本所おけら長屋 三 畠山健二

●本所おけら長屋 三 畠山健二

 「うたかた」

 八五郎と為三郎は端唄の師匠お園に騙される。魚屋辰次の得意先原島太夫は三味線の神様と呼ばれていた。原島は知り合い吉村が亡くなるとその娘お歌を引き取って一緒に暮らしていた。八五郎は為三郎と端唄勝負をすることになり、原島家に出入りする笹川に端唄を習うことに。辰次も誘われ、お歌に惚れている辰次は一緒に習うことにする。万松は辰次のためにお歌の前で一芝居打つが、それが原因でお歌は惚れていた笹川に告白し結婚することに。その結婚式で辰次は端唄を披露する。

 「こばなれ」

 島田の元へ福原伴蔵の妻卯乃が息子龍之介を連れてきて剣術指南を依頼する。しかし龍之介は剣術に身が入らない。島田は伴蔵と知り合う。卯乃は龍之介のことでまた島田の元へ来るが、その場で龍之介は噺家になりたいと言い出す。卯乃は驚くが、江戸家老工藤が龍之介の落語を聞きたがる。そして龍之介の落語が披露され卯乃もそれを聞くことに…

 「あいえん」

 八五郎の娘お糸は遅めに裁縫を習っていたが、古着の中から手紙を見つける。「おりん」と「しょうすけ」の手紙だった。お糸は二人を探し始める。手紙に描いてあった似顔絵から絵師を探すが、その途中文七とぶつかり怪我を負ってしまう。文七は八五郎の師匠文蔵の甥で後継だった。怪我をしたお糸の代わりに文七は手紙の主を探し見つける。

 「ふろしき」

 久蔵とお梅の子供が生まれ、亀吉と名付けられる。長屋の住民は端切を持ち寄り布団を作り祝いとする。北陸の前川藩朱鷺姫が男の子を産んだお祝いに祝いの品を買い上げるという御触れが出る。子供が生まれた久蔵はアイデアを出し羽織を作ろうとするが、同業の多津美屋達治の案が気になり仕方がない。久蔵は多津美屋に行き達治の案を盗もうとしたところを見つかってしまう。久蔵はお祝いの品を作ることを断念するが、島田は久蔵の店に行き、端切れの布団を提案する。

 「てておや」

 小田原宿の居酒屋を営んでいたお軽が亡くなり娘のお孝は遺品から手紙を見つける。それはお軽が書いたもので、お孝の父親が徳兵衛だと記されていた。その頃大家徳兵衛は居酒屋で薬種問屋木田家宗右衛門と知り合う。彼は吝いことで有名だったが料亭でどんちゃん騒ぎをすることに。万松は行き倒れの女お孝を見つけ、聖庵堂に連れて行きお満に診てもらう。お孝は徳兵衛を探しに江戸に来ていた。万松はお孝を長屋に連れて行く。お孝は島田に全てを告白する。木田屋は徳兵衛の家に来て不肖の娘のことを話す。島田はお孝と徳兵衛を引き合わせ、二人はしばらく一緒に暮らすことに。木田屋の娘がお満だとわかり、二人を引き合わせることになるが…

 

 シリーズ3作目。前作が6作品だったが、今作は5作品。一つの小説がちょっと長めになった。

 恋物語と言えるのが「うたかた」「あいえん」、親子の話を描いたものが「こばなれ」「ふろしき」「てておや」。親子の話は人情話、よくあるパターンとも言えるが、一捻りがしっかりとされている。

 「あいえん」はお糸の恋心を描いたもので、この先の展開が楽しみ。

 「うたかた」は今作の中で最も良かったと思う。まるで「寅さん」。この作品を読んで、寅さんの恋が成就しなかったのは、周りに万松コンビのような人たちがいなかったからかも、と思ってしまった。「うたかた」でも辰次の恋は残念ながら実らないが、ラストがカッコイイ。ちょっと痺れてしまった(笑