スープ屋しずくの謎解き朝ごはん 子ども食堂と家族のおみそ汁 友井羊

●スープ屋しずくの謎解き朝ごはん 子ども食堂と家族のおみそ汁 友井羊

 前作に続きシリーズ第5作。フリーペーパーを作る会社に勤める理恵がスープがメインのお店しずくに通うようになる。その店の店主である麻野が探偵役となる短編集。以下の4編からなる。

 

子ども食堂とふさぎこむ少女の秘密」
 理恵がいたしずくに水野省吾が客としてやってくる。省吾は自分が手伝っている子ども食堂の見学に来ないかと麻野を誘う。露が興味を示し、理恵は露とともに行くことに。そこで中学生の女子真凛と琴美の言い争いを目撃する。
 真凛の母志真子がしずくへやってくる。志真子は母親との仲が悪く家を飛び出した経験を持っていた。後日麻野は子ども食堂の手伝いをすることに。そこで真凛の様子を見た麻野は真凛の家の秘密に気づく。麻野の推理で真凛の家のことがわかり、省吾はお礼にしずくへやってくる。その場で麻野は省吾の知識が他人からのものであることを指摘すると、省吾はそれが麻野の母夕月逢子のメモであることを告白する。

 

「揺れる香りは嘘をつかない」
 省吾は夕月の息子である麻野に会いに来たことを告白。夕月も子ども食堂を初めとする子どもを救うNPOに所属していること、今夕月が怪我をして意識不明で入院していること、などを話し、麻野に夕月を見舞うようお願いするが、麻野は返事を保留する。理恵は露からおばあちゃんに会いたいので、夕月が怪我をする前に取り組んでいたことを調べたいと話し理恵は協力することに。
 二人は省吾とともに赤羽鋼一と会う。彼は息子峻一虐待の疑いで峻一を児童相談所に奪われていた。鋼一はちょっと買い物に出て戻った際に峻一が病気となりそれを虐待だと疑われていた。理恵と露は鋼一の家を調べ麻野に相談する。麻野も現場に出向き、真相を解明する。

 


「夕焼けに消えた泥棒の謎」
 理恵は児童相談所の宮口珠代としずくで出会う。夕月は病院で意識を回復していた。理恵は夕月が取り組んでいたもう一つの案件、陣川剛秋のことを省吾から聞く。陣川も娘冬乃への虐待の疑いをかけられていた。陣川の家へ行くとそこで泥棒騒ぎが起こる。皆で泥棒を追いかけたが泥棒は姿を消してしまっていた。その直後、珠代が倒れて入院してしまう。珠代を見舞った理恵は珠代の息子佑と出会う。佑は母珠代のオーバーワークを心配していた。理恵は泥棒騒ぎのことを麻野に相談する。麻野は陣川の家へ急行する。

 

「非行少年の目的地」
 理恵たちは省吾は夕月が倒れた河原を調べていた。そこで喬太郎と出会う。京太郎は夕月が取り組んでいた非行少年だった。彼は母親に反発していた。一方、真凛が入院したという知らせを受けた露はお見舞いに行き、真凛の様子をみてショックを受ける。そんな時喬太郎が1歳半の妹にタバコの火を押し付けるという事件を起こす。喬太郎は施設に保護されるが、喬太郎真凛がそれぞれ脱走したことが知らされる。麻野は喬太郎のことを知る夕月に連絡、知っていることを聞く。そして二人が行きたがっていたというスカイツリーへ向かう。

 

 前作の最後で、通常のパターンとは異なるエピローグまでつけて麻野と理恵の仲を期待させてくれたので期待して読んだのだが(笑

 1話目で子ども食堂のスタッフ省吾がしずくの客としてやってくるが、本当の目的は、麻野の母夕月と麻野を引き合わせることだった。必然的に麻野や理恵、露は子ども食堂と関係を持っていくことになり、それと並行して麻野の母であり、子ども食堂とも関係していた夕月の怪我の謎解明のため、児童相談所とも関係を深めていく。そんな中で4つの事件?を麻野が解決していく展開となっている。

 

 麻野と夕月との関係を再確認するために、もう一度シリーズ第1作の最終話を読み直した。初めて読んだシリーズだったこと、最終話だけ話の構成が過去と現在を行き来するスタイルだったこと、麻野の妻静句の生前の様子、などがエピソードが盛りだくさんだったこともあり、麻野の母夕月の印象が薄かったが、読み直してみるとやはりヒドい母親だったことがわかる一方で、やはり第1作の完成度の高さを改めて知る良い機会となった。第1作のみで映画化もできそうだと感じる。

 そんな母親を麻野が許すことができるかどうか、が本作のテーマ。最終章で起きる事件の鍵を知っている夕月、彼女自身が怪我をした謎も明かされ、わずかではあるが麻野と夕月の関係性が再構築されそうになりエンディング。

 期待していた麻野と理恵の仲の進展はお預けとなった感じだが、シリーズ最初から取り組んでいる親子関係というテーマについては、児童相談所のリアルな姿まで描くなどしてより深みを増してきている。

 麻野の母親問題も解決、今後のシリーズの展開もますます楽しみになってきた。