしまう。

 以登の結婚相手片桐が5年ぶりに国に戻って来る。父は以登に武士の妻として必要な小刀を授ける。

 冬、孫四郎は藩の書状を持って江戸に行くことを命じられる。江戸に向かう孫四郎に藤井が江戸城内でのしきたりについて教える。

 片桐は大飯食らいで、以登の家によく来て飯を食うように、時には友も連れて来て一緒に酒を飲むようになる。

 孫四郎は江戸城で書状を渡す手配をするが、手順を誤り、藩にまで迷惑をかけてしまう。その責任を取って孫四郎は自害する。

 その知らせを聞いた以登は、片桐に孫四郎が自害したことについて調べて欲しいと頼む。片桐の調査の結果、孫四郎は藤井に嵌められたこと、藤井と加世の密会にも気づいていたこと、藤井と商人たちの賄賂などについて判明する。以登はそれらの罪状を書いた手紙を藤井へ届ける。

 そして以登は藤井と対決するために出向く。そこには藤井の配下の者がいたが、以登は手傷を負いながらも彼らを倒す。そして藤井と対決、自らの刀を弾き飛ばされ窮地に陥るが、父から貰った小刀で最後は藤井を倒す。そこへ片桐が現れ、後始末は任せろと言い、以登に人目に着く前に家に戻るように話す。

 そして花見。以登は片桐を見かけ声をかける。二人は一緒に歩いて行く。

 

 藤沢周平原作。山田洋次監督が3部作を作った後、多く作られるようになったうちの1本だと思うが、全く知らなかった。

 北川景子の女剣士は頑張っていたように思う。もう一人の主役孫四郎役のバレエダンサー含め映画冒頭の会話が棒読みすぎる、と叩かれているが、時代劇は似たような配役、俳優さんが多いため、ここまで新鮮な組み合わせも良いのでは(笑 何しろ脇役が上手なベテランさんたちでがっつり固められているので問題ないように思う。

 ストーリーとしてはわかりやすい仇討ちモノ。原作が文庫本で40ページほどの短編のため、2時間弱の映画にするために冗長と思われるシーンが多いが、藤沢ワールドを上手く作り上げていると思う。女性が部屋を出入りする際の障子の開け閉めの所作など非常に丁寧に描かれている。展開としては、以登の結婚相手の片桐才助役の甲本雅裕がとても良い味を出している。一種のどんでん返しのような変貌ぶりだ。

 藤沢作品にありがちな不条理な別れ、がメインの話だが、この甲本雅裕の変貌ぶりが素晴らしく、爽やかなラストになっていると思う。藤沢作品、やっぱ良いなぁ。

 

追記)

 原作を改めて読み返してみた。話の流れは原作通りだが、以登の結婚相手片桐才助の扱いは映画とは大きく異なる。ラストの藤井との果し合いの後始末、原作では以登が言ったことを才助が手助けする、という形であり、映画ほど才助は良い人には描かれていなかった。さすが藤沢作品、と書いたが、この部分は映画オリジナルだったようだ。もちろんこの方が観終わったこちらには心地良いのは言うまでもない。