向田邦子ふたたび 文藝春秋編

向田邦子ふたたび 文藝春秋

 向田邦子さんが亡くなられた2年後に出版された追悼本が文庫本化されたもの。

 向田さんの愛猫のその後の様子や最後の旅行の前々日に部屋に呼ばれた友人の文章など「その時」や「その後」が非常にリアルに感じられる。もちろん著名人による追悼文も多く掲載されている。向田さんは直木賞受賞の1年後に亡くなられており、友人たちの悲痛な叫びが書かれている。まさにこれから、という時だったのだろう。

 多くの方のの手によって向田さんの思い出が語られるが、TVドラマ成功のために奔走されたことや第二の故郷と言っていた鹿児島旅行の詳細など、向田さんの文章だけでは知ることのできない事実が多い。

 一番興味を抱いたのは、向田さんの父親に関する文章を読んだ作家が、その「家父長制」が貧しい社会時代の戦時体制家族であり、戦後日本は豊かな時代となりその家父長制を捨てた、という文章を新聞に掲載、それを読んだ向田さんが「異例の長い手紙」を作家に送り、その中で、「我が意を得たり」と書いていたこと。言われてみればなるほど、と思える事柄だが、「家父長制」を生きた向田さんでも気づけないことがあったのかと思った。

 

 本の中に山本夏彦氏が選んだ向田さんのエッセイベスト5が掲載されていて、久しぶりに読んだ。あぁまた向田さんの文章が読みたくなってしまう。