本所おけら長屋 七 畠山健二

●本所おけら長屋 七 畠山健二

 「ねずみや」

 江戸の街にねずみ小僧が現れ、万松は拍手喝采。しかし島田は火盗改などは面目を潰されていると心配する。

 おけら長屋に今助とお涼の兄妹がお吉婆さんの芋売りにやってくる。長屋の住民は二人を贔屓にするが、お涼が左足に怪我をしているのを目撃する。

 島田は火盗改の与力根本からねずみ小僧が足に怪我をしているという情報を仕入れて来て万松に話をする。万松はお涼が怪我をしていたことを思い出し島田に話をする。

 今助とお涼は大盗賊暁の滝右衛門の子供だったが、火盗改に捕まり獄門台へ送られた。その時二人は滝右衛門の子分丈八のいる江ノ島の旅籠に預けられていた。丈八の元から江戸へ帰った二人は滝右衛門の兄貴分兵助から、滝右衛門を売ったのは丈八だと聞かされ復讐を誓う。二人は丈八が盗んだ金を奪うために盗っ人としての腕を磨くため、ねずみ小僧となったのだった。

 島田は二人を見に行く。その時二人は与太者に絡まれるがお涼の機敏な動きで難を逃れる。一方お染はお涼の見舞いに二人が住む金時長屋に行った際にうなされていたお涼がねずみ小僧の名前を出したことを島田たちに伝える。

 島田は二人に事情を聞きに行くが、今助はしらを切る。そこへお吉婆さんがやって来て昔義賊からもらった一両が入った紙包みを見せる。そこには二人の父の名が書かれていた。今助は観念し全てを告白する。島田は後のことは任せろと話す。

 二人は根本の家に行き、全てを告白する。しかし根本はねずみ小僧は既に捕まえたと話し、二人に一筆書くことを依頼する。

 後日ねずみ小僧が店仕舞いをするという瓦版が街に流れる。二人はお吉婆さんから芋の煮方を教えてもらい、店の名をねずみ屋とすることに。

 「ひだまり」

 聖庵堂の医師聖庵は昔の夢を見る。

 彼の父は上州高根藩の藩医をしていたが、藩主の世継ぎが赤疱瘡になった際、それを治すことができず藩主に斬り殺された。家を追われた聖庵と母は江戸へ。父の友人の医師舟天が開いている舟楽堂に行き、聖庵は舟天の弟子となり働く。そこにはお歳という若い女性も働いていた。

 舟天は金持ち相手の治療しか行わず、お歳や聖庵には給金を払わなかった。ある日聖庵の母が病気になる。また舟楽堂近所に住むお采という娘が赤疱瘡にかかる。お采はお歳が可愛がっていて娘だったが、お采の家は貧しかったため、舟天はお采の治療をしようとはしなかった。聖庵は不眠不休でお采の治療をする。そしてお采は完治する。そんな中聖庵の母が亡くなってしまう。

 お歳は聖庵の母が亡くなる前に、聖庵のことを頼まれていた。母の願いは聖庵を長崎で勉強させることだったが、母の貯めたお金では足りなかった。お歳は覚悟を決め、身を売りお金を作ることに。その金を聖庵は裏の長屋のお重から受け取る。お歳のことを聞き出そうとする聖庵だったが、お重はお歳の願いを聞き入れ立派な医者になってほしいと話す。

 2年の長崎留学を終えた聖庵は江戸に戻ってくるが、お歳は病で死の床にいた。

 「しらさぎ

 お里が万松に話を持ってくる。以前お里の奉公する成戸屋に来た本家志摩屋の娘お静が白鷺一座の芝居にハマっているとのこと、その芝居にお静を出すことはできないか、という相談だった。

 万松は白鷺太夫に会いに行き事情を説明する。太夫は了解してくれるが、万松に頼みごとがあると話す。太夫は14年前の大火事で両親を失い、妹と離れ離れになってしまっていたが、半年前に知り合いが池之端で妹お浜に似た娘を見たと聞かされたとのこと。お浜を探してほしいという依頼だった。

 万松は不忍池に行き団子屋で話を聞く。するとお浜と思われる娘が悪ガキ2人と組んでこの界隈で悪さをしていることを聞き出す。万松は大夫に報告に行く。太夫は来月からの芝居をお浜に見せたいと話す。

 話を聞いた島田は南町奉行所の同心伊勢に事情を話す。

 万松は長屋の久蔵とお咲を囮にしてお浜たちを引っ掛ける芝居を打つ。そして賭けをして小浜を白鷺一座の芝居に連れて行くことに。

 太夫とお浜のことを描いた芝居を観たお浜は太夫と仲直りをする。そして一座とともに江戸を立つことに。その時そこへお静がやって来て、一緒に行きたいと話す。

 「おしろい」

 小間物問屋永美堂の主人円太郎には化粧をする悪癖があった。吉原の桃香楼の筑紫を贔屓にし、誰にも見られず彼女の元で化粧をするのが楽しみだった。しかし円太郎の望みは高まるばかりだった。

 居酒屋で酒を飲む万松、八五郎の元へ野幇間の一八が顔を見せる。そして金は持つので湯島の料亭足柄亭へいってほしいと頼む。ただし一人芸者を呼ぶので褒めちぎるという条件をつける。八五郎は嫌がるが、万松はタダ酒が飲めるということで大乗り気に。結局3人で足柄亭に行くことに。

 酒を飲んでいる3人の元に現れたのは芸者姿の円太郎。打ち合わせ通りに褒めようとするができず、3人は喧嘩になってしまう。それを見た円太郎は泣き始める。3人は円太郎に事情を聞く。それを聞いた万造は来月両国稲荷のお祭りの時に、永美堂主催で女形美人合戦をやることを提案する。円太郎は行司役として女形になることができる。

 美人合戦は沸きに沸き大成功をおさめる。

 「あまから」

 大家徳兵衛が娘お孝に会いに藤沢に行くことに。

 島田は道場で火盗改の根本と会う。彼は今助お涼の兄妹から聞いた丈八を捕らえに江ノ島の丈八の旅籠晴海屋を見張っていたが、丈八がなかなか尻尾を出さないということだった。島田は兄妹の家に行き事情を説明、二人に江ノ島晴海屋へ行って丈八の企みを掴んでほしいと頼む。父の仇でもある丈八を捕まえるためなら、と二人は快諾する。

 島田も江ノ島へ行き、そこで徳兵衛と遭遇、事情を説明し、徳兵衛にも協力を仰ぐ。

 お涼は丈八の部屋を天井から覗き見、次の盗みが明後日だと判明するが、狙い先がわからなかった。お涼は意を決して丈八の部屋へ忍び込むが、その時丈八が帰って来てしまい窮地に。しかし店の女中が声をかけ難を逃れることができた。

 兄妹が探った丈八の仲間の風貌から、狙い先が海鮮問屋三浦屋とわかる。根本が事情を説明、丈八たちが盗みに入るのを待つことに。そして捕り物が始まるが、丈八は逃げる。そこにいたのは兄妹だった。今助は丈八を裏山の神社に逃す。そこで全てを話すが、ちょっとした隙にお涼が捕まってしまう。絶体絶命のピンチに店の女中が丈八を刺し、兄妹は助かる。駆けつけた島田は、女中から話を聞く。彼女は兄妹の母お若だった。お若は滝右衛門の妻だったが、一度だけ不貞を働き、子供たちを置いて逃げた過去を持っていた。

 

 前作が傑作揃いでどうなるかと思った第7作。

 「ねずみや」は時代劇ではお馴染みのねずみ小僧が現れる話。その正体がおけら長屋に芋売りに来る兄妹とわかり…。ここから先は人情話。犯罪者の兄妹を島田が救う。火盗改の根本も良い味を出す。そして見事なオチ。

 「ひだまり」は少し短い話で、思い出話だが、やっぱり泣かせる。聖庵の若い頃の恋物語

 「しらさぎ」はシリーズ第1作の「はこいり」で登場したお静が再登場。今度はお嬢様が芝居にハマる。そして芝居に出たいと言いだし、万松が動くが、話は意外な方向へ展開。これまた見事な人情話となる。ここでも見事なオチがつく。

 「おしろい」は久しぶりの滑稽話、と言って良いだろう。現代では問題視もされないが江戸時代は人には言えなかったであろう、男性がお化粧に魅了される話。男性芸者にいつもの3人が大騒動を引き起こす。しかしそこは万松、見事なケリをつける。

 「あまから」は第1話からの連続ものと言えるちょっと珍しい作品。今助お涼兄妹の父の仇である丈八を捕らえようとする火盗改の根本、そして久しぶりに娘お孝に会いに行く徳兵衛が藤沢の街で遭遇する。島田も兄妹も皆が集合して、いよいよ丈八を捕まえることに。と、一筋縄で行くわけもなく、そこへ兄妹の母親までが登場する。しかし、大谷徳兵衛と娘お孝の話や兄妹の代わりに芋売りをする長屋連中の話、最後に登場する母親など、ちょっと話があちこち行き過ぎた感がある。もう少しシンプルで良かったかな。

 そうは言っても第7作も泣かされる話が多かった。個人的には「ひだまり」がベストかな。短いながらもしっかりと泣かされました(笑

 1作品に5つの短編であるスタイルは変わっていないが、1つ1つの短編の長さが異なるのね。これまで気がつかなかった。磐音シリーズも1作品に5短編だったけど、見事なまでに全ての短編の長さが一緒だったから。でもこのスタイルもあり、だな。話によっては無駄に長くする必要もないし。

 当然次作にも期待。