本所おけら長屋 八 畠山健二

●本所おけら長屋 八 畠山健二

 「すけっと」

 おけら長屋の島田の家に少女が訪ねてくる。彼女は森田小次郎の娘美乃。

 森田は3日前、島田の道場にやって来て稽古を申し込んで来たが、稽古の最中に倒れ、島田は彼を聖庵堂へ運んでいた。彼の願いで印判屋和泉屋を呼び、和泉屋から事情を聞く。4年前森田は西張藩の藩士で父から家督を譲られる際に父の部下だった石川孫蔵に父親を殺されていた。そのため父の仇討ちとして石川を追っており、江戸で石川を見かけたとの話から江戸に来ていた。

 美乃は小次郎の体の調子が思わしくないことから、自分も島田に剣術を習い仇討ちの手助けをしたいと申し出る。島田は道場へ通うように美乃に話す。万松たちは石川を探し始める。しばらくして万松は柳島の天狗長屋に髪結いの女と住む石川を見つけるが、それを聞いたお染はその髪結いお冴を知っていると話し出す。お冴はお染の友人の妹で、亭主に死に別れたがその後所帯を持ち身ごもっているとのことだった。

 仇討ちと身ごもっている妻のいる仇相手を知り、おけら長屋の連中は悩む。島田は南町の同心伊勢平五郎に事情を説明し協力を仰ぐ。

 奉行所に関係者が集められ、桑原肥前守の裁きが始まる。実は石川は森田の父を殺しておらず、一緒にいるところを鉄砲と横流しをしていた他の藩士に襲われた、と話す。真偽を確かめるため、桑原は西張藩江戸家老酒井を呼び出していた。そして全てが丸く収まることに。

 「うらしま」

 万松の行きつけの居酒屋「三祐」で万松は店でたまに見かけるようになった男に目をつける。三祐で働くお栄に話を聞くとここ2ヶ月ぐらいたまに来るようになった客だが、酒も料理もあまり頼まないとのこと。万松は店で働く若いお冬目当てだと騒ぎ出す。そこへ八五郎がやって来る。話を聞いた八五郎は男の顔を見て見覚えがあると話す。

 翌日八五郎は男がさくら湯の下働き亀次郎だと思い出し万松に話をする。しかし亀次郎は本当は鼈甲問屋浦島屋の跡取りで、店のしきたりで18歳の時から3年間外で修行をしているところだった。話を聞いた万松は三祐に行き、事情を説明、お冬を応援する。

 しかし街中で亀次郎が声をかけたのはお栄の方だった。亀次郎はお栄が店の前にいた物乞いにかけた言葉からお栄に惚れていたのだった。しかしお栄は亀次郎に店の主人になることの責任を話し、亀次郎の申し出を断る。

 三祐でお栄が万松に事情を説明しているところに、亀次郎の父で浦島屋の主人勘右衛門がやって来てお栄に一度店を見に来てくれと話す。後日店を見に行ったお栄だったが、やはり話を断ることに。

 「ふところ」

 清水寿門が三祐にやって来て島田たちと再会する。清水は二本松藩蕎麦屋を営んでいたが、蕎麦の勉強も兼ねて久しぶりに江戸にやって来ていた。その時店に大巌という力士がやって来る。体はデカイが弱い相撲取りだった。

 街で大巌にあった清水は自らの経験を彼に話し、相撲取りだけが人生ではないと諭す。万松は勧進相撲での大巌の勝負に大金を賭けることで大巌を奮起させようとする。万松は島田に大巌が勝つ秘策を授けてもらおうとする。大巌は島田の道場へ行くが、その時飛脚が書状を持って道場に飛び込んで来る。死に物狂いで書状を届けた飛脚は皆に心配されるが、これが自分の仕事だと話す。

 勧進相撲当日、大巌は見事に勝負に勝つ。しかし賭博がばれ賭金は没収され万松はがっかりすることに。清水はまたおけら長屋に勉強させてもらったと話し、帰って行く。

 「さしこみ」

 黒石藩の藩主のお付きの田村真之介は書状を届ける仕事を終え、回向院そばを通った際におけい婆さんの屋台でおけら長屋の女連中に捕まる。その時相生町蕎麦屋に男が子供を人質に立てこもったとの話が舞い込み、皆で蕎麦屋へ。立てこもったのは柳原町の大工銀平、人質となったのはお花という6歳の娘。彼は妻お利を連れてこいと要求する。銀平はお利が男を作って出て行ったと話す。おけら長屋の女連中は手分けしてお利を探し、長屋の連中を呼びに行く。

 酔っ払った万松も蕎麦屋にやって来る。おけい婆さんは人質の交換を要求、銀平はお花の代わりに真之介を人質にすることに。その時話を聞きつけた八五郎蕎麦屋にやって来る。事情を勘違いしている八五郎蕎麦屋に入って行き、銀平を叩きのめす。そこへお利もやって来て…

 「こしまき」

 南六軒堀町の北橋長屋に住む郷田豪右衛門という浪人は富士という名の犬と暮らしている。5年前娘の鈴音が出て行った夜、豪右衛門が拾って来た仔犬だった。

 ある日聖庵堂にその富士がやって来る。お満は異変に気付き豪右衛門の家へ行く。途中偶然会った万造を連れて。すると豪右衛門が家の中で倒れていた。すぐに聖庵堂へ連れて帰り治療をするが、豪右衛門の余命はあと少しだった。お満は万造に豪右衛門の娘鈴音を探すように頼む。万造が長屋の住民に相談すると、犬富士の嗅覚を使うと良いと教えられる。長屋の住民も鈴音探しに協力する。

 お染が鈴音が家出前に猿江町の武家屋敷に出入りしたことを突き止める。お満と万造は猿江町の片平宅へ行き事情を説明するが、応対した御新造は話を聞くだけで鈴音の居場所は教えてくれなかった。

 島田は家に戻った豪右衛門を訪ね事情を話す。豪右衛門は娘と会うのを拒むが、島田の説得で鈴音が家出をした事情を話し出す。上役の賄賂要求を拒んだ豪右衛門は不義密通をしているという嘘の噂話を立てられ、藩にいられなくなり江戸に出て来たのだった。鈴音もその噂話を聞いていたのだった。

 万造とお満は片平宅の御新造の漏らした黒門町という言葉から富士を連れ鈴音を探しに行く。そこで中瀬古家に嫁いだ鈴音を見つける。父と会うことを拒む鈴音だったが、お満から事情を聞き態度を変える。豪右衛門の病状が悪化する中、鈴音が豪右衛門に会いに来る。そして二人は和解するが、豪右衛門は亡くなってしまう。四十九日が終わり、豪右衛門の墓参りをしたお満と万造は墓の前で死んでいる富士を見つけ号泣する。

 

 「すけっと」は仇討ち話。しかし一筋縄では行かず、仇討ち相手の妻が身ごもっていることが判明、長屋の住民も島田も含め、どう決着をつければ良いかわからなくなる。そこへ南町奉行の登場、意外な展開で全てが丸く収まる。

 でもちょっと話が出来過ぎかな。おけら長屋がどう対応するか、どう話の決着が着くかと思っていたが…

 「うらしま」はいつもの居酒屋三祐にやって来る客の話。そしてこれまでも度々顔を見せていた三祐のお栄が主役の話。粋な結末となる。最後お栄にアドバイスする万松に見せたお栄の様子、ひょっとするとお栄は松吉に惚れているのか、と思わせるが、今後どうなっていくのか。

 「ふところ」は第1巻で登場した清水寿門が再登場。仇討ち話が再燃するか、と思いきや、力士大巌の登場で意外な方向に話が進む。一種の事件解決話かな。

 「さしこみ」は見事な事件解決話。しかも島田が登場せず、長屋の住民とおけい婆さんとで解決してしまう。解決の主役のメインは八五郎だが(笑 久しぶりの滑稽話か。でもラストは見事な人情話となっている。

 「こしまき」は見事な人情話。家出した娘と頑固な父、しかし余命幾ばくもない。そこへ聖庵堂のお満が絡んで来て、万造も加わる。第1話「すけっと」もそうだったが、「実は…」で話が解決する。ちょっと肩透かし感もあるが、仕方なしか。

 

 三祐のお栄の本当の気持ちはどこにあったのか。田村真之介の成長も頼もしく感じる。お満と万造の仲も少し進展したように思える。

 島田の活躍ばかりではなくなってきたおけら長屋。今後の展開も楽しみなのは間違いない。