菜の花食堂のささやかな事件簿 金柑はひそかに香る 碧野圭

●菜の花食堂のささやかな事件簿 金柑はひそかに香る 碧野圭

 前作に続く、菜の花食堂シリーズ3作目、以下の5編からなる短編集。

 

「小松菜の困惑」〜菜の花食堂で働くことになった香奈が彼氏の言葉で傷つくが…

「カリフラワーの決意」〜マルシェに出品したところ、幼い少女がお酢を借りにくる…

「のらぼう菜は試みる」〜農家保田さんの無人販売所で売上のお金が多く見つかり…

「金柑はひそやかに香る」〜主人公優希の家の隣から異様な匂いがして来て…

「菜の花は語る」〜菜の花食堂の名前の由来、靖子先生と息子との確執がわかって…

 

 前作最後で香奈さんが食堂で働くことが決まり、2人体制となった菜の花食堂。瓶詰めを売り始めるなど、お店の業務も拡大して行く中、主人公優希も現在の仕事と食堂の手伝いの両立をやめ、菜の花食堂で正式に働くこととなる。それとともに、優希に関わる人たちも増えてくる。

 

 「小松菜〜」や「カリフラワー〜」は靖子先生の観察力、推理力が存分に発揮される話。「のらぼう菜〜」も同様だが、この話では新たな若い男性キャラ、川島さんが登場。優希との繋がりが気になってくる(笑

 「金柑〜」はこのシリーズとしてはちょっと特殊な話。このシリーズでは、靖子先生がミスマープルのように、安楽椅子タイプの探偵として、話を聞いただけで事件を解決してしまうことがほとんどだが、この話では先生を含め、食堂に関連する人たちが優希の家まで取り込んで来て、事件を解決する。しかも事件やその解決が他の話と異なり、あまり料理や食材に関係したものではない。

 最後の「菜の花〜」では菜の花食堂の名前の由来や開店日などが明かされる。それを知った優希が靖子先生のためにパーティを開くのだが、そこで確執があった先生と息子の和解も見えて来てほっこりする。

 

 優希が今の職を辞めて食堂で働く決意をするのだが、今の会社の上司が本当に嫌な上司として描かれる。正社員ではない優希を都合よく使おうとする上司の裏側が見え、このシリーズで時々あるちょっと嫌な話に思える。まぁ優希が食堂で働くことを決意することにもつながるのだが。

 またも最終話で靖子先生の秘密がわかり、それからどうなるのよ、と思わせる終わり方だった。続編もあるようで、やっぱり読みたくなってしまう。