本所おけら長屋 六 畠山健二

●本所おけら長屋 六 畠山健二

 「しおあじ

 弁天長屋に住むお恵をお信が訪ねる。お恵から夫又造の様子がおかしいと聞かされお信はある日又造が女をつけているのを見かける。又造の跡をつけると彼が追っていたのはおけら長屋に住むお染だとわかる。お信の奉公先の隣におけら長屋に住むお里がいるため、お信はお里に相談を持ちかける。お里は万松、島田に相談する。

 ある日おけら長屋を又造が見にきていた。万松が声をかけると、又造はお染が良い女だったからと言い訳をし去って行く。島田は彼の後を追い、本当の事情を尋ねる。

 又造は幼い頃お染と同じ長屋で育った。貧乏だった彼に握り飯を差し入れたくれたのがお染(当時はお峯)だった。島田は又造をお染に引きあわせる。又造はその頃住んでいた長屋が火事になった際の事情を話し詫びるが、お染はそれは幼い又造が見た夢だったんだと話す。

 「ゆめとき」

 おけら長屋では花見に行くことに。皆が喜ぶが、万造は花見には行かないつもりだった。彼は捨て子で、花見の頃に捨てられたのが理由だった。

 万造は生まれ育った長屋に遊びに行く。そこで育ての親源吉の隣に住んでいた成松が先月亡くなり、その遺品の中にあった書付をもらう。それは源吉と妻お沢の間に出来た子供お秋の出生を記したものだった。

 万造は島田に事情を説明する。その万造が源吉の若い頃の夢を見る。源吉とお沢との出会いから結婚、お秋が生まれるが麻疹で死んでしまう、兄弟子彦八から赤ん坊お友を預かる、しかしお沢はお秋が亡くなったことを悔やみ自害してしまう、独り身となった源吉はお秋を山崎町の長屋に捨ててしまう…

 夢ではあったが、それを聞いた島田は源吉が万造を育てた理由を語る。それを聞き万造は皆と一緒に花見に行くことにする。

 「とうなす」

 長屋の金太に結婚話が舞い込む。万松はバカにしていたが、金太を訪ねて清楚な若い女が訪ねてくる。それを見た万松、辰次はこの女が金太の嫁となる女だと勘違いし、大家に一芝居打ち、自分たちがその女と結婚しようとする。しかしその女は、金太が街中で助けた老人の孫だった。金太の結婚相手が長屋を訪ねてくる。3人は我先にとその娘に会いに行くが…

 「やぶへび」

 文七とお糸の結婚が決まる。しかし文七とお糸の父八五郎の師匠である文蔵親方が又も自らの引退を宣言、結婚式と引退式を一緒にし盛大にやると言い出す。八五郎は自分の娘の式だからとお金を出さなくては男が立たないと言い出すが、お金などなかった。万松がそのことを知り、あちこちに借金をして博打でお金を作ろうと計画する。しかし見事に博打で負けてしまう。一方お糸の母お里も親の形見の根付をお糸のために売ってお金にしていた。

 大家徳兵衛を息子の由兵衛が訪ねてくる。彼は医学と本草学を学んでいたが、西国で流行っている病の薬を作りに筑波に行こうとしていた。その頃、聖庵堂でも流行病の患者が出た。

 万松が博打で負けた話が長屋に伝わる。大家が万造に事情を聞くが、そこへ木田屋宗右衛門が訪ねてくる。宗右衛門の娘で、聖庵堂の女医者お満が流行病にかかったとのことだった。それを聞いた万造は宗右衛門から金を借り、筑波に向かう。

 「だきざる」

 万造が由兵衛を連れて聖庵堂に戻ってくる。薬が効いてお満は無事助かる。無断で奉公先の米問屋石川屋を休んだ万造はクビになる。しかし宗右衛門が石川屋で一芝居打ち、万造は無事奉公に復帰、さらに番頭に文句をつけ、3両の金を手にし、借金を全て返すことに。万造はその金でお里の根付も買い戻し、お里に返す。

 お糸が嫁ぐ日、お糸の着物の帯にはその根付がぶら下がっていた。

 

 前作最後の「わけあり」があまりに傑作だったため、本作がどうなるかと思って読み始めたが…

 「しおあじ」は人情話。おけら長屋とは無縁のところから話がスタートするので、さすがにネタが尽きてきたか、と思いきや、話はおけら長屋に戻ってくる。そして又造の昔話。貧乏話には一番弱い。握り飯の下りで又泣かされてしまった(笑

 「ゆめとき」も人情話か。いつもは底抜けに明るい万造の暗い過去を明らかにする。「夢」という形を借りて語られる過去。本当かどうかは関係なし。話の展開が上手い。

 「とうなす」は見事なバカ話。バカな金太に結婚話、バカにしていたはずの3人が見事にオチをつけてくれる。この展開はまさに落語。久々におけら長屋で大笑い。

 「やぶへび」「だきざる」はこのシリーズ初の二話完結もの。お糸の結婚話から万松の無謀な博打へと展開、案の定負けて素寒貧に(笑 どうオチをつけるのかと思っていたら、流行病で急展開。現実の世の中がコロナで参っているまさに今を彷彿とさせる。

 そして万造の機敏な動き。ここまでのシリーズで、万造とお満の仲を匂わせてきたのは、このための長い伏線だったのか、と思わせるほどの展開。

 さらにラストのお糸の結婚式。5話目のタイトルが「だきざる」である理由がここで判明する。前作の「わけあり」は悲しいラストで涙したが、本作のラストは嬉しい涙で幕。見事。

 前作に続き、傑作が続いた。これは次も当然読むでしょ(笑