萩を揺らす雨 吉永南央

●萩を揺らす雨 吉永南央

 コーヒー豆と和食器の店「小蔵屋」の76歳の女主人、杉浦草が主人公。彼女の周りで起きる問題を彼女が解決していく短編集。以下の5編からなる。

 

「紅雲町のお草」
 店の客から聞いた話が気になり店の近所のマンションの部屋の様子を探り始めるが…

「クワバラ、クワバラ」
 幼馴染秀子への発注がかかり、彼女との確執を思い出すが…

「0と1の間」
 草にパソコンを教えてくれる大学生白石に起きた問題を草が見守る…

「悪い男」
 店に来る運送屋寺田の知り合いが昔の借金を返しに来るが、彼は殺人事件の容疑者として捕まってしまう。

「萩を揺らす雨」
 草の幼馴染で代議士の大谷から愛人の葬式への参列を求められる草。愛人の息子に会いにいくが、そこで草も事件に巻き込まれてしまう。

 

 Amazonからの紹介メールで知った一冊。日常の謎系の本ばかり探していたからだと思うが、老女が探偵ならばほんわかとした本だろうと思い読んでみたが、想像とは全く違う小説だった。

 驚いたのは、解説で紹介されているように、世の中にはミスマープルを代表とする老女を探偵役とした小説が多いらしいということ。この本もその部類だが、期待していた「ほんわか」とはおよそかけ離れた話。主人公草はもちろん、彼女の友人由紀乃も老人であるがゆえに迫る問題と向き合わなくてはならず、それがストレートに描かれている。それは頭や体の問題だけではなく、普通の生活を送ることができるかというところまで関わって来る。それを小説だからといって明るく吹き飛ばしているわけではなく、かといって暗いイメージもない。事実として草がその状態を受け入れているのが、逆に心を打つ。

 

 体が不自由な由紀乃の家の様子を見た草が抱く思い、

 

『草は、由紀乃の乗る船の舳先がほんの少し向こうに角度を変えたと感じていた。今まで各々の船で一緒に流れてきたはずの人が見えなくなるほど遠くなってゆくだろうという、相手も自分もどこへ行くのかわからないままに受ける予感だ。』

 

はまさに真に迫っている。

 

 主人公が老女でありながら、話はバラエティに富んでいる。

 事件の真相を掴むために現場には出向くし、幼い頃の確執を未だに引きずる幼馴染は登場するし、女のために容疑者と疑われても真実を話さない男は出て来るし、草の秘めた思いの話は出て来るし。

 wikiで調べたら、既にドラマ化もされているようで納得。シリーズ化もされているようなので、少し時間をおいて続きを読んでみたいと思う。