カラット探偵事務所の事件簿3 乾くるみ

●カラット探偵事務所の事件簿3 乾くるみ

  シリーズ3作目の短編集。前作に引き続き本作も7編。

 

 「秘密は墓場まで」

 古谷の同級生が父親の墓参りをするが、誰かが先に墓参りをしていた。心当たりのない同級生がその正体を確かめることを依頼してくる。ポイントは「墓石の文字」

 

 「遊園地に謎解きを」

 倉津ファミリーパークでの新しいイベントとして謎解きイベントを作ることを依頼され、現地に行き3つの問題文を作る。ポイントは「俳句調のヒント文」

 

 「告白のオスカー像」

 大学に通う女子学生が研究室の6人でプレゼント交換を行った。彼女が受け取ったプレゼントには告白文が入っており、誰が送ったものかを突き止めて欲しいとの依頼。ポイントは「送り主は結局誰だった?」

 

 「前妻が盗んだもの」

 探偵事務所の出勤時間を変更したところ、男性が夜依頼に来る。前妻が自宅に侵入した形跡があるので何を盗んだのか調べて欲しいという依頼。ポイントは「ハンドバッグに入るような小さなもの」

 

 「次女の名前」

 交通事故で夫を亡くした妻が夫が選びたかった次女の名前はどれだったかを調べて欲しいと依頼して来る。ポイントは「1999年と2000年の年子の姉妹」

 

 「真紅のブラインド」

 ボクシングジムの更衣室のブラインドが開いた犯人を突き止めて欲しいという依頼。ポイントは「狭い更衣室の中のロッカー」

 

 「警告を受けたリーダー」

 池戸市PRのためにアイドルユニットが作られたが、その中のリーダーが仲間から脅迫文を受け取り犯人探しを依頼される。ポイントは「不自然な文面の脅迫状」

 

 前作「カラット探偵事務所の事件簿2」から8年ぶりとなる本作。古谷井上コンビが日常の謎に挑む。相変わらず作者の言葉遊びはレベルが高く、「遊園地に謎解きを」や「警告を受けたリーダー」でその実力が発揮されている。「警告を受けたリーダー」は解決前に脅迫文を何度も読み、その謎に挑もうとしたがダメだった(笑 しかし解決を読んでスッキリ。見事というしかない。

 その他はまさに「日常の謎」。特に冒頭の「秘密は墓場まで」は久しぶりに読んだカラット探偵シリーズの世界へいきなり引き込まれる良作。ある意味本当にありそうな事件であり、ちょっとゾッとする。ラスト、古谷が犯人?に投げかける言葉が、いつもは丁寧で優しい古谷らしからぬ厳しさで話を引き締めている。

 「真紅のブラインド」は少し現場の説明が難しく頭にあまり入ってこなかったのが残念。「告白のオスカー像」はプレゼント交換のルールが面倒臭く、現実であればもっと簡単に実現できる方法があると思うが、この話に合わせるためには仕方なしか。「前妻が盗んだもの」は伏線?がわかりやすく、わかりやすいオチ。

 本作での出色は「次女の名前」。作者は言葉遊び以外にも唸るような作品を作ることがあるが、これがまさにそれ。言葉遊びが好きな作者がまさか数字まで操って来るとは… 恐れ入りました。

 ラストの「警告を受けたリーダー」では前作同様、また「P」と「E」が付随してある。このシリーズ恒例の…といった感じだが、今回のものは伏線があまりにわかりやすく、本文を読んでいる途中であっさりとわかってしまった。今回だけは「P」は要らず「E」だけを追加で書いておけばまだ読者としては驚きがあったのではないだろうか。

〜本作1話目の「秘密は墓場まで」と冒頭部分が全く同じ展開のため、気付く人はすぐに気づいてしまうだろうから。

 

 その「E」で、これでカラット探偵シリーズは打ち止め、というようなことが書かれている。この3作目は先に書いたように8年ぶりの作品ということで、作者はもうこのシリーズを終わらせたいと考えているのかもしれないが、まだまだ続編を読みたいと思うシリーズである。