本所おけら長屋 十二 畠山健二

●本所おけら長屋 十二 畠山健二

 「しにがみ」

 馬助は辻蔵親分に拾われた盗っ人。しかしドジばかりで辻蔵には盗っ人は無理だと言われていた。その辻蔵が死んで1年、馬助は立派な盗っ人になろうとしていた。

 ある時馬助は湯屋で万松の二人が大家徳兵衛が金を隠し持っているとの話を聞き、おけら長屋へ盗みに入ることに。徳兵衛の家に忍び込むとそこには泥棒が。二人が騒いでいると長屋の女連中が集まってきた。馬助は自分は長屋を見せてもらおうとしたところで泥棒と鉢合わせたと話す。女たちは泥棒に話を聞く。

 男は天神長屋の屑屋の留吉で、巾着長屋に住むお道さんという後家さんが死んだ夫の残した5両の借金のために岩本屋という金貸の妾にされそうになっているのを助けるために、お金を盗みに入ったと告白する。

 お染とお咲はお道に会いに行き話を確かめる。そして馬助と留吉には岩本屋のことを調べさせる。女たちはこの件は万松など男たちの力を借りずに解決しようとする。八五郎や万松は長屋の女連中の動きに気づいていた。八五郎はお里に酒を飲ませ話を聞き出す。万松は女たちに、お道に岩本屋の世話になると言うように話す。

 5両の返済期限15日前、お道の家に岩本屋の番頭滋平がやってくる。お道の伯母を語ったお染は、滋平にお道には男がいたが別れさせた、と話すとそこへ男馬之助が入ってくる。しかし馬之助は急に死んでしまう。

 5両の返済期限10日前、岩本屋の主人曽根助は用心棒の島田と会う。島田はお道の名前を出し、死神と呼ばれているのを知っているかと尋ね、お道と関わった男たちは次々と死んでいったと話す。

 番頭滋平はお道の家にやってきて今回の話はなかったことに、と言い5両を置いて去っていく。お道は留吉に礼を言い、死神を買い取って欲しいと話す。

 

 「ふうぶん」

 三祐で飲んでいる万松、八五郎の元へ大工の寅吉がやってきてラクダの話をする。ラクダは天竺舶来の獣で神の使いと言われていて、今度江戸にやってくるという。それを聞いていた備前屋の末蔵が話に加わる。彼はラクダを京で見てきた、ラクダの糞や尿は高い薬になると話す。

 万松はラクダの糞や尿を手に入れようと計画を立てる。まず牛や馬の糞や尿を取る訓練をしようと押上村の農家を訪れる。そこで糞や尿をさせる手立てを聞く。

 浅草でラクダの見世物が始まる。研ぎ屋の半次はラクダにイチモツを舐められると吉原夕月花魁のマブになれると聞いたと話す。万松は見世物小屋の当たり券を引けなかったが、ラクダが逃げ出したとの話が入ってくる。万松が見にいくと半次がラクダの前で裸で立っていた。しかしラクダはくしゃみをし半次はヨダレまみれに。万松も糞を手に入れるが… 騒動を気にしたお上がラクダの糞尿にご利益はないとお触れを出す。

 

 「せいがん」

 島田の道場に京谷信太郎が訪ねてくる。彼は1年前鳥羽藩に仕官していた。この度4つの藩の剣術交流会が開かれることになり、それに参加することになったので稽古がしたいと言う。そこへ黒石藩家老の工藤と赤岩がやってくる。赤岩も交流会に出ることに。島田は二人に立ち合い稽古をさせる。二人は意気投合する。工藤は京谷を飲みに誘う。

 工藤の家に行った3人は酒を飲む。そこへ工藤の妹扶美がやってきて、赤鰯と呼ばれた赤岩の代わりに自分を交流会に出して欲しいと訴える。工藤は扶美を諌めるが彼女も引かない。京谷は自分が扶美と立ち合うと言い出す。

 島田の道場で扶美と京谷は立ち合うことに。不意の一撃で京谷は体制を崩すが、京谷は扶美に打ち勝つ。扶美は大人しく引き下がったが、翌日道場に来て京谷に京谷の妻になると言い出す。

 島田の家に黒石藩藩主の高宗がやってくる。そこへ扶美も。扶美は京谷の心の思いを夢で見たと話し、それがあっているかどうか島田に尋ねる。島田の家を出た扶美を高宗は追いかけ、何かあれば力になると話すが、扶美が工藤の妹と知り逃げようとして転んでしまう。それを見た侍が笑う。扶美は侍を諌め、刀を抜こうとした侍に当て身を食らわせ、名前を名乗る。

 工藤は京谷に扶美の生い立ちについて話す。年の離れた妹のことを工藤は2年前まで知らずにいたのだった。

 工藤は扶美とともに高宗に呼び出される。侍との騒動の件だった。そこで扶美は島田の家にいた黒田という浪人が高宗だったことを知る。高宗は扶美に京谷ともう一度立ち合い、扶美が勝ったら京谷の嫁にすること、と話す。

 島田の道場で扶美と京谷は立ち合う。そして扶美は京谷に勝ち嫁になることに。

 

 「おまもり」

 お糸が家にいるときに母娘が訪ねて来て、黒塀長屋のありかを聞かれる。黒塀長屋は1年前に取り壊されていた。母娘はお邦とお妙の親子で、夫幹助を訪ねて常陸国久慈からやって来たのだった。幹助は百姓で江戸に出稼ぎに来ていたが、春になっても戻ってこなかったために探しに来たのだった。江戸が初めてでお金のない母娘を不憫に思ったお糸はおけら長屋に二人を連れていく。

 事情を聞いたおけら長屋の連中が動き出す。大工の仕事を手伝っていた幹助は普請場で事故にあい記憶をなくしてしまった、同じ長屋にいた病持ちの夜鷹の女が幹助を引き取った、ということが判明する。そして魚屋の辰次が幹助の居場所を聞き出してくる。

 お染とお糸は幹助のいるという家へ行く。そこで元夜鷹の貞と会って話をする。彼女は病持ちで今は幹助が働き貞を助けていた。お染とお糸は母娘を幹助に会わせるが、彼の記憶は戻らない。娘お妙は父に買ってもらったお守りを幹助に渡す。

 万松に言われて貞を診たお満は貞の命が長くないと話す。万松は幹助の記憶を取り戻すために、材木屋でもう一度幹助が体験した事故を起こす。幹助は見事に記憶を取り戻し、貞を看取り、久慈へ親子3人で帰ることに。三祐で送別会をしているところへ、お糸文七お満の3人がやって来て、お糸に赤ちゃんができたことを報告する。お妙は父から返してもらったお守りをお糸に渡し、元気な赤ちゃんが生まれるよ、と話す。

 

 これまでおけら長屋シリーズは1冊5話構成だったが、本作は4話。その分1話1話が濃い内容となっている。

 「しにがみ」はおけら長屋に泥棒に入ろうとした間抜けな泥棒とその事情を聞いた長屋の女連中が彼を助ける人情話。女連中が頑張るが、万松が一枚噛んで一気に話が解決する。金の力で女を妾にしようとする金貸しを見事に騙す痛快な話。

 「ふうぶん」は滑稽話。江戸の町にラクダが来ることになり大騒動。万松が一儲けしようと企むが… 「おけら長屋 十」で登場した半次が再登場。なかなか笑わせてくれる。

 「せいがん」は珍しい女剣士?の話。事情を知らないとは言え、赤岩に無礼な態度を取るが、代わりに立ち合った京谷に打ち負かされ考えを改める。ちょっと「居眠り磐音」シリーズを思い出させる作品だった。京谷は「おけら長屋」以来の再登場。

 「おまもり」はシリーズらしい泣かせる人情話。田舎から江戸に出て来て困っている母娘をおけら長屋が全力で助ける。しかしその夫が記憶喪失で… 記憶を取り戻させるための行動が強引だが、仕方なしだろう。ここでも金太が活躍するが、そのセリフにまたも大笑い。金太のセリフはいつもツボだ(笑

 

 以前登場した人物が再登場した話が2話。半次は笑いを取るし、京谷はなかなかオイシイところを持っていった(笑 シリーズも長くなってきたので、今後も再登場するキャラクターが増えて来ることを期待したい。