本所おけら長屋 十四 畠山健二

●本所おけら長屋 十四 畠山健二

 「まつあね」

 前作で松吉の田舎から江戸へ出てくることになった松吉の義姉お律はおけら長屋で暮らし始める。そして聖庵堂を手伝うことに。聖庵先生とお満が留守の間に聖庵堂へ怪我をした男が担ぎ込まれる。お律はその男新吉の看病を始める。そして新吉から事情を聞くことに。

 新吉は両親を火事で無くし品川の口入屋を営む守蔵とお陸夫婦に育てられ、15歳の時に奉公に出るがその奉公先から逃げ出し芝で人足になっていた。守蔵が3年前に亡くなり、お陸が跡を継いでいたが、2年前の普請工事の最中嵐で事故が起こり、お陸は多額の借金を背負うことに。品川の柴崎屋という旅籠が請人となり、遠州屋から金を借りたがその期日が7日後に迫る中、不足分20両を守蔵の遠縁から借りたが、それを持っていた新吉は追い剥ぎにその金を奪われてしまっていた。

 お律は田舎でもらった20両を新吉に無条件で貸すことに。新吉は喜ぶが、その話を聞いた松吉はお律が騙されたと騒ぎ出す。しかし島田はお律は騙されてはいないのでは、それよりも新吉が襲われたことが気になると話す。そして島田は火盗改根本に事情を説明する。

 実は新吉が襲われたのは、口入屋を乗っ取ろうとしていた柴崎屋の仕業だった。柴崎屋義左衛門と番頭仙太郎は50両を返されると困るため、さらに一芝居打つことに。それは子供を使って新吉を騙して捕らえ、その代金として50両を要求するというものだった。その芝居に新吉は見事にハマってしまいお陸は50両を失う。

 借金返済当日、お陸と新吉は柴崎屋に会いに行く。そこへ島田と根本が現れ、柴崎屋の魂胆を見破ったことを話し、詫び金をお陸と新吉に払った上で、柴崎屋を江戸払いとすることになる。

 

 「かたまゆ」

 お里が奉公先での仲間お多喜のことで万松に相談をする。お多喜の夫竹五郎は酒癖が悪く、妻であるお多喜や娘お智に迷惑をかけるだけではなく、住んでいる五六八長屋の連中にも多大な迷惑をかけていた。

 島田の道場に若芽錦之介がやってくる。錦之介は徳島藩の侍でお濠の修繕工事のために江戸に出てきていた。その修繕工事は徳島藩と黒石藩で行うことになっていた。島田は錦之介におけら長屋に来るように誘うが、錦之介は以前酒を飲みおけら長屋で騒動を起こしていた。

 おけら長屋に黒石藩藩主の高宗がやって来る。満松、八五郎は高宗を誘い飲み始めるとそこへ錦之介が現れ、一緒に酒を飲むことに。例によって錦之介は暴れ出し、高宗の左眉を剃り落としてしまう。

 高宗は黒石藩と徳島藩の修繕打ち合わせの場に顔を出す。そこへ徳島藩藩主の政勝も現れ、二人は意気投合する。そして錦之介は自分が眉を剃り落とした相手が高宗であることを知る。

 高宗は三祐に現れ、万松に身分を明かし、錦之介に仇討ちをする手立てを考えさせる。高宗は万松と錦之介と一緒に居酒屋に。そこへ竹五郎が現れ、酔った上で狼藉を働く。2日後、竹五郎宅に高宗の配下の工藤と真之介が現れ、居酒屋での狼藉を叱責する。お多喜やお智が許しを請う中、竹五郎も二度と酒は飲まないと約束し一件落着。

 

 「きれかけ」

 おけら長屋の裏の金閣長屋に住む曲物師権三郎お清夫婦にはお菜美という娘がいたが、2年前権三郎と口喧嘩をしたお菜美は家を飛び出してしまっていた。そのお菜美が家に戻って来る。しかも妊娠をした状態で。お清はお菜美に事情を聞こうとするが、お菜美は何も喋らなかった。

 おけら長屋のお里の娘お糸の出産も近づいてきていた。お糸はお菜美の幼馴染で仲が良かったため、心配させまいとお糸にお菜美のことは内緒にしておくことにしたが、八五郎はうっかり喋ってしまう。お糸はお菜美に会いに行くが、お菜美はお糸に辛く当たる。

 島田はお菜美のお腹の父親佐久助を長屋で見かけ連れて来て事情を聞く。お染はお菜美と道で出会い声をかける。お菜美はお染に事情を話す。

 権三郎と喧嘩をして家を出たお菜美は佐久助の家に転がり込んでいた。佐久助は奉公先の永知堂で手代となっていたが、番頭の指導が厳しく、いつしか店に出るのが怖くなってきて、店を休むようになり、お菜美の前からも姿を消してしまっていた。事情を聞いた島田は、佐久助にまだお菜美とは会わない方が良いだろうと話す。

 聖庵堂のお満から事情を聞かれた万造は全てを話す。お満は佐久助はやりがいを持てば良いのにと話す。そして自分に生きがいを感じさせてくれたのは万造だと話す。

 お糸はお満と話していて、お菜美と佐久助の出会いがお菜美の下駄の鼻緒を切れたのを佐久助が直したことがきっかけだと思い出す。それを聞いたお染は万松にその話をし、万松は浅草の三増屋という下駄屋に佐久助を勤めさせることに。

 下駄屋での仕事で自信を取り戻した佐久助はお菜美の家に挨拶に行き正直に全てを告白し権三郎に許しを請う。権三郎は佐久助を許し、その夜お菜美は子供を産む。

 

 「おみくじ」

  お糸の出産が近づく。お糸の父親は子供の名前を考え始め、長屋の他の住人もお糸のことを気にかける。大家徳兵衛は皆がお糸のことを気にし過ぎているのを気にしていた。

 辰次、久蔵、金太は犬山神社を訪れ、お糸のためにお守りを買うことに。さらにお糸のためにおみくじを引こうとするが、悪いおみくじではいけないので一計を案じ、木の枝に結んであるおみくじから大吉を探し渡すことにする。

 ある日、お糸の夫文七が家に帰るとお糸の様子がすぐれない。文七が普請場で怪我をしたことを知るとその場所の方角を気にする。翌日文七はお染を訪ね、お糸が辰次たちからもらったおみくじが大凶でそこに書いてあることを気にしていることを告白する。

 お染は万松に頼み、おみくじを持ってきた3人を三祐に呼び出し全てを告げる。そして長屋の皆で、もう少し静かにお糸のことを見守ろうと話す。

 気落ちしているお糸の元をお梅が訪れる。お梅はお糸とともにおけら長屋で育った幼馴染だったが、あまり感情を表に出さない娘だった。お梅は自分が湯屋で犯され身ごもってから久蔵と一緒になるまでの話をお糸に告白し、おけら長屋の皆が言った通りになったと話す。そこへお菜美がやってきて、佐久助が作った夫婦下駄をお糸に渡す。お糸は二人の話で元気になる。

 しばらくしてお糸は産気づき聖庵堂へ。長屋の皆は気をもむ。そしていよいよとなった時に皆で聖庵堂へ。お満が皆にお糸の子は逆子で、母親か子供のどちらかを諦めなければいけない、四半刻の間にどちらにするか考えておいて欲しいと話す。皆は涙するが、文七は赤ん坊を諦めると決断する。その時聖庵堂の庭の木に雷が落ちる。するとお満が皆の元にやってきて雷のおかげで逆子が治り、母子ともに健康に出産が済んだと告げる。皆が喜ぶ中、八五郎は子供の名前を雷蔵と決め、万造はお満を一人前の医者になったと褒め、お満は万造の胸に飛び込む。

 

 本作も4話構成。人情話が3話、滑稽話が1話といった感じか。

 「まつあね」は前作「おけら長屋13」の最終話で登場した松吉の姉お律の話。おけら長屋で暮らし始めたお律が聖庵堂の手伝いをしている時に起きた事件が中心。人を信じるお律とそれに反対する松吉。おけら長屋らしく、人を信じたお律が勝るがその裏では島田が動いていた、というオチがつく。

 「かたまゆ」はおなじみの高宗が登場。さらに「おけら長屋4」で登場した錦之介が久しぶりの再登場し、酒飲みぶりで高宗に粗相を働く。その前にもう一人?の酒飲み竹五郎も登場しており、この二人の酒飲みのトラブルを一気に解決してしまう。高宗のお茶目ぶりが楽しい。

 「きれかけ」は新たな登場人物お菜美が登場。おけら長屋の裏にある金閣長屋に住む娘でお糸の幼馴染。幸せに結婚し子供を産もうとしているお糸に対し、家出をしたが身ごもって実家に帰ってきたお菜美。好対照な二人がドラマを生むが、お糸をはじめとするおけら長屋の皆がお菜美のために動き、解決する気持ちの良い話。

 「おみくじ」はお糸の出産に絡む長屋騒動。皆がお糸のことを思い過ぎたために起きる事件がおけら長屋らしい。しかし偶然にもお糸の出産で危機が訪れる。今の時代でも出産はおおごとであり、江戸時代の出産ならばなおさら。こればかりはおけら長屋の面々でもどうすることもできず、万事休すかと思われたが、そこで雷光一閃。これで全てが解決する、というのは出来過ぎだが仕方なしだろう。ここでの悲劇はおけら長屋にはふさわしくない。

 前作では松吉とお栄の仲が進んだが、本作では「きれかけ」「おみくじ」で万造とお満がお互いの気持ちを正直に表すシーンがあり、ホロっとさせる。

 

 再登場する人物あり、新たに登場した人物あり。おけら長屋も14作目となり、登場人物の層も厚くなってきて、より面白くなってきた。もちろん、島田、万松、お染などのレギュラーメンバーも活躍するし。まだまだ面白くなりそうで楽しみだ。