本所おけら長屋 五 畠山健二

●本所おけら長屋 五 畠山健二

 「ねのこく」

 八五郎がだるま長屋の栄太郎との幽霊屋敷での勝負を持ち込んで来る。居酒屋で争っていた二人に高田屋の隠居武兵衛が持ちかけた話だった。おけら長屋は八五郎と万松にバカの金太を加えた4名で勝負に臨むが、本当の幽霊が出てきて大騒ぎとなる。

 幽霊が毎晩同じ時刻に現れることを気にした島田と万松は、翌日口寄せができるという拝み屋のババアのところへ行き、幽霊となった女の霊を呼び出し話をする。女は千早といい12年前に屋敷で奉公している時に主人と深い仲になり妊娠、それを知った奥方に拷問を受け流産、千早も首を括ったのだった。

 万松は高田屋に上手く言って金を出させ、千早の墓と地蔵をたて、その場で宴会をし二人を供養することに。そして子の刻となり…

 「そめさし」

 お染がシャレで行った、名前を刺繍として縫い付けるそめさしを知った小間物屋伊佐吉はお染にそめさしを商売にしないかと持ちかける。それをきっかけに伊佐吉は長屋を訪ねて来るようになる。長屋の女たちは、色男の伊佐吉を放っておかなかった。

 伊佐吉は駿河屋の娘お好と恋仲だったが、お好は親が縁談を持ち込んだことで伊佐吉の家に逃げ込んでいた。また伊佐吉も奉公先だった鶴屋から若くして独立させてもらっていたが、その主人藤右衛門から娘お千代をもらってくれないかと持ちかけられる。

 万松は駿河屋の娘が行方不明となり見つけたら3両という話を聞き、お好を見つけ出す。その相手が伊佐吉だと知り、万松はお染に居場所を知らせることを禁じられる。二人のために何とかしようと長屋の面々が知恵をしぼる。しかし伊佐吉から告げられた話は意外な結末だった…

 「はるこい」

 島田の元の奉公先黒石藩の江戸家老工藤から島田にお呼びがかかる。黒石藩の尾形清八郎の仕事ぶりがなっておらず、その理由が万松に吉原に連れ込まれたからだと聞かされる。

 万松が居酒屋で知り合った清八郎を吉原に連れて行くが、そこで清八郎が会った女郎は、清八郎の実家で使っていた下男佐助の娘お葉だった。お葉は米の不作で江戸に売られてきたのだった。

 徒目付として清八郎は藩主高宗に全てを告白する、高宗は清八郎に吉原に行くことになった理由を尋ね、万松が絡んでいることを知る。高宗はお忍びで長屋の島田を訪ね、吉原に行きお葉と会うことに。お葉の話を聞いた高宗は涙を流す。そして清八郎を藩に連れて帰ることを工藤に告げる。

 「まさゆめ」

 久蔵は金の入った財布を拾う夢を見る。夢の中で財布を届けると持ち主から感謝され、奉公先の主人からも褒められる。そしてそれが現実となった。次に火事の夢を見たので、お梅に用心するよう話すとこれまた現実に。

 次に見た夢は富くじに当たる夢だった。夢が現実になると思った久蔵は富くじを買う。そして開札の前日、夢に大黒様が現れる。開札当日、久蔵は湯島天神の境内に行き、開札の様子を伺う。富くじが当たると思っている久蔵は色々な妄想をする。そして一等の当たりくじ番号が告げられるが…

 「わけあり」

 45年前勝浦村の農家の娘お熊のことが語られる。貧しかった家に生まれたお熊は本家の同じ歳の娘お玉が沼に落ち死んでしまったことを誰にも告げずにいた。

 居酒屋で飲む万松の元にお熊婆さんが現れ、長屋のお奈津が金を借りに来たことを話す。お奈津は今の亭主喜四郎と一緒になる前、奉公先播磨屋の息子角太郎に襲われ身ごもり出産をした。しかし子供直吉は姉お京の子供として育ててもらうことに。

 お奈津の元へそのお京からの使いが来る。お京の夫市助が病で亡くなり、仲間の借金のため、お京は家を追い出されることになる、と。お京のため、直吉のため、お奈津はお熊婆さんに金を借りに行ったのだったが、見ず知らずだったため断られていた。

 事情を知った長屋の女衆がお奈津に金を借りようとした理由を聞く。そして長屋で相談、万松が一緒に暮らすことで一部屋空け、お京一家を長屋に住ませることに。

 島田と万松はお熊婆さんに事情を報告する。お京一家が長屋に馴染んだ頃、お奈津は街中で播磨屋の番頭吉五郎から声をかけられる。角太郎が後を継いだが子供ができないため、直吉を跡取りとして播磨屋に迎え入れたい、という話だった。

 お奈津の亭主喜四郎はお奈津が男と会っていたことを見ており、事情を問いただす。お奈津は全てを告白する。長屋の住民たちも全てを知ることとなる。そして喜四郎が直吉を自分たちの子供として受け入れようとするが、それを直吉が聞いてしまい、長屋から飛び出してしまう。皆で直吉を探すが、川に飛び込んだ直吉を助けたのはお熊婆さんだった…

 

 前と同じ5作。前作同様気楽に読んでいたら、見事にしっぺ返しを食らった感じ。

 どの話も結末を予想したくなる話だったが、こちらの予想を裏切る結末ばかり。

 「ねのこく」は幽霊話。落語が得意とするところだが、いつもの面々が幽霊と話をする(!)ことになる。話としては人情話か。

 「そめさし」はおけら長屋得意の事件解決話、かと思いきや。最後の伊佐吉の告白で驚かされる。さらに、最後の最後、お染の取る行動にも。

 「はるこい」は人情話と思いきや、この手のドラマ、小説の結末をあざ笑うかのような現実を見せつける。それでも、女郎となったお葉が高宗にかける言葉が優しく泣けてくる。この話が本作のベストと思ったのだが…

 「まさゆめ」はある意味夢オチ話。結末を予想しないではなかったが、おけら長屋のことだから、ひょっとするとひょっとして…の方を予想してしまった(笑

 

 そして「わけあり」。これは見事な一本。これまでのシリーズの中でも最高傑作ではないだろうか。

 冒頭昔の貧しい農家の娘の話が語られる。しかしすぐにそれが、例のお熊婆さんの幼少の頃のことだとわかる。いきなりの種明かしに「?」と思うが、話は長屋のお奈津のことになる。お奈津の悲しい過去。そして現在に起こる悲劇。ここまではおけら長屋パワーで解決するが、さらにお奈津の悲しい過去が現在に覆いかぶさってくる。動揺する長屋の住民、そして直吉。ラスト、話がバンバンと流れ、一気に終わりを迎える。そして冒頭でのお熊婆さんの話がここに繋がる。

 いやぁ見事。これ一本でドラマや映画になりそう。ただ、お熊婆さんは前作4の「あやかり」で登場しており、既に長屋の住民とは知り合いだというのもポイントだからなぁ。こんな傑作を読むと次の作品も期待しちゃうなぁ