居酒屋兆治

●325 居酒屋兆治 1983

 英治は函館で居酒屋兆治を妻茂子と営む。子供の頃野球で投手をしていたが肩を壊しプロの道を諦め、勤めた造船会社はリストラのため総務課に異動するよう言われ辞めていた。

 英治は幼馴染さよと愛し合っていたがお互いの貧しさを理由に別れていた。さよは牧場経営をしている神谷と結婚、子供も2人いたが、まだ英治のことを忘れられないでいた。そのためさよは家でを繰り返していたがまた戻ってくる。しかし家に放火、牧場は焼け落ち、さよは姿を消してしまう。放火を疑われ、警察も動き出していた。

 さよは英治の店に現れ、あなたがいけないのよ、と言い残し姿を消す。しかしさよは事あるごとに英治に電話をかけてきていた。

 英治の店の客で学校の先輩河原は英治の店が立ち退き要求されていることを知り、知り合いの土地を借りる手はずを整えるが、英治はその場所が居酒屋を始めるに当たって教えを受けた師匠の店に近いことから断っていた。その河原が英治が出先でさよから電話を受けていたことを目撃、英治にさよの居場所を問いただすが、英治は知らないと答えるだけだった。

 店の客のエピソード。

 井上造船社長井上、造船所社長だが歌好きが高じてカラオケ設備を購入、会社を潰してしまう。英治とバッテリを組んでいた岩下が井上を殴り怪我させてしまう。

 小学校校長相葉、教え子であり孤児だった女性と結婚、36歳年下だったため周りから色々と言われるが、本人は年の差のある結婚が本当に幸せか、と英治たちに告白する。

 さよはススキノのキャバレで働き始め、英治が勤めていた造船所で働く越智と知り合い、越智が英治のことを知っているため英治のことを聞きたがり、それがきっかけで深い仲になってしまう。

 店の客のエピソード。

 居酒屋の客秋本は妻を突然亡くす。線香をあげに行った英治夫妻の前で秋本は一人で寝ることの寂しさを訴える。

 その後店に来た河原が秋本の妻が亡くなった時のことをネタに秋本を非難する。店を出た河原を英治は追いかけそんなことを言うのを辞めてほしいと願うが、河原は聞き入れず、英治は河原を殴って負傷させてしまい、警察に捕まってしまう。英治は暴行事件以外に、さよのことであらぬ疑いまでかけられていることを知る。

 釈放された英治、岩下たちが出所祝い?として店に来てくれるが、その場でさよをススキノで見かけたという噂を耳にし、札幌へさよを探しに行く。その頃さよは酒の飲み過ぎで体を壊し吐血していた。

 札幌に着いた英治はガンで入院している元上司を病院に見舞う。その場で越智と出会う。そして越智からさよの話を聞き、居場所を知りさよの元へ。しかしさよは既に絶命しており、英治はさよを抱きしめ、持っていた写真を見る。さよの葬式が行われる。店に戻った英治は妻に詫び、一人さよとの社員を焼き、酒を飲む。

 

 ジョン・ウェインに続き、久しぶりに健さんの映画を観た。昔一度見ているはずだが、覚えているのは仏壇の前で小松政夫が語る場面だけ。しかしこの場面はやはりインパクトがある。

 映画はまさに健さんのための映画。寡黙でありながら筋は通し、そして耐える男。任侠モノから路線変更し、山田洋次作品も傑作だが、「健さんらしさ」ではこれが一番ではないか。ラストの健さんが歌う主題歌で最後は痺れてしまう。

 相手役の大原麗子さんも綺麗の一言。二人ともに台詞なしでアップのまま演技するシーンがあるが、画になり過ぎている。この二人が他作品でも共演されてるのは今回初めて知った。観てみたいなぁ。

 映画は、居酒屋主人とその常連客のエピソードとなるため、話があちこち行って散漫になっている感じは否めない。演じているのも俳優さんばかりでないのも居酒屋の常連客っぽく、仕方なしか。しかし幼馴染さよとの関わりが前半では語られず、ちょっとしたミステリー仕立てになっているため、後半一気に全貌が見えてくる進行は良いと思う。耐えていた英治が河原を殴るカタルシスもあり、それきっかけでさよを探しに行くことになる展開も申し分ない。

 40年ほど前の映画だが、脇役にすごい人たちが揃っている。しかしその多くが既に鬼籍に入っているのは悲しいばかり。

 ゴチャゴチャ書いたが、あぁ健さんやっぱりカッコ良い。それに尽きる。