武士の賦 居眠り磐音 佐伯泰英

●武士の賦 居眠り磐音 佐伯泰英

 磐音シリーズスピンオフ2作目。

 「初恋の夏」

 利次郎の幼い頃の武勇伝。藩邸ないに忍び込み女中春乃と藩主豊能敷と出会う。この事が親にばれて、利次郎は祖父の屋敷で暮らすことになる。そして10歳の夏、春乃が嫁に行く事を知る。

 「霧子の仇」

 姥捨の里で暮らす幼い頃の霧子の様子と利次郎が村上道場から佐々木道場へ移るまでを描く。

 霧子は雑賀泰造に拐かされ里に連れてこられた。ある日霧子は実の父母が泰造に殺された事を知る。仇を討つため、霧子は泰造と行動をともにするため、里を捨てる。

 「出会いのとき」

 日光社参での霧子と磐音たちとの出会い。佐々木道場に連れてこられた霧子が辰平や利次郎と出会う。

 「平林寺代参」「霧子への想い」

 玲圓の養子となると決めた磐音は玲圓に頼まれ平林寺に代参することに。玲圓は磐音とおこんで行くように言うが、磐音は霧子、辰平、利次郎を連れて行く事を思いつく。しかし代参だけが目的ではなく、川越藩を手助けし、川越で賭場を開いていた木場一派を捕らえる事が真の目的だった。

 

 著者があとがきで、「不思議な感情に捉われた」と書いているが、読者である私も一緒だった。スピンオフの前作「奈緒と磐音」では、シリーズに入る前の二人の姿が描かれた。シリーズで結婚の約束をしていたことは十分承知であるので、その前の二人の仲睦ましい姿が描かれるのは当然でなんの違和感もなかった。

 しかし本作は2話までがシリーズ前のエピソードであったのに対し、3話以降はシリーズ中の別エピソードとなっている。霧子って泰造に親を殺されていた、なんてシリーズのどこかで話すか、ほのめかしていたっけ?と思ってしまった。

 4話5話はまたもや磐音たちの剣が冴える展開となる。それは良いのだが、おこんが啖呵を切るシーンがあり、これは本編結婚前のおこんの見せ場として別にあったよなぁと考えてしまう。

 つまり前作スピンオフと異なり、シリーズと平行した時期のエピソードなのでちょっと違和感を覚えた、ということ。変なたとえだが、ホームズ物で言う、出来の良いパスティーシュを読んでいるような感じと言えば良いだろうか。

 それでも楽しく読めたことは間違いない。まだスピンオフ作品はあるみたい。きっと読むことになるだろう(笑