斬る

●434 斬る 1962

 天保3年3月、ある屋敷で寝ている身分の高い女性の寝床を「国のため…」と話しながら女中が襲う。女性は庭まで逃げるが、女中は本懐を遂げる。その後、女中は斬首されるが、斬る武士を見て微笑む。山中の夜道を籠が行き、武士に出迎えられる。籠が行き去った後には赤ん坊の鳴き声が聞こえる。藩主牧野遠江守は赤ん坊の到着を喜び、高倉信右衛門に子を預ける。

 それから二十余年、成長した高倉信吾は父信右衛門に旅へ出る許可を求める。藩主は信吾の旅を認める。そして3年が過ぎ、信吾は帰って来る。

 その頃藩には水戸の剣士庄司嘉兵衛が来ており、御前試合が行われる。高倉家の隣家、池辺家では父義一郎は息子義十郎が庄司を倒すことを期待していた。義十郎は信吾の妹芳尾に惚れており、父に結婚の申し込みを頼んでいたが、父は庄司に勝って名を上げ、もっと身分の高い家から嫁をもらうつもりでいた。しかし藩の武士達は皆倒される。藩主の命により信吾も立ち会い、三絃の構えを取り、庄司を圧倒する。信吾は藩主に褒められる。

 しかし池辺義一郎はそれが面白くない。城内で信吾が生まれた時のことを話し、信吾は不義密通で生まれた子だと噂を立てる。それを信吾が聞いてしまう。信吾は父に真意を確かめるが、父は池辺義一郎が娘芳尾を嫁に欲しいと言って来たがそれを断ったため、義一郎があらぬ噂を立てるのだ、お前は私の息子だと話す。信右衛門は城内で義一郎を問い詰め、それが藩主の耳にまで聞こえ、義一郎は藩主からお叱りを受ける。義一郎は出世の道が絶たれたと思い、高倉家を訪れ、信右衛門と芳尾を斬り、藩を出て行く。

 知らせを受けた信吾は家へ急ぐ。虫の息の父から、自身の出生の秘密を聞く。信吾は本当は自分の子ではなく、藤子さまの子供であり、江戸屋敷の侍女だった藤子は城代家老の命で藩主を虜にしていた妾若山を殺した、藤子は刑に処されることになったが、藩主の妻が助命を考え、家老安富が長岡藩の多田草司に藤子の籠を襲い藤子を懐妊させるよう嘆願した。藤子に子が生まれれば、藩主の怒りも収まるだろうと考えたのだった。多田は藤子を助け、子を授かった。1年後家老安富は藤子を捕らえたが、藩主の怒りは収まっておらず、処刑されることになった。処刑したのは、多田だった。

 信吾は藩を出て行こうとしていた池辺父子を斬り、そのまま旅に出る。藩主は信吾を探さないように命じる。信吾は長岡で一人暮らしていた父多田に会いに行き、その思いを聞き、また旅に出る。

 旅先の宿で田所主水に声をかけられる。彼は姉佐代とともに仇討ちをしたが、今は追われる身となっており、姉佐代をかくまって欲しいと頼まれ、信吾は了解する。宿に追っ手が現れ、主水は立ち向かう。佐代は信吾が止めるのを振り切り、主水を助けに出て行く。裸になり身を呈して、主水が逃げるのを助ける。それを信吾は驚きの表情で見ていた。信吾は佐代の墓をたて、江戸へ。

 江戸の千葉道場で道場主栄次郎と立ち会う。栄次郎は信吾の腕を見抜き、幕府大目付松平大炊頭に推挙する。信吾は松平家に仕えることに。

 3年後、水戸の脱藩者達が英国公使館に斬り込む事件が起きており、松平は水戸へ行くことになり、信吾も共をする。道中悪漢たちに襲われるが、信吾が切り捨てる。信吾は水戸で松平とともに平和な時を過ごす。翌日水戸城の執政興津に会いに行くが、その帰り道、またも悪漢たちに襲われる。その中には、庄司嘉兵衛がいた。信吾は庄司と立ち会い見事に相手を倒す。

 松平の水戸での仕事も最後となり、無事に済めば明日江戸へ帰ることになった。二人は城内へ訪れるが、相手の罠にかかり、松平は斬られてしまう。異変に気付いた信吾も襲われるが、相手はあの田所主水だった。信吾は切り枝で信吾を倒し、松平の元へ急ぐが、すでに松平は事切れていた。信吾は覚悟を決め彼の前で切腹をする。

 

 2年前に初めて市川雷蔵眠狂四郎シリーズ(「殺法帖」と「勝負」)を観ているが、久しぶりに雷蔵さん主演の一本。助演の女優さんも皆キレイでちょっと驚いた。藤村志保さんは、寅さんのマドンナでしか知らなかったので本当に驚き。

 約70分の短い映画なので、単純な話だろうと思い観始めた。20分で家族が殺され、あぁ仇討ちの展開なのか、と思っていたら、その10分後には仇討ち完了。そうか、後半は母親を死に追いやった藩主を狙いに行くのか、と思いきや全く予想外の展開を見せる。

 父に会い、旅先で仇討ち後の姉弟と出会い、そして死に場所を求めて江戸へ。ところがそこから幕府大目付に仕えることになり、ラストは意外な切腹で幕を閉じる。

 雷蔵さんはこんな悲劇の主人公が似合っていたんだろうなぁ。眠狂四郎シリーズもまさにそんな感じだったし。映画そのものも、70分の割に、カット割りは新鮮だったし、展開も早くそれでいて、信吾と松平の茶室でのやりとりなどは最近の時代劇では観られないようなものだったし。コンパクトにまとまっており、傑作時代物と言って良いのではないだろうか。

 ネットで調べて、庄司嘉兵衛を真っ二つに斬り倒すシーンは観直してしまった。スゴい描写(笑 まだまだ時代劇が全盛の頃だったんだろう。