わが母の記

●423 わが母の記 2012

 1959年、売れっ子作家である井上は父の具合が悪いため伊豆の実家へ戻るが、そこまででもなかったため東京世田谷の自宅へ戻ってくる。その晩父は亡くなってしまう。葬儀が行われる。

 1960年、母が井上の家に遊びに来る。井上の3人の娘たちが相手をするが、母は同じ話を何度も繰り返し話すなど痴呆が進んでいた。その夜、井上の書斎へ母が入ってきて話をするが、ここでも痴呆が進んだ母との会話はままならなかった。母が昔のことを語らい出したため、井上は自分は母に捨てられたと話す。すると母は父の葬儀の時の香典帳を返して欲しいと言い出し聞かなかった。

 その夜香典帳を探す井上を3女の琴子が手伝う。井上は自分の子供の頃の境遇を話して聞かせる。井上は伊豆にいた父の愛人に育てられたのだった。

 1963年、母の誕生日祝いをホテルで行う。その夜は母ホテルのロビーを自分の部屋と勘違いするなど痴呆が進んでおり、父の墓参りにも行かないといい出す。井上は妹たちとバーで母が痴呆が進み父への愛がなくなったことを嘆く。

 1966年、井上の長女郁子が子供を産みお食い初めの儀式をしに井上の家へ。その時母と一緒に暮らす井上の妹志賀子から電話があり、母の言動が許せないと言って来る。お食い初めの最中に3女琴子は母の面倒を見るために軽井沢の別荘を使おうと提案するが、井上は却下する。それがきっかけになり3人娘たちは父である井上の子育てについて非難を始める。

 結果的に琴子と井上の妹桑子が母を迎えに行き世田谷へ連れて来る。しかしその夜は母帰国したいと訳のわからないことを言い出し、井上が差し出した子供の頃に持たせてもらった絵本にも何の興味も示さなかった。井上は琴子に明日母を軽井沢へ連れて行くように命じる。

 軽井沢では琴子と井上が運転手として雇った瀬川が母の面倒を見ていたが、母は現実にはなかったことで琴子を非難、琴子はキレてしまう。母は井上にも話をしてくるが既に息子だと認識できなくなっていた。

 その夜琴子が心配になった井上は琴子の外出先へ行く。そこで琴子は学校仲間の男性とテニスをしていた。井上は琴子に会う。琴子は酒を飲み酔っ払い、井上は作家としては母を許しているが、息子としては許していないと話す。井上は酒に酔った琴子を別荘へ連れて帰るが、母が別荘からいなくなっていた。皆で探すと母は近くの神社にいた。

 その後母は軽井沢にしばらく滞在することに。琴子は瀬川との仲を深めていた。

 井上の育ての母、おぬいばあさんの法事が行われる。あれだけ嫌っていた母だったが穏やかな表情で法事に参列をする。その場で2女紀子がハワイへ留学したいと井上へ申し出て井上も了解する。琴子はそんな父をカメラで撮影し始める。井上は琴子を誘い散歩へ。井上は遊動円木で詩を書いたことがあると話し、琴子が内容を聞きたがるが井上は答えなかった。

 母を世田谷へ連れてくることになったが、母は毎日帰りたいと暴れるようになった。夕方には静かになるのだったが、夜になると懐中電灯を持って家中を徘徊するようになる。その理由が誰にもわからなかった。

 ある日井上は母と書斎で話をする。いつものように痴呆が進み訳のわからない話だったが、突然井上の育ての母のことを、自分の息子を奪った女だと話し出す。そしてその女に息子の居場所を聞き出すために毎晩探している、聞き出せば生きている間に息子と会えるからと。それを聞いた井上は母に、おばあちゃんは息子を郷里に置き去りにしたんですよね、と話しかけると、母は突然詩を暗唱し始める。それは井上が遊動円木で書いた詩だった。母はそのメモを持っていたのだった。井上は涙する。

 2女紀子のハワイ行きの日がやってくる。井上は妻や妹たちと一緒にハワイへ行く船に乗っていた。そこで妻から話を聞く。母がなぜ井上を預けたのか、を。

 その時母は家を抜け出していた。母は近所の食堂へ行き沼津の御用邸の海へ行きたいと話し、トラックの運転手がそれを聞いて人を探してくれる。琴子が食道を見つけ船へ連絡、井上は船を降り沼津へ。そこで母と琴子と落ちあう。

 1973年11月21日、井上の家に琴子が遊びに来る。井上は書斎で母の幻影を見る。その時母の具合が悪くなったと連絡が入る。そして母の訃報が入る。

 

 久しぶりに観た邦画だったが、当たりと言えるだろう。

 実は樹木希林の出ている映画はあまり観たことがないが、この映画の樹木希林はまさにハマリ役だと言える。映画の中でも字幕でその時々の年代が示されるが、それがなくとも母親の痴呆がだんだんと進んで行く様子がはっきりとわかる。『大事なことを…』と言いながら、昔にこだわったことしか話さなかった母親が、最後に井上の書いた詩を暗唱し始めるシーンはさすがに泣いてしまった。自分の母親も今現在進行形で痴呆が進んでいるので尚更。自分の体験がまさに映画とどんぴしゃりでハマるのは久しぶりだ。 

 冒頭中学生?の宮崎あおいが出てきたときにはどうしようかと思ったが、なるほど映画の中で15年近い時が流れるから仕方なかったのか。

 主演も助演もガッチリと演技派揃いの役者さんばかりで、脚本も痴呆の老人問題を暗く描いておらず、見ごたえのある2時間だった。ここ最近観た邦画ではベストかも。