シャーロック・ホームズ異聞 山本周五郎

シャーロック・ホームズ異聞 山本周五郎

 山本周五郎の探偵小説全集の第2巻。短編集であり、以下の6編からなる。

 

シャーロック・ホームズ

〜ホームズが密命を帯びて日本へやってくる。宝玉奪還のため、浮浪児凡太郎とともに捜査を行う。

 

猫眼石殺人事件

猫目石を持った婦人が殺される。日本ルパンを名乗る侠盗が事件に関与していると思われたが、新聞記者春田三吉は別の推理をする。

 

怪人呉博士

〜呉博士が発明した新型爆弾の合成式が行方不明になる。研究者押川三郎が探すことになるが…

 

出来ていた青

〜下宿屋でマダムが殺される。容疑者は3名したが、現場に残された花札の状況から新聞記者高野が犯人を推理する。

 

失恋第五番

失恋第六番

〜特攻隊の生き残り千田二郎が失恋をしながら事件に巻き込まれながらことを解決して行く物語。

 

 山本周五郎の書いたホームズということで読んでみた。

 冒頭の「シャーロック〜」が約150ページの中編であり、これがなかなか面白い。ホームズが日本で活躍するのも面白ければ、浮浪児凡太郎と日本語で会話しているのはもっと面白い。メインの事件は一つ〜宝玉奪還〜なのだが、出てくるエピソードがホームズ原作を知っている人間ならニヤリとさせるものばかり。凡太郎がBSIそのものだし、毒矢が出て来たり、最後にはあまり必然性を感じられない殺人事件が起きるが、これがまだらの紐そのものだったり。しかもラストでホームズは事件関係者の女性と結婚することを宣言しているし(笑 発表が1935年。おそらくパロディという言葉すらなかった時代だと思うが、それでもこれだけの作品が書かれていたことに驚くばかりである。

 「猫目石〜」は話そのものはどうでも良いのだが(笑 、途中注目すべき点が一つ。日本ルパンが宝石を盗むためにするトリックなのだが、警察の課長が部屋にこもっているところへ、当の本人が現れる。探偵役は部屋にいるのは偽物だと気付き捕まえるのだが、真実は後から来た方が偽物で〜日本ルパン〜だった、というもの。まさに「カリオストロの城」でルパンが銭形に仕掛けた罠そのものなのだ。ひょっとして宮崎さん、この話を読んだことがあるのかしら?

 最後の2編、「失恋〜」は特攻隊の生き残りが主人公。でありながらいつも女性にフラれてしまうというものだが、その一方で話そのものはまさにハードボイルドそのもの。事件展開や主人公の言動などがハードボイルドしまくりなのである。最後の解説によれば、日本でハードボイルドの翻訳ものが出版される前に書かれた小説、ということで、山本周五郎があちらの原文を読み書いたものではないかと推測されている。うーん、見事。時代小説の大家と言われているが、こんな才能もお持ちだったとは。

 いろいろと発見のある一冊でした。