本所おけら長屋 十七 畠山健二

●本所おけら長屋 十七 畠山健二

 

 「かえだま」
 おけら長屋が常連の酒場三祐の隣の杏屋の息子角太郎が幼馴染を殴り番屋へ連れて行かれる。角太郎は父を亡くし母お世津と二人暮らしだったが奉公先でも喧嘩をして辞めてしまうなど問題ばかり起こしていた。おけら長屋の皆は三祐で角太郎のことを心配していた。
 その三祐に三河の木綿問屋の手代作吉が訪ねてくる。作吉は母親を探していた。作吉の父三次郎は三河の織物屋音羽屋に勤めていたが、22年前に商いで江戸に出てきていた。その時横山町の長屋に住んでいたが、そこでお関と知り合い、作吉が生まれた。しかし父は3年江戸にいた後、三河に帰ることに。しかし作吉と二人で帰り、お関は江戸に残った。今回作吉は薩摩に店を出すことになり、江戸へはもう二度とくることはできないため、母親お関に一目会いたいと思っていた。
 話を聞いたおけら長屋の住民たちはお関探しを手伝うことに。しかし期限の3日。翌日平次親分が三祐に。吾妻橋近くで追い剥ぎがあり、近くにいた角太郎が番屋に連れて行かれたということだった。親分は角太郎が犯人ではないことはわかっていると言って皆を安心させる。しかしお世津は本人のため角太郎を番屋に置いておいてくれと頼む。
 3日目、お関は見つからない。三祐におけい婆さんがお関を知っているというお升婆さんを連れてやってくる。お升婆さんの話ではお関は4年前に亡くなっていた。話を聞いたおけら長屋の皆はお世津をお関の身代わりとすることに。店にやってきた作吉の前でお世津は母親として振る舞う。作吉も信じたのだが、そこへ角太郎がやってくる。作吉は、角太郎が幼馴染と喧嘩になったところを見ていた。角太郎は幼馴染がお世津の悪口を言ったため喧嘩になったのだった。奉公先を飛び出したのも同じ理由からだった。誤解が解けた角太郎はお世津と抱き合って涙する。
 おけら長屋の皆は作吉にお升婆さんから聞いた話を全て正直に話すことに。実は作吉は三次郎とお関の子供ではなかった。同じ長屋に住んでいた夫婦が赤ん坊を置いて逃げてしまい二人はその子供を作吉として育て始めたが、訳ありの女だったお関は人別帳にも名前がないため、一緒に三河に帰ることはできなかったのだ。しかし話を聞いた作吉はお世津が本当の母親だと思うことに。そして江戸を旅立っていった。しばらくして角太郎は奉公先に頭を下げ、また勤めることになっていた。

 「はんぶん」
 島田が廻船問屋戸田屋の用心棒として住み込むことになる。戸田屋には夫を亡くした若い後家さんがいるため、二人がデキているのではという噂がおけら長屋に流れる。お染は女たちにからかわれ、男たちは島田が戸田屋の主人となれば一緒に暮らせなくなると悲しむ。
 戸田屋の亡くなった主人卯平は火付盗賊改の与力根本伝三郎の幼馴染だった。島田は根本から戸田屋の後家お多江が命を狙われているらしいという話を聞き、用心棒として戸田屋に入った。お多江は二度ほど命を狙われていた。お多江は戸田屋を仕切っているが、卯平の弟鶴之助が身代を狙っているのではないかというのが根本の推理だった。島田は戸田屋で、お多江が奉公人お優を可愛がっていることや二番番頭庄吉が一番の古株ながら二番番頭でいることに不満を持っていることなどを調べ上げる。
 島田はお多江に、庄吉に聞こえる場でお優に明後日一人で待乳山聖天へ出かけると話して欲しいと頼み、根本にもそのことを知らせていた。お多江を狙う人間が狙いやすくするためだった。当日待乳山聖天でお多江を狙った男先吉を根本たちが捕まえる。それは鶴之助が雇った男だった。しかしお多江の行動を漏らしていたのは、庄吉ではなくお優だった。お優は先吉に弟を殺すと脅され、お多江の出先を伝えていたのだった。しかしお多江はお優を許す。
 事件が解決し島田はおけら長屋に戻ることに。しかしおけら長屋の皆は戸田屋の後家が島田との仲が上手く行かなくなり、追い出したと勘違いする。それを知ったお染は一人で戸田屋に乗り込み、お多江を非難。身に覚えのないお多江は戸惑うが、お染に真実を話す。


 「げんぺい」
 大洗磯浜の農家の三男三平は、農家での長男以外の男の扱いに不満を持ち、江戸で一旗揚げると家を飛び出し江戸へ向かう。
 三祐のお栄は三祐の主人晋助の息子源助と8年ぶりで再会する。8年前、父晋助が酒や博打に明け暮れていたため、源助は母お曽根が亡くなったのを機会に家を出ていた。源助は旅芸人として暮らしていたが、その一座がつぶれてしまい今は江戸に舞い戻ってきていたのだった。父晋助はその後真面目に店を切り盛りしていた。
 松吉の家に見世物小屋の田五郎が訪ねてくる。万松は以前貧乏神の件(おけら長屋16)で田五郎一座を儲けさせ、その後金太を使い大黒様の見世物を考え出したが大外れだったため、田五郎は他の案はないかと万松を訪ねてきていたのだった。そこへお栄が源助と三平を連れてやってくる。三平はお栄と源助が話をしていた茶店にお腹が空きすぎて倒れこんできたのを二人が団子を食わせ、松吉の家に連れてきたのだった。三平は自分の話をし始める。源助が相手をするが、二人のやりとりはちぐはぐで、聞いている万松やお栄は大爆笑。万松は二人のやりとりを見世物小屋に出すことを田五郎に提案する。
 二人のやりとりは見世物小屋で大人気となる。ある日、見世物小屋に興行の元締辰三郎がやってきて、二人を連れて全国を廻りたいと言い出す。二人は話を受け、見世物小屋での出し物が最後の日を迎える。お栄はそこへ源助の父晋助を連れて行き、舞台にあげる。舞台の上で源助は晋助を許すことに。そして二人は旅立って行く。


 「みなのこ」
 おけら長屋の久蔵とお梅の子供亀吉は本当の子供ではなく、お梅が湯屋で見知らぬ男に襲われできた子供だった。その亀吉が長桂寺でお竹の息子忠吉と遊んでいた時に、寺でボヤ騒ぎが起こる。お梅とお竹が目を離して戻ってくると忠吉が目に怪我をしていた。その場に他には亀吉しかおらず、お竹はお梅を非難する。二人は忠吉を聖庵堂へ連れて行く。聖庵の診察では目が見えなくなる可能性があるとのことだった。お梅はおけら長屋に帰る。長屋の皆は亀吉が怪我をさせるわけがないとお梅を慰める。家に帰ったお梅は久蔵に話をする。久蔵も亀吉がやったとは思わないが、寒天長屋に住むお竹と夫の恒太郎に謝りに行く。
 忠吉が怪我をした件はおけら長屋でも寒天長屋でも話題になった。ある時酒場で八五郎が寒天長屋に住む弥吉とそれが元で喧嘩となる。湯屋でも女たちが寒天長屋の女たちと喧嘩になる。久蔵は長桂寺で話を聞く。そして寺でよく遊んでいる筆職人の息子千太郎という子供がいることを聞き出す。
 事件のことが噂となり、奉行所の目安箱にも届けられ南町奉行桑原肥前守が知ることとなる。おけら長屋と面識がある桑原は一計を案じ、二つの長屋の大家と住民を呼び出す。そこで両方の言い分を聞くことにするが、どちらもやったやらないで言い争うことに。そこで久蔵が亀吉が忠吉に怪我をさせたと言い出す。皆は驚くが、桑原は筆職人の佐之助が息子千太郎が忠吉に怪我をさせたと申し出てきたことを告げる。そして久蔵に知っていること全てを話すように促す。
 久蔵は千太郎に会いに行き、カマをかけて話を全て聞き出していた。忠吉に怪我をさせたのは、千太郎だった。しかし子供相手にカマをかけて話を聞き出したことを後悔し、全て亀吉がやったことにする決意をし、お梅にも話していたのだった。桑原は久蔵こそが全ての子どものことを思った本物の父親だと話し、二つの長屋は手打ちをする。酒場で皆で飲むが、酒代をことでまた喧嘩を始めて酒屋に迷惑をかける。翌日大家徳兵衛の元に呼び出された皆だったが、そこへ久蔵が亀吉が言葉を喋ったと飛び込んでくる。

 

 半年ぶりにおけら長屋シリーズの最新作を読む。本作も4話構成、人情話3、滑稽話1という配分も前作と同じか。

 

 「かえだま」は2つの話をリンク。おなじみ三祐横の店杏屋の母息子の物語と三河から母親探しに来た男の話。2つの話が出てきた以上リンクすることは予想の範疇。もう一捻り欲しかった感もあるが、お世津が作吉の本当の母親のは無理筋だから、本作の展開が妥当なところか。嘘がバレた後の作吉のセリフが泣かせる。

 「はんぶん」は冒頭で少し驚かされる。これが本作2話目の話なのだが、冒頭で島田が長屋にいないことに触れられる。そう言えば、と1話目で島田が全く登場していないことに気づかされ驚かされる。このシリーズは島田がほとんどの話で事件解決に導く役割を担ってきていたからだ。島田が長屋からいなくなるかもしれないと気づいた長屋連中の気持ちにまず泣かされる。その後戸田屋の事件も無事解決する、だが長屋の連中、特にお染の行動言動にこれまた泣かされることに。

 「げんぺい」は人情噺もラストで入ってくるが、何より三平と源助のやりとりが笑わせてくれる。これまでこのシリーズの絶対的コメディリリーフは金太だったが、ここにきて新しいスターの登場を思わせる。話の展開で全国行脚に出てしまうようだが、またシリーズに戻ってきてほしいキャラ。

 「みなのこ」はこのシリーズ第3作で生まれた亀吉の物語。シリーズ第1作から3作でまだ頼りなかった亀吉の父親久蔵が見事な父親ぶりを見せる。もうそれだけでシリーズのファンとしては涙ものか。久しぶりに登場する奉行の桑原は第8作以来の登場か。前回も見事な裁きを見せたが今回も見事。

 

 前作の感想として、全体的にパワーが落ちたと書いたが、本作は以前のパワーを持ち直した感じがする。「はんぶん」でのお染、「げんぺい」での笑い、「みなのこ」での久蔵。半年ぶりに読んだせいもあるかもしれないが、やはりこのシリーズは面白い。長屋に絡む3組の男女の恋の行方も気になるし。

 最新作を楽しみに待ちたい。