本所おけら長屋 十三 畠山健二

●本所おけら長屋 十三 畠山健二

 「とりもち」

 だるま長屋の栄太郎が北森下町でうろうろしているのを大工の寅吉が見かける。栄太郎は同じ長屋に住むお明からとりもち屋お圭を紹介されて来たのだった。とりもち屋とは所帯を持ちたい人を相手に会わせてくれる今でいう結婚紹介所のようなものだった。

 栄太郎は蕎麦屋でお紺という女性と見合いをするが、相手に断られてしまう。その次はお国、次はお久と3人の女性に会うが上手く行かなかった。お圭は次の相手は相性抜群だ、と栄太郎を励ます。

 寅吉が万松に会いに来て、栄太郎が見合いをしていることを話す。相手に断られたことを知った万造は大笑いし、今後もよろしくと、寅吉に情報源となる栄太郎の隣に住むお稲という婆さんに小遣いを渡すように寅吉に頼む。

 栄太郎は蕎麦屋で4回目の見合いをする。相手はお夕。しかしお夕は栄太郎よりも年上で、しかも子供もいた。その息子朝太が蕎麦屋にやって来たので栄太郎は朝太にそばを食べさせる。

 万造は栄太郎が酒を飲む居酒屋へ行って栄太郎をからかう。しかし栄太郎は今まで万造が見たことのない顔をしていた。

 栄太郎は街で偶然朝太に会い家の場所を聞く。3日後えいたろは朝太を蕎麦屋に連れて行くが、その帰り朝太に言われお夕の家を訪ねる。しかしお圭からお夕が断って来たという話を栄太郎は聞く。

 寅吉はお夕と栄太郎のことを万松に話す。万造はお夕を訪ね朝太と話をする。朝太は栄太郎に会いたがっており、自分が奉公に出た後の母親のことを心配していた。万造はお稲を訪ね栄太郎がフラれた理由を聞く。お夕は自分が年上であることを理由に栄太郎との話を断っていた。万造は酒に酔った栄太郎に会いに行き彼の本音を聞く。

 朝太が手紙を残し家出をする。お夕はお圭に相談、お圭は栄太郎の長屋を教える。お夕はだるま長屋へ行くと栄太郎の家に朝太はいた。朝太は万造に教えられたセリフを吐く。それを聞いた栄太郎もお夕に本心を伝え、お夕もそれに応える。

 

 「よみうり」

 おけら長屋の女衆がお茶を飲みながら読売のことを話す。木綿問屋の大店大黒屋のお内儀が役者月之丞と不倫していたというネタだった。この読売を書いたのは二ツ目長屋に住む春助という独り者だった。春助はこの他にも多くの暴露ネタを読売にしていた。

 三祐で万松、八五郎が飲んでいる時に春助が店にやってくる。万松は自分たちを読売のネタにしてもらおうと喜ぶが、八五郎は春助のやり方が気に入らず春助に文句をつける。しかし春助は冷静に八五郎に言い返す。

 次に春助が読売のネタにしたのは紙問屋大西屋の若女将お牧の腹違いの弟が人を刺し島流しになっている、というネタだった。お牧の夫啓太郎は両親に事情を説明し、お牧をかばう。しかしお牧は店から姿を消し2日後川に身を投げてしまう。

 島田は道場の帰りに居酒屋から追い出される春助と出会い、彼を三祐に連れて行く。

 後日春助は襲われて怪我をする。相手は啓太郎だった。しかし春助は怪我をしたのは自分の不注意だったと話す。島田は南町奉行所同心伊勢からお牧の弟伊与吉が島から戻って来ていることを聞く。伊与吉が春助を襲うかもしれないためだった。島田は万松に事情を説明し、春助と伊与吉のことを調べさせる。

 春助が二ツ目橋を渡る際伊与吉が春助を襲う。それを島田が止め、三祐へ二人を連れて行く。そして春助が読売をするようになった本当の理由を聞き、伊与吉からも話を聞く。全てを聞いた島田は明日が見える手立てを考えるためひと月くれと話す。

 半月後、伊与吉が勤めていた旅籠での騒動話の真実を書いた読売を春助が売り出す。

 

 「おいらく」

 おけら長屋で大家徳兵衛、隠居与兵衛、木田屋宗右衛門の3人が酒を飲むことに。話は歳をとった愚痴から始まるが、いつしか若い頃の女遊びの話になる。宗右衛門は吉原の花魁美乃志摩のこと、徳兵衛は居酒屋のお軽のことを話す。与兵衛が自分はそんなことは一度もなかったと話すと、宗右衛門は3人で吉原へ遊びに行こうと提案、与兵衛も乗ってくる。

 3人は徳兵衛の知り合い、東州屋善次郎の口利きで吉原へ。宗右衛門は自分の店で売っている精力剤夫精まで持ち込む。白波楼へ行った3人はそれぞれ女を選ぶ。

 宗右衛門は店の遣り手が美乃志摩であることに気づき、遊女を断り美乃志摩と話すことに。美乃志摩は昔若い宗右衛門から10両をだまし取って姿を消した女だった。

 与兵衛は花蝶という遊女に手玉に取られる。徳兵衛は選んだ菊丸という遊女が今日初めて客を取ることを聞く。まだ若い彼女を見ていて、徳兵衛は娘のお孝のことを思い出す。菊丸の名前がおこうだと知った徳兵衛は菊丸と酒を飲むことにする。

 座敷に戻った3人、与兵衛は腰を痛め宗右衛門に薬を求め明日も来ると話す。

 

 「ゆうぐれ」

 三祐で飲む島田、万松の元へ八十吉と名乗る男が現れる。そして松吉に5日前良作が亡くなったことを告げる。良作は印旛に住む松吉の兄だった。松吉は印旛へ帰るが3日後には帰って来て何もなかったかのように過ごしていた。

 島田と万造が松吉のことを心配し彼の家で飲んでいるとそこへ松吉の父喜代助が現れる。そして松吉に農家の後継になってほしいこと、松吉には二人の姉お七とお滝がいること、を聞く。喜代助を万造の家に寝かせた後、松吉が帰って来る。松吉は二人の姉と仲が良くないこと、良作の妻お律に世話になったこと、だが姉の子供が跡を継げばお律は追い出されるだろうことを話す。

 三祐のお栄の元へ浦島屋の旦那勘右衛門がやって来て、息子亀次郎が店に戻ったこと、お栄に亀次郎の嫁に来てほしいことを告げる。

 翌日喜代助と松吉は話をする。松吉はもう少し考えさせてくれと話す。

 松吉とお栄は橋で会い話をする。お栄は松吉がいなくなったらおけら長屋はおけら長屋でなくなると話し涙する。

 三祐で皆で飲んでいるところへ八十吉がやってきて、喜代助が亡くなったと知らせて来る。松吉は印旛へ帰ることに。二人の姉から後継の話が出て松吉はうんざりする。そこへ万造とお栄がやって来る。万造が手立てを考えて来たのだった。

 翌日二人の姉と松吉お栄は会うことに。そこで松吉はお栄と一緒になること、しかしお栄には借金があること、その借金を肩代わりしてくれれば、農家をせずに江戸で暮らすと話す。二人の姉は金を出すと言うが、お律のことを松吉が話し出すと姉たちの態度が変わってしまう。それを聞いたお栄が啖呵を切り始める。しかしそのことで話は治り、松吉とお栄はお互いの思いを確かめ合う。

 

 前作に続き、今回も4話構成。

 「とりもち」は万造の宿敵栄太郎の見合いの人情話。当初の栄太郎の思いとは異なり、選んだ相手は子供がいる年上の女性。栄太郎とお夕朝太の絡みも泣かせるが、やはり宿敵万造が栄太郎のために人肌脱ぐところが一番。

 「よみうり」も人情話か。現代にも通じるスキャンダル暴露がテーマ。しかしそれを売る春助の過去が明かされ、さらには読売が素で亡くなったお牧の弟まで出て来て、話は一筋縄では収まらなくなって来る。久しぶりにおけら長屋の重鎮島田が大活躍する。

 「おいらく」は高齢3人の艶話っぽい人情話か。徳兵衛、与兵衛、宗右衛門が吉原に行くが、遊んだのは若い頃から女遊びをしてこなかった与兵衛のみ。徳兵衛の親心、宗右衛門の若き日の過ちを許す態度が泣かせる。ラストの与兵衛が笑わせてくれる。

 「ゆうぐれ」ではとうとうお栄と松吉が結ばれる。「おけら長屋 八」から気になっていた二人。しかし今回は松吉の過去も明かされ、ひょっとすると松吉がおけら長屋からいなくなってしまうかも、という事態に。浦島屋の登場や喜代助の死去などタイミングが良すぎるところもあるが、まぁそこは目をつぶりましょう(笑

 

 今回はどの話も濃い話で大満足。しかもこれまで登場して来たゲストキャラがしっかりと活躍している。ただ松吉とお栄の二人が結ばれるのは、まさかシリーズ終焉に向けてのことじゃないだろうなぁ。まぁまだ万造とお満のこともあるし大丈夫だと思うけど。