本所おけら長屋 四 畠山健二

●本所おけら長屋 四 畠山健二

  「おいてけ」

 おいてけ堀の奇談が噂に。万松は河童を捕まえ大儲けしようと企む。江島屋の手代常吉は店の娘お紺に惚れていた。しかしお紺は与三郎という男に騙されていた。常吉はお紺にそれを話す、お紺は与三郎に本当の事を尋ねるが与三郎は開き直りお紺を襲う。抵抗したお紺は誤って与三郎を殺してしまう。後をつけていた常吉は死体を隠すが、河童を捕まえようとしていた万松がそれを見つける。死体を調べた同心伊勢平五郎は不審を抱き捜査を始める。常吉番所に自首する。それを知ったお紺は自殺しようとするが、それを島田に止められる。お紺から事情を聞いた島田は…

 「あかいと」

 万造は食あたりで聖庵堂に運び込まれ、お満に診てもらう。そこに八五郎も来る。普請場で文七が怪我をしたためだった。文七は普請場である橘屋の娘お鶴を庇って怪我をしたのだった。お鶴は文七の看病をし始める。文七に恋心を抱くお糸も父から話を聞き聖庵堂に行くが、お鶴に圧倒され帰ってしまう。万造はお糸の気持ちを知り、お染に話をする。お染は自分の若い頃の恋話をお糸にする。八五郎は普請場で橘屋の主人から娘お鶴の思いを聞かされ、聖庵堂にいる文七に話をする。しかし文七ははっきりと断りを入れる。万造、お染、お満がお糸と文七のために動く。そしてお鶴がお糸の元を訪れ正直な気持ちを話す。お糸は聖庵堂へ行き文七と話をする…

 「すりきず」

 お駒は以前スリをしていたが、島田に現場を抑えられ、スリから足を洗い、大黒屋に奉公をしていた。大黒屋の主人幸蔵は善人として有名だったが、お駒は違和感を覚えており、島田にその事を話す。島田は盗賊改方与力根本にその事を伝える。お駒はスリの頭お露と出会い、大黒屋の番頭善六について調べて欲しいと頼まれる。根本は善六が大工の勝次と会っている事を突き止める。お露は以前配下の女スリお芳が伊八という男に騙されスリで稼いだ金を奪われていた。伊八は大黒屋の主人、幸蔵だった。お駒とお露は幸蔵たちが手に入れた盗みのための図面をスリ、狙い先の店を調べる。島田はお露を訪ね全てを打ち明け、協力を求める。幸蔵たちが狙っていたのは、東州屋とわかる。それは島田がお駒を捕まえた時のスられた相手だった。店に押し入る幸蔵たちを捕まえたお露、お駒に東州屋で雇おうという話が持ちかけられる…

 「よいよい」

 若芽錦之介は徳島藩の名家の嫡男だったが酒癖が悪く、江戸に逃げてきていた。北乃堂の娘お雅は思い込みの激しい19歳。辻占に運命の人と出会うと言われる。そのお雅と錦之介が出会い、お雅は運命の人だと思い込む。剣に覚えのある錦之介は島田の道場誠剣塾に出向き島田と稽古をしその人柄に惚れ込む。錦之介は長屋に島田を訪ねるが留守だったため万松と酒を飲むことに。そして大騒ぎに。翌日錦之介が家に戻るとそこにはお雅が待っていた。そこに徳島藩の寺田がやってきて、藩の一大事のため錦之介に帰って来るように伝える。錦之介は断るが、寺田は占いで決めてもらおうと言い出す。占いの結果を見て錦之介は徳島に帰る事を決めるが、送別の場で酒を飲んでしまい、それを見たお雅は呆れてしまう。

 「あやかり」

 松吉が野良猫を飼い始める。長屋の皆に迷惑がかかり始めるが、松吉は気にしない。万造が猫を飼い続けるためにも皆と仲良くやるよう助言をし、松吉も受け入れた時、猫がいなくなった。近所の猫もいなくなっており、原因は金持ちたちの間である毛の色をした猫を飼うのが流行した事によるものらしいとわかる。大黒長屋の磯七は女房の病と子沢山が理由でお金に困っていた。近所のお熊婆さんが磯七に猫を捕まえると金になる事を教える。万造の調べでその事を知った松吉は磯七に会いに行き話を聞く。事情を知った松吉は磯七を許し、お熊婆さんに猫の売り先を調べてもらうことに。旗本が買い手だとわかった万造は、長屋裏の戯作者井川香月に相談する。そして瓦版に嘘の話を書かせ、旗本が猫を手放すよう仕向ける…

 

 前作に続き今作も5編。

 「おいてけ」は事件解決、「あかいと」は恋話、「すりきず」も事件解決話だが以前登場した女スリの素性が明らかになる。「よいよい」は滑稽話、「あやかり」は人情話、と言ったところか。

 「おいてけ」の最後に出て来る奉行の裁き、「すりきず」の事件のラストも話としてのラストもイカしている。「あやかり」は猫が主役の話を思いきや、意外な形でおけら長屋とお熊婆さんの粋な対決となっていて、そのオチも見事。

 「よいよい」が一番落語に向いた話か。錦之介が酔って大騒ぎになる場面はまさに落語向きだと思えるし、お雅の思い込みに振り回される錦之介も絵になりそう。

 「あかいと」は前作で恋心に火のついたお糸の話。思いの相手が怪我をする、というベタな話と思いきや、その原因となった娘がライバルになってしまう。しかしそこはおけら長屋、万造やお染が大活躍。聖庵堂のお満まで巻き込んでの話となる。途中にあったが、万造とお満の二人もどうにかなっていきそうな予感もある(笑

 それにしてもまだまだパワーが落ちていないのが凄い。