月下美人を待つ庭で 倉知淳

月下美人を待つ庭で 倉知淳

 倉知淳の猫丸先輩シリーズの短編集5作目、長編があるためシリーズとしては6作目にして現時点での最新作。

 「ねこちゃんパズル」「恐怖の一枚」「ついているきみへ」「海の勇者」「月下美人を待つ庭で」の5編。

 各短編で示される謎は、

「ねこちゃんパズル」〜外人が道路のとある場所から暗号めいたメモを取り出す
「恐怖の一枚」〜オカルト雑誌に送られて来た普通のおじさんが映った写真
「ついているきみへ」〜友人から送られて来たプレゼントと入っていた手紙
「海の勇者」〜台風直撃の日、海の家の前で見つかった足跡
月下美人を待つ庭で」〜亡くなった母親が手入れした庭に毎夜現れる訪問者たち

 

 15年ぶりのシリーズ新作、ということだったが、謎のレベルは全く変わりない。今回も神出鬼没の猫丸先輩が様々な現場で、不可思議な謎を解いていく。

 「ねこちゃんパズル」は本当に街中で見かけそうな外人の行動だった。「恐怖の一枚」は当初その写真に写っている情景がよくわからなかったが、だんだんとその怖さを猫丸が明らかにしていく。「海の勇者」はこれまた本当にありそうな話。しかも推理小説の古典ともいうべき足跡の謎。見ていたのに黙っていた猫丸はズルい気もするが(笑

 「ついているきみへ」は、謎のプレゼント=ペットボトルのキャップのみ、という謎に加え、若い女性が散歩に連れていた犬が連れ去られる、という謎も同時に提示され、猫丸先輩が見事に二つの謎を解く。しかもその二つの謎に共通点があると話す。ペットボトルの方の伏線の見事さも凄かったが、女性のワンチャン誘拐の謎はドキッとさせる怖さもあり驚かされた。現実にもありそうな話。

 「月下美人を待つ庭で」は、常日頃口の悪い猫丸シリーズ『らしくない』話。亡くなった母親を偲んで庭の月下美人の開花を待つ主人公の家を毎晩訪問する不思議な訪問者たち。猫丸の解決話を聞いた主人公が、離婚した妻との若い頃を思い出すという設定も伏線が見事に生かされている。まるで人情噺のような話。

 

 あぁこれで猫丸シリーズを読み終えてしまった。倉知淳さんに他のシリーズはないので、どれから読み始めたら良いのだろう。猫丸が登場しないとどんな話の展開になるのだろうか。それはそれで楽しみか。