盤上に死を描く 井上ねこ

●盤上に死を描く 井上ねこ

 名古屋市で老女の連続殺人事件が発生する。共通点は犯行の手口と被害者の側で発見される将棋の駒。県警の水野と所轄の佐田がコンビを組んで事件を捜査するが、被害者の共通点すら把握できずにいると、さらに同様の殺人が連続する。しかも今度は男性まで。捜査に行き詰っていたが、6人目の犯行が未遂で終わったことで、水野は被害者のリストから、あることを思いつく。それは被害者の年齢性別と発見された将棋の駒から、それが詰将棋を現している、ということだった。

 水野は想定される詰将棋の図から、次の被害者の年齢性別を推理、さらに被害者たちの共通点としてスーパーのポイントカードにたどり着く。そして犯人が最後の被害者となるであろうことに気づき行動を起こすが…

 

 詰将棋と連続殺人事件という組み合わせを思いついた時点で『設定勝ち』、と言えるだろう。ただ映画でも小説でもそうだが、その「設定」を十分に生かしたストーリーを作れるかどうかが作品の成功を決めると思うが、この作品は『設定勝ち』で終わってしまっていると思う。

 連続殺人事件に詰将棋が関係している、とわかる時点までは展開が面白く、先を読みたいという気持ちだったが、その詰将棋からある詰将棋作家が浮かび、その人間にまつわる悲劇が明かされた時点で少しアレレとなってしまった。詰将棋作家の悲劇が連続殺人の動機だろうと推測できるのだが、そのために人を殺す必要ある?というのが正直な感想。ネットでも指摘されているが、動機に無理があり過ぎ。作家に焦点を当てたいならもっと他の方法があったと誰でも思うはず。

 さらに連続殺人の犯人が判明、事件解決と思われた後にも、本当の真相が明らかにされるのだが、こちらもあまりに無理筋すぎる。詰将棋の世界が非常に狭く独特な世界だと小説の中で説明があり、その通りなのだろうと思うが、それにしてもなぁ。本当の真相に辿り着く最終章の水野の捜査とその展開もあっさりとし過ぎているし。

 この作品が著者のデビュー作ということなので仕方ないのだろうが、詰将棋との関連が判明した後の展開にもう一工夫あればなぁ、と思わざるを得ない一冊だった。