本所おけら長屋 十六 畠山健二

●本所おけら長屋 十六 畠山健二

 「くらやみ」

 同心伊勢平五郎はお美弥を密偵として夜鷹殺しの囮捜査をしていた。お里は出先で足を怪我しお美弥に助けられおけら長屋に送ってもらう。怪我が治り、お里はお染とお美弥の住む長屋にお礼に行く。そこでお染はお美弥が平五郎と話しているのを目撃する。お染から話を聞いた島田は平五郎にお美弥のことを尋ねる。お美弥は命をかけて夜鷹殺しの手伝いをしていたのだった。

 霊巌寺の境内で松吉とお栄が一緒にいるところへ万造とお満がやってくる。そこへ寺男がやってきて三宝を持った人を見かけなかったかと聞く。三宝には7つの髪の毛が添えられていた。その話を酒を飲んでいた島田と平五郎にすると平五郎の様子が変わる。10年前に髪切り魔と呼ばれる犯人が7人の女を殺し髪の毛を切る事件があったが未解決で、その7人の中にお美弥の妹お桃もいたのだった。当時お美弥は大工の雁助に惚れていたが、雁助は妹お桃に惚れているのを知ったお美弥はやけ酒を飲む。店を出たお美弥はお桃が自分を探しているのを知るが隠れてしまう。その夜お桃は髪切り魔に殺されたのだった。さらに最近蛤町で若い女が殺される事件が起きたと平五郎は話す。

 お満が夜道で襲われる。命に別状はなかったが万三は心配する。

 そんな時お茂登という女性が蛤町の事件の下手人だと名乗り出てくる。お茂登は霊巌寺の髪の毛を納めたのは自分で、それを蛤町の女に見られ脅されたので殺したと白状する。お茂登は、10年前人形師泉屋永仙の店に勤めていたが、二代目の様子がおかしくなり酔って帰ってきた二代目に髪切り魔は二代目なのではないかと問い詰め白状させたこと、酔って吐いた二代目を放置しそのまま死なせたことを話す。しかし平五郎はお茂登が犯人ではないことを見抜く。お染は話を聞き、お美弥の家へ。お美弥は妹を殺したのは自分だと思い、髪切り魔と刺し違えるつもりでいた。お染はお茂登のことを話し、妹お桃が望んでいるのはお美弥が幸せになることだと諭す。

 三日後回向院で女が殺されているのが見つかる。お茂登の疑いは晴れるが、お美弥が髪切り魔を捕まえるために夜の街へ出て行くようになる。おけら長屋の皆はお美弥の後をつける。お美弥は男に襲われるが島田が助けに入る。お美弥は犯人に怪我を負わせていた。

 平五郎は牢にいるお茂登に会いに行く。そしてお茂登が二代目の息子藤十郎をかばっているのだろうと話す。藤十郎は父親が髪切り魔であることを知っており、自分も同じようなことをするのではないかと怯えていた。それを知ったお茂登は自分が名乗り出て藤十郎を助けようと思ったのだった。平五郎は藤十郎を呼び出し怪我をしていないことを確認し、彼が犯人ではないと話す。

 「ねんりん」

 飯田屋の放蕩息子弥太郎が真面目で地味な格好をして三祐に現れる。彼は飯田屋の馴染み客であり、元博徒の元締めの三津五郎の男としての生き方に感銘を受け三津五郎の真似をし始めたのだった。三津五郎が茶碗を語った話に共感した弥太郎は骨董屋竹林堂に行き、おけら長屋の隠居与兵衛と出会う。二人は意気投合するが、骨董屋からはカモ扱いされる。その話を聞いた万松が猫のエサ皿に使っていた古ぼけた皿を持って与兵衛の家へ行くと、そこへ骨董屋竹林堂が訪ねてきて、その皿を一両で買い取る。

 骨董で儲ける味をしめた万松は骨董屋佐嶋屋へ。ここは以前お里の根付を安く買い叩き万造に弱みを握られていた(おけら長屋 六)。そこで万松は生糸の大和屋定五郎と知り合う。彼は店が立ちいかなくなったため、皿や茶碗を持ち込んでおり、お金が必要だということだった。話を聞いた万造は弥太郎に定五郎を引き合わせ、彼の品を買い取る金持ちを紹介するように言う。弥太郎は竹林堂で客を集め競売にかける提案する。

 万松は定五郎が必要な150両以上に売り上げた場合、その一部を貰う約束をし、サクラを競売に紛れ込ませる。サクラにより順調に値を釣り上げて競売が進むが、間違ってサクラが高い品を競り落としてしまう。そこへ三津五郎が入ってきて全てを150両で買い取ると宣言する。

 三津五郎は昔金に困って商家に盗みに入ったが見つかってしまった。しかしその店の主人は三津五郎に必要な7両の金を渡し助けてくれたのだった。三津五郎は大和屋の質品を買い取り、大和屋の商売が立ち直り150両が出来たら品を返すつもりだった。それを知った弥太郎はますます三津五郎に惚れるのだった。

 「せいひん」

 三祐で飲んでいた万松と八五郎は金がないことを嘆き、貧乏神と福の神のことが本当にいるのではと話す。その頃巷では商家に嫌がらせをして金を脅し取ることが流行っていた。店の前に座り込み貧乏神だと書いた紙を置いておくだけで店から金を脅し取る手口だった。その話を聞いていた万松の元へ八五郎がやってきて、裏の金閣長屋に貧乏神のような老人がいるを話す。貧乏神で一儲けしようと考えた万松はその老人を長屋へ連れてくる。

 老人の正体は材木問屋の大店林屋の隠居省吾郎だった。彼は川で船遊びをしていて海に出た際に嵐にあって船は転覆してしまい、死んだと思われていた。しかし万松は老人が先月の馬喰町の家事で焼け出された老人だと思っていた。万松は回向院境内で見世物小屋をしている田五郎と話をつけ、老人を貧乏神として見世物にすることを思いつく。そして見世物が始まると、老人の風貌もあり客が集まり大繁盛となる。しかし興行7日目、老人は突然辞めると言い出す。

 その頃島田の道場へ林屋の手代勇吉が訪ねてきて、貧乏神は隠居の省吾郎であることを話す。島田は三祐で飲んでいる万松省吾郎の元へ行き、省吾郎の息子喜太郎を引きあわせる。省吾郎は船が沈んだのち、下総にたどり着き貧しい家の幼い女の子に握り飯をもらったことを話し、人の情けについて語る。そして店へ帰って行く。

 万松は島田に頼み事をし、島田は二人が立派な清貧だと話す。見世物小屋では金太が大黒天として登場するが、相変わらず金太は事情がわかっておらず大黒天は大失敗に終わる。その頃島田は下総に行き、省吾郎に握り飯と服を与えてくれた家を訪ね、6両の金を渡すのだった。

 「あいぞめ」

 下村屋の娘お佐和と松下屋の手代宗助は両想いの仲だったが、町で評判の色男で藍美屋の若旦那春之助がお佐和を見初め結婚を申し込んでくる。これが原因でお佐和は生花の稽古仲間の女たちから嫌われてしまう。お佐和はそんなに器量良しでもなくなぜ春之助がお佐和に惚れたのか不思議だった。さらに下村屋も松下屋も藍尾屋が大きな取引先であり、お佐和は簡単にこの話を断るわけにはいかなかった。

 母親お萩の薬を聖庵堂に取りに来たお佐和はお満に事情を説明する。それを聞いたお満は皆に内緒で春之助を呼び出し、事情を説明する。しかしその後藍美屋は下村屋と松下屋との取引を取りやめると通告してくる。それを知ったお満は三祐へ駆け込み、おけら長屋の皆に相談をする。

 松下屋の主人幸右衛門と番頭至三郎は藍美屋と取引中止となった理由がわからずにいた。そこへ宗助がきて事情を説明する。怒られると思っていた宗助だったが、二人は藍美屋なしでも大丈夫となるよう松下屋の意地を見せると宣言する。

 三祐では松吉が藍美屋の主人が今回の件で怒っていることを突き止めてくる。そして読売の春助に今回の件で手伝ってもらうことを思いつく。春助が藍美屋のことを書いた読売の下書きが藍美屋の主人富七郎と番頭常蔵の元に届けられる。翌日島田とお染が藍美屋へ。そこで二人は取引を元に戻さないと春助が読売を売り出すと言っていると話し、藍美屋は取引を元通りにすることになる。

 その頃街中で春之助と会ったお満は彼に拉致されてしまう。一件落着だと三祐で飲んでいた長屋の皆の前に平五郎とお美弥が現れ、お美弥を襲った下手人を見かけ跡をつけ藍美屋の春之助だと判明したと話し、皆は絶句する。そしてお満に危険が迫っていることに気づき、皆でお満を探し始める。その頃、お満は春之助から事件を起こした理由を聞く。春之助は継母に折檻され続け女嫌いになっていた。お佐和を嫁にしようとしたのも世の中の女性たちを悔しがらせるためだった。お満は藍染の話を春之助にするが彼は聞く耳を持たなかった。危機一髪のところで万造が乗り込み、島田も駆けつける。観念した春之助は自害する。

 

 本作も4話構成、前作同様、人情話3話に滑稽話1話といったところ。

 「くらやみ」は同心伊勢平五郎と密偵となっているお美弥の話。最近発生した女殺しと10年前の髪切り魔の話が繋がって行く。お美弥は10年前の事件で妹を亡くしていた。おけら長屋のカップル、お満と万造、松吉とお栄の仲が進展しているのがわかる。平五郎とお美弥も良い仲になって行きそう。さらにお染が島田に大胆な告白をする場面もあり、おけら長屋ファンにはたまらない。女殺しの事件は未解決のままで終わるが…

 「ねんりん」は久々に弥太郎が登場する滑稽話。今回は真面目になったと思わせるが、すぐに化けの皮は剥がれてしまう(笑 新たに三津五郎というキャラが登場、弥太郎の気持ちを持って行くが、ラストで弥太郎に困っている顔が浮かび笑ってしまう。

 「せいひん」は貧乏神の風貌をした老人を万松が担ぎ出す話で、滑稽話の色合いも強いが、ラストで泣かせる。ただ話が淡々と進むため、ラストの単調に感じてしまうのが難点か。金太も登場するが前作ほどの笑いにはなっていなくて残念。

 「あいぞめ」は意外な展開でスタートする。よく出来た若旦那と思いきや、お満は自分のしたことに参ってしまいおけら長屋に助けを求める。万松が動きあっという間に事件は解決したかに思えたが、冒頭の「くらやみ」の事件が後を引いていた。

 

 前作までレベルが上がり続けていたように感じたが、この16作はちょっとペースダウンか。

 「くらやみ」が一番長い話になっているが、泣かせる場面も少なく、解決をせず話を終える。「ねんりん」も笑える話だがパワーは少ないように感じるし、「せいひん」もラストにつながる力が弱い。「あいぞめ」も二つの話が入り混じり、どっちつかずのような感触。

 唯一の救いは、長屋のカップルたちの仲が進んでいる点か。ひょっとしてシリーズ完結に向けての動きなのだろうか。もう少し楽しませて欲しいと思うが、本作の出来を見るとそれも難しいのかなぁ。