声なき蟬 上 空也十番勝負 青春篇 佐伯泰英

●声なき蟬 上 空也十番勝負 青春篇 佐伯泰英

 寛政7年1795年夏、空也死去の知らせが磐音おこんの元にくる。

 空也薩摩藩へ入るため薩摩藩国境近辺を歩いていて、宮原村の3人(新左衛門、こう、次郎助)と出会う。3人が国境を守る外城衆徒に殺されたため、宮原村へ知らせに。そこで帯刀、おゆうと出会う。空也は3人の仇討ちを誓うが、外城衆徒の警戒を避けるため、3ヶ月後に3人の遺体を引き取りに行くことを帯刀と約束する。

 関前藩にいる霧子は空也のことを心配し、薩摩藩周辺に探しに出かける。

 空也は帯刀の家に迷惑がかかることを恐れ、家を出る。3ヶ月間国境近辺で稽古を続けつつ、外城衆徒の情報を集める。

 3ヶ月後、空也は帯刀らと共に遺体を探しに出かけ、新左衛門の妻の実家である杉邨家を訪ねる。その際、飫肥藩の道場を訪ね伊東武南と出会う。空也らは外城衆徒と戦うも、3人の遺体を引き取ることに成功、しかし空也は帯刀らと別れ、光吉の案内で薩摩入りを目指す。

 空也は石卒塔婆で21日間の願掛けを行う。その願掛けの最終日、空也は外城衆徒たちと戦い勝利するが、滝壺に落ちてしまう。それを霧子は目撃していた。そして霧子は磐音にそれを知らせに行く。

 

 

 長かった磐音シリーズは終わったが、その息子空也を主人公にした新シリーズが始まった。すぐに読み始めるか、しばらく開けるか迷ったが、やっぱり読んでしまった(笑

 物語は空也の死去の知らせで始まる。新シリーズでいきなり主人公の死の知らせ、と驚いたが、シリーズ名にその名を冠している主人公が死ぬわけはなく(笑 、これはちょっとやりすぎな感じがする。しかし読んでみると、それだけ当時の薩摩藩への入国は困難なものだったということがわかり納得。

 磐音シリーズが冒頭の藩騒動後の磐音の江戸暮らしが平和裡に進んだことに比べると、空也シリーズは空也の願望である薩摩藩での修行そのものが大変厳しい状況であり、既に関係した者が3名死亡するという事態に陥っている(磐音シリーズも冒頭で3人の友を亡くしているが…)。波乱万丈な幕開け、といったところか。

 空也薩摩藩入りを目指し、その国境近辺をうろつくが、いかんせん南九州の土地勘が全くないので、読んでいてその辺りは辛かった。このブログを書くにあたり、ネットで調べていたら、発行元の双葉社がこのような「地図」を紹介しており、だったら本にもつけといてよ、と。

 次巻で空也がどのように復活するのか楽しみだが、シリーズ最初からなぜ上下巻となっているのかもちょっとよくわからない。この後も空也はまだ口が利けない、念願のために苦労する「声なき蝉」の状態が続く、ということだろうか。