家康(五) 本能寺の変 安部龍太郎

●家康(五) 本能寺の変 安部龍太郎

 前作に続き5巻目。章立ては、信忠の予感、安土城、信長死す、伊賀越え、正信帰参、甲斐と信濃

 家康を始めとする信長配下の武将たちは信長に安土城へ呼ばれる。家康は周りから安土城へ行くのは危険だと言われながらも安土城へ向かう。その道中、家康は信長の息子信忠に会い、信長の野望を止めるようお願いされるが丁重に断る。安土城で家康は信長、光秀、近衛前久と会う。その後堺へ行くがそこで本能寺の変のことを聞かされる。配下の者の数が少ない家康は、秀吉軍へ合流することも検討するが、信澄の裏切りの噂が流れたため、三河へ戻ることを決断する。

 

 とうとう本能寺の変が起き、信長は自害してしまう。どこまで真実か不明だが、この小説ではその前に家康は、信忠、光秀、前久など重要人物たちと会話しており、当然のことながらそれが大変興味深い。しかし本能寺の変、光秀の思惑については特に語られることはなく、ここでは秀吉の行動がクローズアップされている。家康が本能寺の変の後の秀吉の行動を疑問視するのである。

 本作の見所は、最終章で大樹寺において家康が重臣たちに語る場面だろう。信長の考えや野望を重臣たちに語り、それに彼らが意見する。信長が目指した律令制、公地公民制と武士の存在の矛盾。現代は我々から見ればそんなものなのかと思うことも、当時の武士にとっては大いなる疑問となることが理解できる。そして帝の存在の大きさ。正直、武士たちにとっても帝の存在は絶対的なものだったのがわかる。

 

 このシリーズは次が現時点での最終巻となるそうで、今後の家康vs秀吉の戦いの序盤が舞台となりそうだが、どこでシリーズの幕を閉じるのか楽しみだ。